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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

2020-04-30 Cell 誌に採録されたことから,その書誌情報を追記: "Development of CRISPR as a prophylactic strategy to combat novel coronavirus and influenza" Abbott TR, Dhamdhere G, Liu Y, Lin X, Goudy L [..]  La Russa M, Lewis DB, Qi LS. Cell 2020-04-29.
2020-03-18 「CRISPR PAC-MANの実証実験」の項に、アビガンへのリンク [***]を追加
2020-03-17 初稿

[出典] "Development of CRISPR as a prophylactic strategy to combat novel coronavirus and influenza" Abbott TR, Dhamdhere G, Liu Y, Lin X, Goudy L [..]  La Russa M, Lewis DB, Qi LS. bioRxiv 2020-03-14. (査読無し投稿); Standird U, provisional application (仮特許出願)済
[crisp_bio注] 以下のテキストはbioRxiv投稿に準拠している

 UCSF在籍時のCRISPRi (Cell, 2013)に始まり, CRIPR-GOなどのCRISPRツールボックスを精力的に開発してきているStanford UniversityのLei S. Qiが率いる研究グループはRuminococcus flavefaciens XPD3002由来Cas13(CasRx) [*] に基づいて、SARS-CoV-2とインフルエンザAVウイルス (IAV)のゲノムの増殖・感染を阻害するPAC-MAN (Prophylactic Antiviral CRISPR in huMAN cells)を開発し、bioRxivに投稿した。

SARS-CoV-2の侵入から増殖までのステップ(仮説)
  1. スパイクとヒト細胞の受容体ACE2との結合を介して侵入
  2. ゲノムRNAをエンベロープ内からヒト細胞質内へ放出
  3. プラス鎖ゲノムRNAから相補性のマイナス鎖RNAを複製
  4. マイナス鎖RNAから数本のサブゲノムRNAsがmRNAへと転写され、サブゲノムがそれぞれスパイクなどのタンパク質へと翻訳される
  5. マイナス鎖ゲノムRNAからは、プラス鎖ゲノムRNAの複製も進行する
  6. 一連のタンパク質とプラス鎖ゲノムRNAからウイルス粒子形成されヒト細胞から放出
Cas13dは各ステップ多重に阻害することで、ウイルス粒子の形成と放出を阻害する
  • ステップ1で、ウイルスゲノムRNAを分解し遺伝子発現を阻害する。
  • ステップ4で、ウイルスmRNAsを分解し遺伝子発現を阻害する。
  • ステップ5で、プラス鎖ゲノムRNAを分解する。
  • ウイルス粒子形成の阻害に至る。
Casa13d-crRNAの標的同定
  • 47名の感染者由来のSARS-CoV-2のゲノム配列とSARS-CoVおよびMERS-CoVのゲノム配列とアライメントからin silicoで、SARS-CoV-2ゲノム保存領域2ヶ所同定:ORF1ab [**]に位置しているRNA依存性RNAポリメラーゼRdRp遺伝子;ヌクレオカプシド (N)遺伝子
CRISPR PAC-MANの実証実験
  • レンチウイルスを介して予めCas13dを導入したA549ヒト肺上皮細胞株に、RdRpNをそれぞれ標的とするcrRNAのプールを導入し、続いて、 RdRpまたはRdRpとNの双方をGFPで標識したレポータSARSCoV-2をプラスミドまたはレンチウイルスで導入し、24~48時間後に遺伝子発現とRNAレベルを測定し、SARS-CoV-2のA549細胞内での発現を有効に阻害するcrRNAsを同定した。
  • 投稿前には、SARS-CoV-2分離株を入手できなかったためSARS-CoV-2の合成ゲノムで実験を進めたことから、H1N1 IAV分離株での検証を行った。SARS-CoV-2と同様の手順で進め、NA遺伝子を標的とするcrRNAsによってIAVのA549細胞への感染を有効に阻害可能なことを同定した。
  • エボラ出血熱とマールブルグウイルス感染症の治療薬として開発され、SARS-CoV-2でもテストされている (clinical trial ID NCT04280705)ギリアド社のレムデシビルはRdRp阻害剤である。
  • [***] 抗インフルエンザウイルス剤であり、SARS-CoVに対して一定の効果が報告されたアビガン (ファビピラビル/Favipiravir)もRdRpを阻害する。
  • インフルエンザ治療薬タミフル (オセルタミビル)は、NA阻害剤である。
汎-コロナウイルス阻害
  • 3,051種類のコロナウイルス・ゲノム配列から、それぞれを標的するcrRNAsのべ~648万種類を同定した上で、~50%を標的可能な2種類のcrRNAsセット、~91%を標的可能な6種類のcrRNAsセット (PC-MAN-T6)、および、全てを標的可能な22種類のcrRNAsセットを同定した。
Cas13d関連crisp_bio記事
  • [**] crisp_bio 2020-02-23 新型コロナウイルスのCas13dによるin vivo治療の可能性: ORF1abとスパイクを標的とするcrRNAセットを利用
  • crisp_bio 2020-01-15 CRISPR-Cas13dによるmRNAのノックダウンを、動物の胚in vivoにおいて実証
  • crisp_bio 2019-12-30 Cas13dによるRNAノックダウンに最適なcrRNAsの設計モデルを構築
  • CRISPRメモ_2019/06/13-1 #1 X線結晶構造解析によるCas13dの構造機能解析
  • [*] crisp_bio 2018-03-17 これまでで最小かつヒト細胞で活性なCas13dの同定と解析2報:  Cas13(CasRx)
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