出典
成果- "Massively parallel Cas13 screens reveal principles for guide RNA design" Wessels HH, Méndez-Mancilla A [..] Sanjana NE. Nat Biotechnol 2020-03-16.
- PRESS RELEASE: "New genetic screening platform using crispr technology for targeting thousands of genes in a massively-parallel fashion" New York Genome Center. 2020-03-16.
- タイプVI CRISPRシステムのCas13はRNAを標的とし、ゲノムを改変することなく、標的遺伝子のノックダウンを可能とする (Cas13の基礎から応用まで、"crisp_bioコレクション: Cas13"参照)。
- Cas13を標的へと誘導するCRISPR RNA (crRNA)は、直列反復 (DR)するステムループとスペーサ配列 (gRNA)で構成され、 Cas13はCas9とは異なりtracrRNAを必要としない。
- New York Genome Center/NYUの研究グループは今回、ヒト細胞内に存在する100,000種類ともいわれるRNAsの中から、標的RNAを精度良くかつ効率良くノックダウンするに最適なCas13 crRNAの設計を実現した。
概要
- Cas13dの中でRfxCas13d (別名 CasRx)を選択し [注1*]、外来レポータ遺伝子 (GFP)、ならびに、抗体染色とフロサイトメトリーを介して容易にそのノックダウンを測定可能な細胞表面タンパク質 (CD46, CD55, およびCD71)ヒト細胞表面タンパク質 (CD46, CD55, およびCD71)のmRNAsを標的とする超並列スクリーンを、HEK293細胞株にて、実行した。
- GFPを標的とするスクリーニングでは、そのmRNAを埋め尽くす(タイリング)crRNAs [注2*]について、編集活性を測定した。
- ヒト細胞表面タンパク質mRNAsについても、GFP mRNAの場合と同様なcrRNAsスクリーンを行い、のべ24,460種類のcrRNAsを評価した。
- 一連のスクリーンの結果、23-nt〜30-ntの長さのgRNAを組み合わせた場合にノックダウン効率が最も高くなること、および、RNAとの完全一致を必要とするcrRNA上の領域 (シード領域: 15から21の領域)を同定した [注3*]。
- Cas13d-crRNAによるノックダウンが、crRNAの長さや標的RNAとのミスマッチなどとともに、標的RNAのコンテクスト (コーディング領域、5'UTRまたは3'UTR)に依存することも明らかになった。
- このスクリーンから得られたデータに基づいて、機械学習 (ランダムフォレスト)によりcrRNAs予測モデルを構築し、そのプログラム・コードをgitlab (Project ID 12509555) から公開した。
- また、ヒトゲノムにおいてタンパク質コーディング領域からの転写物全てに対するcrRNAsを予測し、対話型検索可能なデータベースとして公開した [Cas13 Guide Design Resource]
特記:新型コロナウイルス RNAゲノムに対する効果的crRNAsも同定
- Nature Biotechnology論文には記述されていないが、研究グループは、ニューヨーク (イランから帰国した感染者)で分離された新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)のRNAゲノムにcrRNA予測モデルを適用し、その検出と治療に利用可能なcrRNAs (gRNAs)を同定し、gitlabから公開した。
- この新型コロナウイルスのGISAID登録番号はEPI_ISL_414476であり、武漢でのオリジナルの分離株に対して、3種類の塩基置換 (G3243A, C25214T, G29027T)/2種類のアミノ酸置換 (N: A252S, ORF1a: G993S)を起こしていた [SARS-CoV-2 RNAゲノムは、ORF1ab, S, ORF3a, E, M, ORF6, ORF7a, ORF8, N, ORF10の10種類の遺伝子を帯びている]
- Cas13dedignWebサイトはこちら (画面の一部を以下に引用)
(*) 注
- ノックダウン効率が高くオフターゲット活性がミニマムなCas13エフェクターとしてこれまでにPguCas13b, PspCas13b, およびRfxCas13d、の3種類が知られていたが、外部から細胞質または核内に導入したGFP mRNAのノックダウンを評価した結果、RfxCas13d (別名 CasRx)が最も高活性であった。特に、核局在シグナル配列 (NLS)結合した場合には、顕著に高活性であった。
- 標的RNAsと完全一致または1/2/3ミスマッチを帯びたcrRNAsおよびダミーを含む総数7,500種類を評価した。
- シード領域に基づいて、高感度なバイオセンサーを設計可能である。
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