[出典] "Broad-spectrum anti-CRISPR proteins facilitate horizontal gene transfer" Mahendra C [..] Bondy Denomy J. Nat Microbiol 2020-03-26

 バクテリアとアーケアはCRISPR-Cas獲得免疫システムを備えることで、バクテリオファージ/ウイルスとプラスミドを含む遺伝的パラサイトの侵入に対抗する。一方で、ファージの多くが、この免疫システムを阻害するanti-CRISPR (Acr)タンパク質を備えている。

 Acr遺伝子はこれまで専らファージまたはプロファージのゲノムで発見されてきたが、Joseph Bondy-Denomyらは、ファーミキューテス (Firmicutes)門のバクテリアに内在するプラスミドなどの可動性遺伝因子 (conjugative elements)がacr遺伝子座を帯びていることを、Listeria acrIIA遺伝子をマーカとして発見した。
  • Listeria, Enterococcus, StreptococcusおよびStaphylococcusの各属から4種類のacr遺伝子を発見し、タイプII-A SpyCas9またはSauCas9を阻害することを同定し、acrIIA16–19と命名した。
  • Enterococcus faecalisでは、Enterococcus可動性遺伝因子に由来するAcrsを介してCas9の標的となったプラスミドの接合が亢進されていた。すなわち、Acrsがプラスミド拡散に一役かっていることが示された。
  • 共免疫沈降法により、各Acrタンパク質が、Cas9と複合体を形成することで、Cas9が失活すること同定し、ノーザンブロッティングにより、gRNAの長さ、ローディングまたは安定性に影響を与えることが示唆する結果を得た。
  • また、これらのAcrタンパク質が、バクテリア細胞内と同様に、ヒト細胞においても、広汎なCas9タンパク質を阻害することを同定した [例:SpyCas9, SauCas9, SthCas9, NmeCas9およびCjeCas9]。
 ファージ由来ではないAcrタンパク質に注目した解析から、Acrタンパク質が広汎なCRISPR−Cas9システムを阻害することで遺伝子水平伝播を亢進するモデルを支持する結果が得られた。

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