[出典] "Regulation of the RNA and DNA nuclease activities required for Pyrococcus furiosus Type III-B CRISPR–Cas immunity" Foster K [..] Terns MP. Nucleic Acids Res 2020-03-21.
概要
- タイプIII CRISPR-Cas (サブタイプ: III-AとIII-B)の獲得免疫応答システムには、RNA分解活性とDNA分解活性を共に備えている特徴がある。
- U Georgia, U St AndrewsおよびJHUの研究グループは今回、Pyrococcus furiosus (Pfu)のタイプIII-B CRISPR-Casシステムを対象とする解析によって、タイプIIIシステムのRNA/DNA分解の機構の多様性を示した。
タイプIII-B CRISPR-Casシステムの概要
- タイプIII-B CRISPR-Casシステムのエフェクターは、6種類のCasタンパク質 (Cmr1 - 6)と単一のcrRNA鎖で構成されている複合体である (以下、crRNP)。
- エフェクタ内crRNA鎖は、5'末端の長さ8-ntのリピート配列 (以下、5'crRNAタグ)に、標的RNAのプロトスペーサと対合する長さ~30-40 ntのガイド配列が続くRNA鎖である。
- 5'crRNAタグにCmr3 (Cas7スーパーファミリー)が直接結合し、それに続く4連のCmr4 (Cas7スーパーファミリー)が、標的RNAを切断するエンドリボヌクレアーゼとして機能する。4連のCmr4は、三連のCmr5 (Cas11スーパーファミリー)に裏打ちされる形になっている。
- crRNAの3'末端にはCmr4とは異なるCas7スーパーファミリーのCmr1とCmr6が結合している。
- エフェクタcrRNPの左端 (crRNAの5'近く)に、Cmr2 (Cas10スーパーファミリー)が位置している。このCmr2は、ssDNAの切断モチーフを帯びたHDドメインと、ATPをサイクリックオリゴアデニル酸 (cOA)へと変換するGGDDモチーフを帯びたPalmドメインが存在する。
- タイプIII-Bシステムは、エフェクタcrRNPに加えて、トランスに作用するリボヌクレアーゼCsx1 (タイプIII-AのCsm6に相当)を帯びている。Csx1には、HEPN (Higher Eukaryotes and Prokaryotes Nucleotide binding)とCARF (CRISPR Associated Rossman Fold) の2種類のドメインが存在し、HEPNドメイン内のHEPNモチーフが外来RNAsと共に内在RNAsを非選択的に切断するリボヌクレアーゼ活性を担う。
タイプIII-B crRNPの抗ウイルス/抗プラスミド免疫応答
この免疫応答は侵入DNAのRNAへの転写に依存して進行する:crRNPエフェクタがcrRNAを介して標的RNAに結合し、そのコンフォーメーション変化に伴って、Cmr4が標的RNAを切断し、Cmr2のHDドメインが近傍の侵入ssDNAと短いdsDNAの両鎖を切断し、Cmr2のPalmドメインのGGDDモチーフを介してATPから生成されるcOAが二次情報伝達分子としてCsx1に結合し、そのHEPNリボヌクレアーゼ活性が発揮され、侵入RNAを分解する。
この免疫応答は侵入DNAのRNAへの転写に依存して進行する:crRNPエフェクタがcrRNAを介して標的RNAに結合し、そのコンフォーメーション変化に伴って、Cmr4が標的RNAを切断し、Cmr2のHDドメインが近傍の侵入ssDNAと短いdsDNAの両鎖を切断し、Cmr2のPalmドメインのGGDDモチーフを介してATPから生成されるcOAが二次情報伝達分子としてCsx1に結合し、そのHEPNリボヌクレアーゼ活性が発揮され、侵入RNAを分解する。
DNアーゼとRNアーゼの活性制御
- 二次情報伝達分子のシグナルで活性化されたHEPNドメインは、周辺の内在RNAも無差別に分解することから、侵入DNA/RNAに対する免疫応答が進行中の間、細胞休眠や細胞死を回避する制御機構が存在するはずである。これまでの研究から、crRNAの標的RNAプロトスペーサの3'末端に隣接する配列 (protospacer flanking sequences, PFS)が存在し、これがタイプIIIの活性の鍵を握っているとされている (PFSについて、Figure 6引用下図の A 参照)。
- すなわち、PFSが5'crRNAタグと完全一致する場合は、Cmr4による標的RNAの分解が進行するが、DNアーゼとcOA生成は活性化されず、5'crRNAタグとPFSの結合は、タイプIII活性の一部を負に制御することが示唆されている。
- また、PFSと5'crRNAタグとの対合とは独立に、標的RNAの中でプロトスペーサの3'末端から標的RNAの3'末端に向けての3塩基が、DNアーゼとcOA生成の活性化に決定的な役割を果たすとする報告もされている。すなわち、標的RNAのPFSがcrRNA5'末端側のCmr2そしてまたはCmr3に影響を与えることが示唆されている。
- Cmr4がRNAプロトスペーサを切断し、免疫応答を引き起こすトリガーであった標的RNAが分解されると、DNアーゼとcOA生成の活性はスイッチオフされるが、その他のスイッチ・オフ機構も報告されている。すなわち、Csx1のCARFドメインによるcOA分子の分解、または、Sulfolobus solfataricusでは、cOAを分解する新たなタンパク質'RING nuclease'が発見されている。
- タイプIII-Bシステムのプラスミドとウイルスに対する免疫応答に対するCmr2のDNアーゼとCsx1のRNアーゼの必要性が微生物種によって異なっていた。研究グループは先行研究で、Cmr2のHDへの変異導入、Cmr2のPalmドメインのGGDDへの変異導入、またはcsx1遺伝子ノックアウトの単独ではプラスミドに対する免疫応答に影響しないが、HDとPalm双方への変異導入によって免疫応答が失われることを見出していた。
- 研究グループは始めに、Cmr crRNP複合体の野生型と変異体 (Cmr2-HD.m, Cmr2-Palm.m, Cmr4-D26NおよびCmr2-HD.m/Palm.m)のin vitro/in vivo活性アッセイから、Csx1 RNアーゼかまたはCmr2DNアーゼのどちらか一方だけで、プラスミドに対する免疫応答に十分であることを確認した (したがって、csx1遺伝子をノックアウトしても免疫応答に大きく影響することがない)。
- 次に、cOAが、変異が導入されていない野生型のCmr2 PalmでのATP変換を介して生成されること、このcOA (主としてcyclic-tetraadenylate/cA4)がCsx1のCARFドメインに結合することでCARFのRNアーゼ活性が発揮されることを確認した。
- タイプIII crRNPs (Cmr2)による二次情報伝達分子cOAsの生成が始まった後、宿主細胞の休眠または細胞死を回避する機構については、S. solfataricusにおいては、Csx1とは異なるCARFドメインを帯びた'RING nuclease'がcOAを介したCsx1活性を阻害し、また、Csx1はcOA分解活性を帯びていないことが、報告された。一方で、Thermococcus onnurineusのタイプIII-AではタイプIII-BのCsx1に対応するCsm6のCARFドメインが、cA4への結合とcA4の分解の機能を備えていることが報告された。研究グループは今回、新たに、'RING nuclease'がは存在せず、PfuのCsx1が、そのHEPNのアデノシン特異的なRNアーゼの活性部位を介して、cOAを切断し不活性化することを見出した。
- 研究グループはさらに、PFS (5'-3')の3塩基の配列に、Cmr2を介したDNアーゼの活性とcOA生成の活性化が依存するが、両者の依存性が一致する配列がある一方で、異なる依存性を示す配列も存在することを同定した。
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