1. ワインの香りをCRISPR技術で調合する
[出典] "Blending wine yeast phenotypes with the aid of CRISPR DNA editing technologies" Van Wyk N [..] Pretorius IS. Int J Food Microbiol 2020-03-25.
 Macquarie UniversityとHochschule Geisenheim Universityのオーストリア・独の研究グループが、CRISPR技術でワイン酵母におけるグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ1 (GPD1)とアルコールアセチルトランスフェラーゼ (ATF1)の発現を亢進することで、酢酸レベルを大幅に抑制した。

2. リコンビナーゼ依存発現制御を組み込んだSaCas9-sgRNAのコンストラクトを単一AAVでデリバリー
[出典] "Conditional Single Vector CRISPR/SaCas9 Viruses for Efficient Mutagenesis in the Adult Mouse Nervous System" Hunker AC [..] Zweifel LS. Cell Rep 2020-03-24
  • U Wasingtonの研究グループは、SpCas9に替えてSaCas9を利用し、loxPを1セットにすることで、表題を実現し、Cre-またはFlp-ドライバーを組み込んだマウス系統において、Cre-loxP組換え技術による条件付き変異誘発と同程度の効率で、組織特異的な条件付き遺伝子ノックアウトが可能なことを実証した。
  • 具体的には、成体マウスの神経系において、GABA作動性、グルタミン酸作動性、およびモノアミン作動性の神経伝達の解析が可能なことを示し、また、多重編集によって、特定な神経回路に特異的な遺伝子機能の解析も可能なことも示した。
  • FloxとCRISPRの融合関連crisp_bio記事: CRISPRメモ_2017/08/15 #1 Floxマウスの効率的作出
3. ゼブラフィッシュにおけるslc25a46変異の遺伝的代償: F0 CRISPR変異誘発による遺伝子疾患に見られるフェノタイプの解析
[出典] "Genetic compensation in a stable slc25a46 mutant zebrafish: A case for using F0 CRISPR mutagenesis to study phenotypes caused by inherited disease" Buglo E et al. PLoS One 2020-03-24
  • 病因変異が症状として顕れない現象はgenetic compensation (遺伝的代償: 以下、GC)の典型例である。冗長な遺伝子の発現亢進の他に、多様そしてまたは複雑な機構が考えられること、および、genetic compensationの定義がさまざまあるため、U Miami, University of UtahおよびYale Uの研究グループは、はじめに、用語を定義した (Table 1 Term definitions)2020-03-31 22.05.33
  • その上で、ゼブラフィッシュにおいて、遺伝子ノックダウンとそのフェノタイプが整合しない報告が増えているとし、その欠損が末梢神経障害、視神経萎縮、小脳性運動失調などの疾患と相関するslc25a46遺伝子をモデルとして、GCの機序を探った。
  • CRISPR/Cas9技術により作出したゼブラフィッシュのF0モザイク変異体 (著者らはこれを"crispnat"と称した)とF0世代から作出したslc25a46ホモ型変異モデルを比較し、F0世代では遺伝型に対応するフェノタイプの変化が見られたが、後者では、フェノタイプに異常が見られず、GCが発生したことが示唆された。
  • 続いて、mRNAシーケンシングの比較から両者の間で遺伝子発現プロファイルに明確な差異があることを見出し、代謝または発生のネットワークを介したGCが発生したと推定した。最も顕著な変化が見られたmRNAは、ミトコンドリアの形態形成に関与することが知られているanxa6遺伝子であった。