[出典] "A highly conserved cryptic epitope in the receptor-binding domains of SARS-CoV-2 and SARS-CoV" Yuan M, Wu NC [..] Mok CKP, Wilson IA. Science 2020 May 8;368(6491):630-633. Published online 2020-04-03. < bioRxiv 2020-03-14.
[構造情報] 6W41 Crystal structure of SARS-CoV-2 receptor binding domain in complex with human antibody CR3022 (3.084 Å)
[構造情報] 6W41 Crystal structure of SARS-CoV-2 receptor binding domain in complex with human antibody CR3022 (3.084 Å)
スクリプス研究所に香港大学が加わった研究グループは、ウイルスの抗原性を明らかにすることを目的として、SARS-CoV感染症から回復した患者から2006年に分離されたSARS-CoVに対する中和抗体 CR3022 [参考 1]と、SARS-CoV-2のスパイク (S)タンパク質の受容体結合ドメイン (receptor-binding domain: RBD)との複合体構造を、クライオ電顕法により3.1 Å分解能で再構成した。
- SARS-CoV-2とSARS-CoVのSタンパク質のアミノ酸配列の同一性は~77%であり、両者に交差反応するエピトープが存在することを示唆していた。研究グループは、2020年2月にCR3022がSARS-CoV-2のRBDに結合することが報告された [参考 2]ことから、交差反応をもたらすエピトープの同定を目指して、SARS-CoV-2 Sタンパク質のRBDとCR3022の複合体構造を決定した [bioRxiv版Fig. 1引用下図参照]。
- CR3022の結合によって埋もれたRBDの28残基 (エピトープ)の86%にあたる24残基がSARS-CoV-2とSARS-CoVの間で共通していることを同定し、CR3022がSARS-CoV-2およびSARS-CoVと交差反応する構造基盤を明らかにした。エピトープの配列の間には高い保存性が見られたのに対して、CR3022のFab領域の結合親和性には、SARS-CoV RBD: Kd = 1 nMと、SARS-CoV-2 RBD: Kd = 115 nM と大きな差があった。また、この結合親和性の差が、特定のアミノ酸残基のN-結合型グリコシル化の違いに起因することが示唆された。
- SARS-CoV-2とSARS-CoVは共に、ヒト細胞表面受容体ACE2に結合するが、その結合サイトは、CR3022のACE2結合サイトとは異なり、互いに遠位に位置していた。 さらに、CR3022-SARS-CoV-2 RBD複合体とACE2-SARS-CoV-2 RBD複合体のアライメントから、CR3022はACE2と衝突しないことが明らかになった。CR3022と異なり、SARS RBDを標的とするほとんどの抗体は、ACE2のRBDへの結合を競合阻害する。
- CR3022が他のRBD標的抗体と協働してSARS-CoVを中和することが報告されている。今回の実験では、CR3022はSARS-CoV-2を中和するに至らなかったが、他のSARS-CoV-2 RBD標的抗体との協働作用で、SARS-CoV-2 を中和するか興味深い。また、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、デングウイルスなどに対して、in vitroでは中和抗体として機能しないがin vivoでは中和抗体として機能する抗体が報告されてきていることから、マウスin vivoでのCR3022の活性も興味深い
- CR3022のエピトープへの結合機序の詳細については、WrappらのScience論文 [参考 3]が提案したように、三量体を形成しているSタンパク質の3ヶ所のRBDのうち少なくとも2ヶ所が"up"コンフォメーションをとることで、アクセス可能になるサイトであるとした [bioRxiv版Fig. 3引用下図のEまたはF]。
- CR3022同定論文 "Human monoclonal antibody combination against SARS coronavirus: synergy and coverage of escape mutants" : ter Meulen J, van den Brink EN, Poon LLM, Marissen WE, Leung CSW et al. PLoS Med 2006-07-04; REVIEW "Perspectives on therapeutic neutralizing antibodies against the Novel Coronavirus SARS-CoV-2" Zhou G, Zhao Q. Int J Biol Sci 2020-03-15. [ SARS-CoVに対する中和抗体のリストをTable 1 から下図に引用]
- "Potent binding of 2019 novel coronavirus spike protein by a SARS coronavirus-specific human monoclonal antibody" Tian X et al. Emerg. Microbes Infect. 2020-02-17.
- crisp_bio 2020-02-22 新型コロナウイルスのスパイク糖タンパク質 (S)の構造、機能および抗原性
- crisp_bio 2020-02-21 新型コロナウイルスのスパイク糖タンパク質 (S)とヒト細胞受容体ACE2との複合体クライオ電顕構造
- crisp_bio 2020-02-16 新型コロナウイルスのスパイク糖タンパク質 (S)のクライオ電顕構造
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