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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

COVID-19感染タイムライン2020-06-19 塩基エディターの始祖であるDavid R. Liu氏がツイッターで公開したCOVID19/SARS-CoV-2の発症5日前から2週間以上にわたる症状、感染力、各種検査に対する応答、および情報源をまとめた図 (右図は国立遺伝学研究所川上浩一教授による和訳版)において, SARS-CoV-2に対する抗体 (IgMとIgG)の応答が最下段に示されているが、抗体が維持される期間は未だ特定されていない:
2020-04-10 初稿
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[出典] "Neutralizing antibody responses to SARS-CoV-2 in a COVID-19 recovered patient cohort and their implications" Wu F [..] Huang J. medRxiv 2020-04-06

 復旦大学の上海公衆衛生クリニカルセンター・分子ウイルス医学国家重点研究室 (Shanghai Public Health Clinical Center and Key Laboratory of Medical Molecular Virology)が、軽症* (mild symptoms)のCOVID-19から回復した175名の血漿を分析した結果をmedRxiv (査読なし)に投稿した。
(*) なお、JAMA論文 (2020-02-24)によると、感染者の81%が軽症であり、14%が重症、5 % (特に、60代以上または基礎疾患を帯びている感染者)が危篤に至り、3.4%が呼吸器不全または多臓器不全で死亡する

 著者らは、レンチウイルスを基にしたシュードタイプウイルスを利用して 、抗体の中和活性を安全かつ感度良くアッセイした。なお、今回の解析では、重症または危篤状態の感染者を対象としなかった。受動的抗体療法を受けていたためである。
  • スパイク(S)タンパク質に結合する抗体の、SARS-CoV-2のSタンパク質の受容体結合ドメイン (RBD)、S1サブユニットおよびS2サブユニットへの結合性をELISAで決定した。また、SARS-CoV-2に特異的な中和抗体 [以下、NAbs (neutralizing antibodies)]およびSタンパク質に結合する抗体のレベルとタイムコースを測定した。
  • NAbsは、SARS-CoV (2003年)とは交差しなかった。
  • NAbsは、COVID-19の症状が顕れてから10-15日経過してから検出された。
  • NAbsの抗体価は、S1, RBDおよびS2を標的としてSタンパク質に結合する抗体と相関し、患者ごとに異なった。
  • 老年と中年 (40~85歳)のNAb抗体価が、若年者 (15-39歳)のそれよりも顕著に高かった。
  • NAbs検出限界未満 (IC50: <40)の患者が10名存在した一方で、2名の患者が極めて高い抗体価を示した (ID50: 15989と21567)。
  • 血漿のC反応性タンパク質 (CRP)のレベルと正に相関し、リンパ球数とは負に相関し、液性免疫応答と細胞性免疫応答との相関が示唆された。
 今回得られた結果から、効果的なワクチン開発のために、抗体価と年齢、リンパ球数および血中CRPレベルとの相関関係について解析を深める必要がある。また、回復期血漿療法を進めるにあたり、抗体価の測定が必須であることが、改めて、明確になった。

 また、
NAbsがウイルスの排除やCOVID-19の進行に与える作用を明らかにするためには、重症・危篤状態の患者を対象とする研究が必要である。

[SARS-CoV-2抗体関連crisp_bio記事]
  • 2020-03-20 新型コロナウイルス:ELISAによるSARS-CoV-2に対する抗体検出を実現: "A serological assay to detect SARS-CoV-2 seroconversion in human" Amanat F [..] Krammer F. medRxiv 2020-03-18.
  • 2020-03-14 新型コロナウイルス:SARS-CoV-2の感染を阻害し中和するヒト・モノクローナル抗体を作出: "A human monoclonal antibody blocking SARS-CoV-2 infection" Wang C, Li W, Drabek D [..] Grosveld F, Bosch BJ. bioRxiv 2020-03-12.
  • 2020-03-14 新型コロナウイルス:血清療法で凌ぎつつ、抗体とワクチンを待つ: "The convalescent sera option for containing COVID-19" Casadevall A, Pirofski L. J Clin Invest 2020-03-13
[SARS-CoV-2抗体関連bioRxiv投稿]

 1. "Potent human neutralizing antibodies elicited by SARS-CoV-2 infection" Ju B,  Zahng Q [..] Zhang Z, Zhang L. bioRxiv 2020-03-26
  • 深セン市第三人民医院、清華大学などの研究グループは、SARS−CoV−2感染者8名のB細胞から、単一細胞発現クローニング法によって、SARS-CoV-2のRBDに特異的な206種類のモノクローナル抗体 (mAbs)を分離した。
  • 1名の患者に由来するmAbsについて詳細に解析し、シュードタイプウイルスまたはSARS-CoV-2自体に対する顕著な結合親和性と中和活性を同定した。
  • SARS-CoV-2感染患者の血漿とmAbsは、SARS-CoVまたはMERS-CoV由来のRBDsとは交差反応しないが、血漿はSARS-CoVまたはMERS-CoV由来の三量体Sタンパク質と交差反応した
2. "Fully human single-domain antibodies against SARS-CoV-2" Wu Y [..] Ying T. bioRxiv 2020-03-31.
  • 復旦大学分子ウイルス医学国家重点研究室の研究グループは、ファージディスプレイ法によって作製した単鎖完全ヒト抗体ライブラリーから、SARS-CoV-2のRBDにサブナノモルから低ナノモルの親和性で結合する一連の抗体を同定し、その中で、シュードタイプウイルスまたはSARS-CoV-2自体を中和する抗体を発見した。
  • SARS-CoV-2の抗原性が、SARS-CoVとMERS-CoVのそれに対して独特であることも見出した。
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