2023-01-07 日本薬理学会誌特集号「若手研究者が切り開く神経変性疾患研究の最前線」掲載論文書誌情報を追記しブログ記事タイトルを「CIB1の欠損がγセクレターゼのAβペプチド産生を亢進する - CRISPR/Cas9スクリーンとAD患者データから」から「CRISPR-Cas9システムを用いた新規Aβ産生制御因子の同定と解析」へと更新
[出典] "CRISPR-Cas9システムを用いた新規Aβ産生制御因子の同定と解析" 富澤 郁美, 邱 詠玟, 堀 由起子, 富田 泰輔. 日本薬理学雑誌 158 巻 (2023) 1 号 p. 21-25. https://doi.org/10.1254/fpj.22081
2020-04-23 FASEB J 掲載論文に準拠した初稿
[出典] "Identification of calcium and integrin-binding protein 1 as a novel regulator of production of amyloid β peptide using CRISPR/Cas9-based screening system" 邱 詠玟/Chiu YW, 堀 由起子/Hori Y [..] 富田 泰輔/Tomita T. FASEB J 2020-04-19.
[注] CIB1 (calcium and integrin binding protein 1); Aβペプチド (アミロイドβペプチド); AD (アルツハイマー病)
[出典] "CRISPR-Cas9システムを用いた新規Aβ産生制御因子の同定と解析" 富澤 郁美, 邱 詠玟, 堀 由起子, 富田 泰輔. 日本薬理学雑誌 158 巻 (2023) 1 号 p. 21-25. https://doi.org/10.1254/fpj.22081
- Aβ産生を負に制御する新規因子としてcalcium and integrin-binding protein 1(CIB1)を同定した。
- CIB1発現量の低下がAβ産生量を上昇させ、γ-セクレターゼの細胞膜への局在を低下させる。
- ヒトAD患者脳内でのscRNA-seqから,初期AD患者脳においてCIB1 mRNAレベルが低下している。
- AD初期における脳内のCIB1発現量低下がAβ産生量増加を介してAD発症に寄与している可能性がある。
[出典] "Identification of calcium and integrin-binding protein 1 as a novel regulator of production of amyloid β peptide using CRISPR/Cas9-based screening system" 邱 詠玟/Chiu YW, 堀 由起子/Hori Y [..] 富田 泰輔/Tomita T. FASEB J 2020-04-19.
[注] CIB1 (calcium and integrin binding protein 1); Aβペプチド (アミロイドβペプチド); AD (アルツハイマー病)
アミロイド・カスケード仮説によれば、Aβペプチドの脳内での凝集・蓄積がアルツハイマー発症の初期過程である。東大と新潟大の研究グループは今回、マウス神経芽細胞腫N2a細胞を対象とするゲノムワイドCRISPR/Cas9 KOスクリーニングから始まる一連の実験により、Cib1遺伝子が、γセクレターゼによるAβペプチド産生を抑制することを特定した。
Cib1のノックダウンとノックアウト実験
- ゲノムワイドスクリーニングの結果、Aβペプチド抑制遺伝子として同定したCib1を改めてCRISPR/Cas9によりKOしたN2aマウス細胞にて、Aβレベル上昇を再確認し、また、Cib1過剰発現によりCib1 KO N2aのAβレベルがナイーブN2a細胞と同レベルへと変化することも確認した。
- Cib1 KO細胞ではAβ42の細胞内レベルと共にAβ42/Aβ40比も上昇した。
- Cib1のsiRNAによるノックダウン (KD)により、N2aマウス細胞に加えて、内在APPを発現しているヒト神経芽細胞腫由来BE(2)C細胞と蛍光標識APPを発現させたヒト胎児腎由来HEK293においても、Aβ40とAβ42のレベルが顕著に上昇した。
- 一方で、KOとKDは、APP, BACE1およびγ-セクレターゼの構成分子 (PS1, PS2, Nct)のレベルおよびBACE1によるAPP切断産物 (sAPPβ)のレベルに影響を与えなかった。
CIB1とγ-セクレターゼの相互作用 - 免疫共沈降実験と細胞表面ビオチン化アッセイ
- CIB1は、細胞膜においても、細胞内においてもγ-セクレターゼに結合し、細胞膜表面でのγ-セクレターゼ発現を維持する。
- CIB1 KD細胞では、活性なγ-セクレターゼの構成分子である成熟型Nctの膜局在が減少し (γ-セクレターゼの膜移行が抑制され)、γ-セクレターゼが細胞内に留まる傾向を強め、γ-セクレターゼによるAβ産生が亢進することが示唆された。
- CIB1がγ-セクレターゼの膜移行を制御する機構分子機構、またなによりもAD病においてCIB1が抑制される分子機構の解明は、今後の課題である。
AD患者由来のデータ解析
- ヒトAD患者の死後脳サンプルに由来するscRNA-seqのデータ (Nature, 2019)を解析した。
- AD後期にはCIB1 mRNAのレベルが僅かに上昇していたが、AD発症の初期段階で興奮性ニューロンにおけるCIB1の発現量がコントロールから大きく減少しており、マウス細胞とヒト細胞から得られた結果と整合する結果となった。
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