crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

1. 比較的均一なクローン集団を獲得可能とするCRISPR/Cas9 KO法を開発し、目的とするKOを帯びたクローン集団の選別を大きく効率化
  • 単一sgRNAによるKOは、不均一な多数のサブクローン集団をもたらす。GlaxoSmithKlineの研究グループは、今回、indel効率が中程度 (>30%)のgRNAをドライバーとし、ある程度のindel効率 (> 10%)のgRNAをヘルパーとして組み合わせるタンデムgRNAsにより、標的アレルへのindel誘導効率 ~100%を実現した。
  • ただし、タンデムgRNAsを互いに40-300 bpの範囲に収めることが肝要である。なお、クローンの解析はMS/MSで行った。(Fig. 2の従来のKOスクリーンとタンデムgRNAsによるKOスクリーンを比較した概念図を以下に引用)Low Heterogeneity
[出典] "A Tandem Guide RNA-Based Strategy for Efficient CRISPR Gene Editing of Cell Populations with Low Heterogeneity of Edited Alleles" Joberty G et al. CRISPR J  2020-04-21

2. Cas9にマウスDNA複製ライセンス化因子Cdt1断片 (aa 21-132)を融合した'Cas9-mC'によって、メガベースの大規模領域削除と遺伝子断片のノックインを大きく効率化
  • 筑波大学、理研バイオリソースセンター、および東京大学の研究グループの報告: マウス初期胚において核移行性を示すCdt1をCas9に融合したコンストラクトCas9-mCが、ヒトHEK293T細胞においても、また、マウス受精卵前核期の細胞質にマイクロインジェクショした場合でも、核へ移行することを確認した。
  • 続いて、サイズ72 kbのTyr全長とサイズ2.2 MbのDmdの全長のノックアウト、GCリッチな領域を帯びたサイズ5.7-kbの遺伝子断片のノックイン、およびfloxedアレルのノックインを、Cas9単独の場合に対して高い効率で実現した。
[出典] "Efficient production of large deletion and gene fragment knock-in mice mediated by genome editing with Cas9-mouse Cdt1 in mouse zygotes" Mizuno-Iijima S, Ayane S [..] Mizuno S, Yoshiki A, Sugiyama F. Methods 2020-04-22

[類似研究に関するcrisp_bio記事]
  • CRISPRメモ_2018/06/13 #1. CRISPR-Cas9システムを2細胞期胚にマイクロインジェクションすることで、マウスゲノムへの大規模配列ノックインを実現
  • 2017-04-29 ラット受精卵において、ゲノム大領域のノックインとヒト遺伝子への置換を実現
3. MAD7 (ErCas12a)は、ヒト細胞株 (HCT116とU2OS)およびマウスとラットの遺伝子編集にも利用可能である。
  • ENVIGO Research Model ServicesHorizon Discovery Group Companyの研究グループがヒト癌細胞株へのindels誘導と遺伝子の蛍光標識、げっ歯類ゲノムへの小規模及び比較的大規模 (1~14 kb)なノックインを実証した。
  • 効率はCas9にやや劣るが、5’-YTTN-3' PAMの特徴を活かすことができる。
[出典] "ErCas12a CRISPR-MAD7 for Model Generation in Human Cells, Mice, and Rats" Liu Z [..] Forbes KP. CRISPR J 2020-04-21

[Mad7関連crisp_bio記事]
  • CRISPRメモ_2019/05/27 #1.Cas12a近縁Mad7により、ゼブラフィッシュとヒト細胞株のCRISPRツールボックスを拡充
4. CRISPR-Cas9 RNPを、デンドリマーを活かした担体によってデリバリーすることで、神経細胞と脳における効率的遺伝子編集を実現
  • 樹状高分子であるデンドリマー (分岐回数/generation 3; G3)とグルクロニルグルコシル‐β‐シクロデキストリンの(GUG‐β‐CyD)結合体を担体とすることで、ヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞株において、G3担体、Lipofectamine3000またはCRISPRMAXよりも高効率な遺伝子編集を実現した。
  • また、脳室内投与を介してマウス脳内でのゲノム編集の活性を亢進した。
[出典] "Genome Editing in a Wide Area of Brain Using Dendrimer-based Ternary Polyplex of Cas9 Ribonucleoprotein" 田原春 徹/Taharabaru T [..] 本山 敬一/Motoyama K. ACS Appl Mater Interfaces 2020-04-21.

5. CRISPRエフェクタのオフターゲット編集の簡便かつ網羅的in vitroアッセイ法を開発
  • University of Iowa, Integrated DNA TechnologiesおよびColumbia Universityの研究グループは今回、Spec-seqに準拠してDNA結合の特異性を測定し、それと独立に触媒活性/DNA切断の特異性を測定するSEAM-seq (sequence-specific endonuclease activity measurement by sequencing)法を開発し、両者を総合評価するオフターゲット編集アッセイ法を確立した。
  • SpCas9とHiFi-SpCas9の遺伝子編集の特異性は切断の特異性に依存する一方で、ScCas9の特異性はPAMへの結合特異性に依存していた。また、AsCas12a (Cpf1)はDNA結合の特異性に依存してオフターゲット編集が抑制されていた。さらにCasXの特異性が、ミスマッチ領域に結合するが切断しないことによることを、明らかにした。
[出典] "Systematic in vitro profiling of off-target affinity, cleavage and efficiency for CRISPR enzymes" Zhang L [..] Puffal MA. Nucleic Acids Res 2020-04-21

6. ゲノムスケールのスクリーニングデータのマイニングに基づいて設計したsgRNAライブラリーにより、高感度なプール型CRISPRスクリーニングを実現
[crisp_bio注] BMC Biology. 2020-11-23出版論文を受けて、テキストを改訂して「crisp_bio 2020-11-29 効率的なゲノムスケールsgRNAsをゲノムスケールCRISPRスクリーン結果の再解析から構築」として再投稿
  • German Cancer Research Centerの研究グループが、GenomeCRISPRデータベース (NAR, 2016)由来のヒト細胞を対象とするスクリーニング結果のデータマイニングにより、オンターゲット活性が高くオフターゲット活性が低いsgRNAsのライブラリーを集積して新たなゲノムスケールsgRNAライブラリー' Heidelberg CRISPR library'を構築した。
  • ライブラリーの設計にはそのデータを利用しなかったヒトHAP1細胞を対象とするスクリーニングから、コンテクストに依存する必須遺伝子群と、コンテクストに依存しないコア必須遺伝子群を同定した。
[出典] "Pooled CRISPR screening at high sensitivity with an empirically designed sgRNA library" Henkel L [..] Boutros M.bioRxiv 2020-04-25
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