[出典] "Cluster of COVID-19 in northern France: A retrospective closed cohort study" Fontanet A et al. medRxiv 2020-04-23. (査読なし投稿)

 パスツール研を始めとするフランスの研究グループは、2020年3月30日から4月4日の間に、フランスの中で早期に新型コロナウイルス感染が拡がったフランス北部のオアーズ地方 (Oise department)に所在する高校の生徒、両親、兄弟姉妹、教師ならびに職員で構成される固定されたコホート (クローズドコホート)を対象に、2020年1月13日以降の発熱そしてまたは呼吸器症状に関する調査と抗体検査を行い、抗体検査の結果に基づき罹患率 (infection attack rate, IAR)を算出した。また、このクローズドコホートに加えて、オアーズ地方の2ヶ所の献血センターで採取された200件の血液サンプルについても抗体検査を行った。
  • クローズドコホート661名 (平均年齢 37歳)のうち171名がSARS-CoV-2に対する抗体を帯びており、罹患率は~26% (95%信頼区間 22.6-29.4)となり、致命率は0%であった(95%信頼区間0-2.1)。また、解析期間内で、感染者の17%が無症状であった。
  • クローズドコホートの内訳は、生徒、教師および職員の罹患率がそれぞれ38.3%, 43.4%および59.3%であり、生徒の両親と兄弟姉妹の罹患率が~11%であった。クローズドコホートに対して、高校の近隣の献血センターの献血者の罹患率は17%であった。
  • したがって、高校内においていわゆるクラスターが発生していたことが明らかになり、この地方のこの高校に特有の現象である可能性はあるが、COVID-19抑制対策として休校の効果があることが示唆された。また、生徒と教師および職員の比較からはクラスター内での罹患率の年齢依存性が低いことが示唆された。
  • この抗体検査は、行動制限が始まる前の時期に由来するサンプルに基づいて行われ、また、抗体検査の時期はオアーズ地方に感染が始まってから8週間経過後と推定されるが、その結果は、集団免疫の成立には長期間を要することを示唆した。
  • 抗体検査の信頼性に対して議論があるが、今回は、パスツール研で開発し、感度と特異度が高いことを確認できた手法に拠った。
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