2020-04-29 23:45更新 原論文Fig. 4引用を追加し、対応するテキストを修正
[出典] "Multiplex secretome engineering enhances recombinant protein production and purity" Kol S [..] Lewis NE. Nat Commun 2020-04-20

 医療用タンパク質合成に利用される宿主細胞に由来するタンパク質 (Host cell proteins, HCPs)は、宿主細胞から分泌または細胞死に伴う放出によって、セクレトーム (secretome)に蓄積され、目的タンパク質の分解やタンパク質製剤の品質低下そしてまたは免疫原性をもたらすリスクを伴っている。

 そこでHCPsを、最終産物 (製剤)に至るまでに低レベル (<1–100 ppm)に抑え込む必要があり、このため精製過程で、HCPsを検出し排除することが必要になり、この精製過程が、モノクローナル抗体 (mAb)の生産コストの80%を占めるに至る。

 これまで、ELISAや2次元電気泳動そしてまたは質量分析 (MS)による全HCPレベルの測定やHCPsの同定が試みられてきたが、精製過程で除去することが困難なHCPsが存在する。Novo Nordisk Foundation Center for Biosustainability (TUD, UCSD)は、CRISPR/Cas9技術によって、宿主細胞からHCPsを多重に除去する手法を確立し、精製過程ひいては、医療用タンパク質生産過程を大幅に効率化することに成功した。

 医療用タンパク質生産の宿主細胞として広く利用されてきたCHO細胞についてはこれまでに、膜結合型のセリンプロテアーゼであるマトリプターゼ-1、リポタンパク質リパーゼ (Lpl)、アネキシンA2およびカテプシンDのノックアウトが宿主細胞の成長を損なうこと無く、目的とする組み換えタンパク質の分解を抑制するなどの効用をもたらすことが示されてきた。今回の手法の特徴は、HCPsを多重に効率よくノックアウトしたところにあり、著者らは得られたCHO細胞を"clearn" CHO cellと称した。
  • はじめに、CHO細胞のタンパク質分泌のコンビュータモデルに基づいて、CHO細胞の各タンパク質の精製に費やされる資源を計算し、全資源の39.2%が、主として分泌経路を介してプロセスされる膜タンパク質と分泌タンパク質に費やされることを同定し (Fig. 1引用下図左 a 参照)、HCPsノックアウトによってこの資源を組み換えタンパク質の合成へと解放することが可能であるとした。
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  • 次に、プロテオミクスにより、CHO培養上清液に豊富に含まれ、精製過程での除去が困難であり、また、最終産物の品質を損なうHCPs14種類を同定し (Fig. 1引用上図右 b 参照)、それらをコードする遺伝子を標的とするsgRNAsを設計し、4ラウンドのCRISPR-Cas9遺伝子編集を繰り返して、順次、1遺伝子、5遺伝子、5遺伝子、そして3遺伝子ノックアウトすることで、野生型CHOに加えて、3種類のCHO細胞変異株 (6xKO細胞株; 11xKO細胞株; 14xKO細胞株)を樹立した。
  • 総HCPs量に加えて、振とうフラスコ、Amberバイオリアクター、およびDASGIPバイオリアクターにおける細胞増殖を測定し、総HCP量の減少が6xKOで~40%、11xKOと14xKOで60-80%に及び、ノックアウト細胞株の細胞増殖が野生型CHO細胞を上回ることを見出した。
  • ノックアウト細胞株におけるモノクローナル抗体 (リツキシマブ)の生産量が野生型より向上し (Fig. 4引用下図参照)、さらに、HCPsを予め除去したことで、精製過程の効率化を介した大幅なコスト圧縮の可能性を示した。2020-04-29 23.46.32