crisp_bio

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2022-05-28 LinらのMolecular Cell 論文に疑義を呈する論文が発表された.
[出典] "Lack of Cas13a inhibition by anti-CRISPR proteins from Leptotrichia prophages" Johnson MC [..] Meeske AJ, Bondy-Denomy J. Mol Cell 2022-05-26. https://doi.org/10.1016/j.molcel.2022.05.002 [著者所属] UCSF, Harvard U, Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School, U Washington, Innovative Genomics Institute
 Linらは2020年に,タイプVI-A CRISPRシステムを阻害する7つのAcrファミリー (AcrVIA1-7)を発見・報告した.Johnsonらは今回,その報告と不整合な実験結果を報告した.
  1. LinらのAcrVIA1-7がAcrタンパク質であるという結論を導いたデータマイニングを再実行し,aca遺伝子の同定など,データマイニングに誤りがあることを発見した.
  2. MS2バクテリオファージプラークアッセイの再現実験におて,論文中で実験に用いられたと報告されているいくつかの株において,AcrベクターがCas13aを発現するプラスミドを消失させることで抗CRISPR活性の偽陽性をもたらすことを示唆する結果を得た.
  3. 試験した7つのタンパク質はいずれも、Johnsonら独自のバクテリア・アッセイでLwaCas13aまたはLbuCas13aに対してAcr活性を示さなかった.
  4. 最も強力なCas13a阻害剤と報告されている2つの抗CRISPRタンパク質,AcrVIA4とAcrVIA5は,ヒト細胞においてLwaCas13aを介したRNAノックダウンを阻害しなかった.
2020-05-01 初稿
[出典] "CRISPR-Cas13 Inhibitors Block RNA Editing in Bacteria and Mammalian Cells" Lin P [..] Jiang J, Wu M. Mol Cell 2020-04-28

 CRISPR-Casシステムの中で、タイプVIシステムに属するCas13は、独特の活性を帯びている。Cas13をガイドするcrRNAの標的となるRNAを切断し (cis-切断)、同時に、標的以外のRNAsを無差別に切断するコラテラル活性(trans-切断活性)を帯びている。この特徴を活かして、SHERLOCKを代表とする超高感度な核酸検出や疾患診断ツールの開発が進んできたが、Cas9など他のエフェクターと同様に、細胞内での継続的活性が、意図しない変異を誘発するリスクを伴っている。

 このCas活性を時空間制御するツールの一つとして有力なのが、バクテリオファージ、または、染色体やプラスミド上にプロファージとしてコードされているanti-CRISPR (acr)遺伝子である。University of North Dakota, 中国人民解放軍第三軍医大学,  四川大学などの研究グループは今回、タイプVIシステムを帯びた菌株群のゲノム配列のデータマイニングから、Cas13aの活性を阻害するacrVIA1-7遺伝子群を同定し、その機能を評価した。
  • Doudna研によって開発されたSelf-Targeting Spacer Searcher platform (STSS) [Science, 2018 /crisp_bio 2018-09-08]に基づいて、タイプIV-A, -B, および -Dシステムを帯びたのべ106種類のゲノムから、自己ゲノムを標的とするスペーサを帯びた菌株をVI-Aから1種類、VI-Bから10種類同定した。なかでも、Leptotrichia wadei F0279のタイプVI-Aシステムには自己ゲノムを標的とするスペーサが3種類存在し、Cas13による自己ゲノムターゲッティングを回避するために、anti-Cas13を帯びていることが強く示唆された。
  • そこで、L. wadei F0279ゲノムにおいて、PHAge Search Tool (PHAST)によって117 ORFsをコードしているプロファージ領域を同定し、その領域内で、acr遺伝子に隣接し保存性が高いとされてきたAca (Acr-associated)が帯びているヘリックス-ターン-ヘリックス (HTH)ドメインを手がかりに探索し、11種類の新奇Acrs候補を同定した。
  • 続いて、無細胞系転写・翻訳 (cell-free transcription-translation, TXTL)システムを利用したCas13a阻害活性の判定から、5種類のAcrs (AcrVIA1, -2, -3, -4, -5)を同定した。この中で、AcrV1A5のLwaCas13aに対する阻害活性が最も高く、AcrV1A5はまた、LwaCas13a, LshCas13a, およびLbuCas13aのいずれに対しても阻害活性を示した。
  • 一方で、AcrVIAsは、VI-BとVI-Dに対しては阻害活性を示さないことも、確認した。
  • Acaを手がかりとする探索に加えて、acr遺伝子がクラスタを形成する傾向を利用したゲノム配列解析も行い、新たなAcrとしてAcrVIA6を同定した。
  • AcrVIA1から-A6はヒト細胞においてもCas13aによるcrRNAの標的RNAターゲッティングを阻害し、また、標的以外のRNAsのコラテラル切断活性も抑制した。
  • AcrVIA1, -4, -5, および -6は、LwaCas13aに結合した一方で、AcrVIA2と-3が結合するのはLwaCas13-crRNA複合体に限られていた。
  • AcrVIA5については、dCas13aを介したRNA編集を阻害することも同定した。
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