2021-05-25 原著論文を取り上げたMolecular Cell 誌のプレビューの書誌情報を追記: PREVIEW "A molecular Rosetta Stone to decipher the impact of chromatin features on the repair of Cas9-mediated DNA double-strand break" Caron P, Pobega E, Polo SE. Mol Cell. 2021-05-20. https://doi.org/10.1016/j.molcel.2021.04.024
2021-04-13 Molecular Cell 誌採択論文の書誌情報とGraphical Abstractsへのリンクを追記し,ブログ記事タイトルを"クロマチン・コンテクストがCas9誘導DSBからの修復経路の選択に与える影響"から"クロマチン・コンテクストに応じてCas9誘導DSBからの修復過程が選択される"へと改訂.
2020-05-07 初稿
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[出典] "Impact of chromatin context on Cas9-induced DNA double-strand break repair pathway balance" Schep R,  Brinkman EK [..] van Steensel B. (bioRxiv 2020-05-05Mol Cell. 2020-04-12. https://doi.org/10.1016/j.molcel.2021.03.032; Graphical Abstract https://marlin-prod.literatumonline.com/cms/attachment/706c5513-2eeb-4f2c-8a34-efc59ff73917/fx1_lrg.jpg

 Netherlands Cancer Instituteの研究グループは今回、先行研究 (Cell, 2013)で開発したThousands of Reporters Integrated in Parallel (TRIP)法にならって、NHEJとMMEJの違いを判別可能なレポータ配列 (ヒトLBR遺伝子由来; Integrated Pathway Reporters)にバーコード配列を付与した配列をPiggyBacトランスポゾン・ベクターで、クロマチン・コンテクストが詳細に分析されているK562細胞ゲノムのプールにランダムに挿入し、1,000ヶ所以上について、Cas9が誘導したDSBからの修復について、NHEJ, MMEJおよびSSTR (一本鎖テンプレートを介したHDR)の3種類の過程のバランスを判定した。SSTRについては、PAMサイトに2塩基が挿入されるように設計したssODNを一本鎖テンプレートとして利用することで判定した。
  • 修復過程は、ユークロマチンではNHEJに偏る。
  • 特定のヘテロクロマチンではMMEJが主となるが, H3K27me3修飾ヘテロクロマチンにおいてH3K27メチル基転移酵素EZH2を阻害すると, NHEJが優勢となる。
  • SSTRは、MMEJと同様にヘテロクロマチンと正の相関、ユークロマチンとは負の相関にあるがその依存度は低い。また、ヘテロクロマチンでは特に、 H3K9me2とラミナ関連ドメイン (LADs)のコンテクストで顕著に優勢になる (なお、この結論に至るまで、NHEJとMMEJの鍵となる酵素のノックアウト実験も行った)。
  • SSTRはMMEJと競合関係にあり、DSB直後にはバランスがSSTRに傾き、その後、徐々にMMEJへと傾いていく。
[先行研究]
  • "Chromatin position effects assayed by thousands of reporters integrated in parallel" Akhtar W et al. Cell 2013-08-15
[CRISPR-Cas9とクロマチン・コンテクストの相関に関するcrisp_bio記事]
  • CRISPRメモ_2019/02/25 [第7項] クロマチン構造が2種類のDSB修復機構, NHEJとHDR, に与える影響をアッセイ.
  • CRISPRメモ_2018/12/19 - 1 [第1項] ヘテロクロマチンがCRISPR-Cas9ゲノム編集に与える影響:変異誘発を遅らせるがDNA修復結果には影響しない.
  • crisp_bio 2018-09-11 ヌクレオソームがCas9の切断を直接阻害することをin vivoで確認
  • crisp_bio 2017-05-03 ヌクレオソームがCas9のDNAヘのアクセスを妨げる.
  • crisp_bio 2017-04-15 CRISPR/Cas9は、ヌクレオソームの揺らぎ(breathing)と再構成によって、クロマチン上で機能する.