[出典] "An engineered ScCas9 with broad PAM range and high specificity and activity" Chatterjee P [..] Jacobson J. Nat Biotechnol 2020-05-11.
SpCas9は5′-NGG-3′ PAMを認識してdsDNAを切断するところ、5'-G-3'をPAMとして認識するCas9が作出あるいは発見されてきた。ファージに依存する持続的進化法 (PACE)により作出されたxCas9-3.7 [1], 構造を情報もとに合理的に設計されたSpCas-NG [2], およびORFの配列解析から発見されたScCas9 (S. canis Cas9: ScCas9) [3]により、Cas9の標的可能な領域が、ほぼ50%拡大した。一方で、xCas9-3.7, SpCas9-NG, SpCas9-NGはそれぞれ、標的可能な領域が限られる可能性、オフターゲット率の高さ, および、遺伝子のコンテクストに依存する効率低下といった課題を伴っていた。
ScCas9を発見したMITの研究グループは今回、RNA Therapeutics Institute(U Massachusetts Medical School)と共同で、ScCas9のORFを近縁のCas9sのORFsの配列とアライメント解析した結果に基づいて [*]、ScCas9 ORFに変異を導入することで、バクテリアにおいてもヒト細胞においても、NNGをPAMとして認識する特徴を維持しつつ、 SpCas9, xCas9-3.7, SpCas9-NG and ScCas9よりも高効率かつ高精度な編集を可能にするSc++を作出した。さらに、オンターゲットでの編集効率または標的可能範囲を犠牲にすることなくSc++よりも高精度なSc++変異体 (HiFi-Sc++)を作出した。
[*] 原論文のFig. 1: Engineering and characterization of broad PAM recognition by Sc++.参照
SpCas9-NGとxCas9-3.7はいずれも、SpCas9のORFに変異が多々導入されたことで5'-NGG-3'に替えて5'-NGN-3'を認識可能になったが、一連の変異の中でも、それぞれ、PAMと相互作用するドメインにおける残基1,218と残基1,219の変異が決定的であった。アライメント解析から、S. gordonii Cas9 ORFの中で、正電荷を帯びたリジン (Lys)に注目し、Thr1227Lys変換を加えたScCas9+(Sc+)を作出した。
SpCas9-NGとxCas9-3.7はいずれも、SpCas9のORFに変異が多々導入されたことで5'-NGG-3'に替えて5'-NGN-3'を認識可能になったが、一連の変異の中でも、それぞれ、PAMと相互作用するドメインにおける残基1,218と残基1,219の変異が決定的であった。アライメント解析から、S. gordonii Cas9 ORFの中で、正電荷を帯びたリジン (Lys)に注目し、Thr1227Lys変換を加えたScCas9+(Sc+)を作出した。
次に、ScCas9のPAMに対する柔軟性が、SpCas9にもその変異体にも存在しない正電荷を帯びたループ (残基 367-376)に起因することから、S. anginosus Cas9のループが、ScCas9と同様な正電荷残基を帯びまたヒスチジン残基に替えてリジン残基を帯びており、さらに、タンパク質工学でリンカーとして利用される柔軟な'SG'モチーフを帯びていることに注目し、Sc+のループ配列をS. anginosus Cas9のループ配列に入れ替えることで、Sc++に至った。さらに、HiFi-SpCas9の変異を導入することで、HiFi-Sc++を作出した。
[引用および参考crisp_bio記事]
- 2018-03-20 xCas9:PAMの拡張とオフターゲット抑制を両立; 2019-01-25 SpyCas9の高精度な変異体‘xCas9’の構造基盤 - "xCas9-3.7"
- 2018-08-31 SpCas9-NG:SpCas9の標的範囲をさらに広げる合理的な変異導入 - "NG PAM"
- 2018-10-25 GGからGへ: 5'-NNG-3' PAMを認識するStreptococcus canis Cas9; "Minimal PAM specificity of a highly similar SpCas9 ortholog" Chatterjee P, Jakimo N, Jacobson JM. Sci Adv. 2018 Oct 24.
- 2018-08-08 ランダム変異導入から高精度・高活性なCas9変異体を開発 #1. 新たなCas9変異体をRNP複合体として送達する高精度で高活性な遺伝子編集法を開発し、ヒト造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)で実証
- 2020-02-13 Liuグループ、グアニン (G)を含まない配列をPAMとするSpCas9変異体をファージによる指向性進化法で実現: "5′-NRNH-3"
- 2020-03-27 ヒトゲノムのほぼ全域をCas9で標的可能になった - PAMの呪縛を解いたSpGとSpRY - "nearly PAMless: NGM PAM SpG & NRN PAM SpRY"
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