2020-11-30 更新 新型コロナウイルスの開発も超速 (ワープスピード/Warp Speed)
 Eric Topolの「新型コロナウイルスのワクチン開発では、数年が数ヶ月に圧縮された」という趣旨のツイートへのリンクをcrisp_bio訳とともに以下に引用し, 記事タイトルを「新型コロナウイルス:超速のタンパク質構造解析ストーリー」から「新型コロナウイルス: 超速のタンパク質構造解析, ワクチン開発も」へ改訂
  • リンク https://twitter.com/EricTopol/status/1332771238771630080
  • 新型コロナウイルス開発は、深い感銘と共に歴史に刻まれることになる成果であろう。通常は数年を要する開発が数ヶ月で成し遂げられたことを刻む主要なマイルストーンを、取り急ぎまとめた。

    日 付

    マイルストーン

    2019/12/01

    COVID-19公文書化 (11月17日まで非公開)

    2020/01/10

    SARS-CoV-2ウイルスゲノム配列解読

    2020/01/15

    NIH, モデルナと共同でmRNAワクチンを設計

    2020/03/16

    モデルナ第1/2相試験を開始

    2020/05/02

    ファイザー/ビオンテック第1/2相試験を開始

    2020/07/14

    モデルナ社第1/2相試験のNEJM論文発表

    2020/07/27,28

    モデルナとファイザー/ビオンテックの第3相試験を開始

    2020/08/12

    ファイザー/ビオンテック第1/2相試験のNature論文発表

    2020/10/22,27

    モデルナとファイザー/ビオンテックいずれも第3相試験の参加者募集完了 > 74,000名

    2020/11/09

    ファイザー/ビオンテック 中間解析の結果, 有効率 > 90%と発表

    2020/11/16

    モデルナ 中間解析の結果, 有効率 94.5%と発表

    2020/11/27

    ワクチンをUALのチャーター便で全米に配送

    2020/12/10

    FDA: ファイザー/ビオンテックのワクチンを委員会で審査

    2020/12/11

    (委員会で承認されれば)医療従事者を対象とするワクチン接種開始予定


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2020-05-16 初稿
[出典] NEWS RELEASE "The sprint to solve coronavirus protein structures — and disarm them with drugs" Scudellari M. Nature 2020-05-15

1月10日
  • 新型コロナウイルスの完全ゲノムデータがオンライン公開されたと同時に、中国、米国、ドイツなどなど、 各国の構造生物学者が一斉に動き出し、24時間以内に、構造生物学研究室の協働が始まった。
1月11日 (感染者数 41名)
  • パデュー大学のAndrew Mesecarは、ゲノムデータ公開の翌朝6時に起床し、ゲノム配列を吟味し始めるや否や17年にわたり研究してきた一連のコロナウイルスで見てきたタンパク質配列がそこにあることに気づき、すぐに、ノースウェスタン大学の感染症構造ゲノミクスセンター(Center for Structural Genomics of Infectious Diseases, CSGID)の共同ディレクターKarla Satchellに連絡した。このCSGIDはまさに、新興感染症に関するタンパク質構造解析を目的として整備されていた8研究機関からなるコンソーシウムであった。
  • Mesecarチームは7時半にはタンパク質を発現させる遺伝子構造の設計に着手し、それまでに知られていた一連のコロナウイルスの阻害剤による新型コロナウイルスの阻害の可能性も検討し始めた。
  • Satchellは、コンソーシウムのメンバーとのネット会議でタンパク質構造解析をキックオフし、MesecarはCSGID研究者の1人として、ウイルスのメインプロテアーゼMproを標的とした。
1月13日 (感染者数 42名)
  • テキサス大学オースティン校McLellan分子生化学研究室の院生Daniel Wrappは週末に設計したスパイク(S)の遺伝子コンストラクトを業者に発注した。
  • McLellanには、NIAID/NIHのウイルス学者Barney Grahamとスクリプス研究所の構造生物学者Andrew Wardらと共同で、コロナウイルスのHKU1とMERSのSタンパク質の構造を決定してきた蓄積があった。
  • Sタンパク質構造解析が動き出した中で、パンデミック対策(Pandemic preparedness)プロジェクトの枠組みの中でウイルス研究センターを稼働していた創薬企業Moderna Therapeutics [*]は、Grahamからの連絡を受けて、タンパク質構造が解かれることを想定してワクチン製造の設備構築に着手した。
     [*] crisp_bio記事「新型コロナウイルスに対するmRNAワクチン第1相試験開始」参照
1月26日(感染者数  2,014名)
  • 上海科技大学のZihe RaoとHaitao Yangのチームは、春節の中、昼夜を問わずに、Mproに加えてコロナウイルスの複製に必要な3種類のタンパク質の構造解析に取り組み、1月26日にMproと阻害剤の複合体構造のデータをPDBにサブミットし、データは2月5日に公開された [Nature 2020-04-09]。
  • Raoは、Mpro解析の間、かって共同研究者であった英国オックスフォード大学のDavid Stuartに連絡し、そこから、上海での構造解析と英国の放射光施設Diamond Light Sourceでの構造解析の協働が始まり、英国はMproのアポ構造解明に集中し、2週間あまりで、Mpro単独の結晶を得た。
2月1日 (感染者数  11,953名)
  • リューベック大学のHilgenfeld研の Linlin Zhangは、Mproの遺伝子コンストラクトを業者から入手して10日間で結晶を生成し、ベルリンのBESSY II放射光施設で解析を開始した。それから10日後には、MERS CoVを阻害する低分子13aを最適化した阻害剤13bと結合したMproの複合体構造を決定した [Science 2020-03-20]。
  • McLellanグループのSタンパク質研究も高速で進んでいた。2月10日にはSタンパク質のクライオ電顕構造をPDBにサブミットし、また、ヒトACE2への結合親和性がSARS-CoVの少なくとも10倍の強さであることを同定した [Science 2020-02-19]。
  • ミネソタ大学のLi Fangのチームは、2月11日にアルゴンヌ放射光施設のAdvanced Photon Source (APS)にてSタンパク質からのX線解析データを取り始め、13日までに、Sタンパク質がACE2受容体に結合する構造基盤を明らかにした [Nature 2020-03-30]。
2月18日 (感染者数  73,332名)
  • HilgenfeldとZhangのチームは2月18日にMproの単独と13b結合の構造解析論文をScience誌にサブミットすると同時にbioRxivに投稿した [Science 2020-04-24]
  • Diamondチームも同日、高分解能のMproアポ構造をWebサイトで公開した。
  • 米国ではこれまでに、APSその他の国内の放射光施設の運用を、新型コロナウイルス関連タンパク質構造解析に最適化を終えており、CSGIDコンソーシウムはSARS-CoV-2のタンパク質12種類の構造を決定し、ゲノム情報とともに、データベースCoronavirus 3Dとして公開するに至った。
3月16日 (感染者数  167,515名)
  • ウイルスゲノムが公開されてから65日で、Modernaのワクチン候補の患者への投与(第1相試験)が始まった。この開発はかっていない速さで進んできたが、いまそこにいるCOVID-19患者には間に合わない。
  • このため、承認薬と治験薬のライブラリーのリパーパシングを目指して、新型コロナウイルス由来の各種のタンパク質でのスクリーニングが進められた。
4月22日 (感染者数 2,471,136人)
  • 標的タンパク質の構造情報に基づいた化合物の設計や、フラグメントをベースにした合成も進められている。
  • また、ORF8やnsp3といった構造が未だ不明なウイルスタンパク質の構造解析も進められている。
 今後、タンパク質の構造情報をベースにして、ワクチン、診断薬、および治療薬の開発が進むことに期待。