[出典] "Science Forum: SARS-CoV-2 (COVID-19) by the numbers" Bar-On YM, Flamholz A, Phillips R, Milo R. eLife 2020-03-31.
Weizmann Institute of Science, UC BerkeleyならびにCaltechのチームが、査読済みの論文を情報源として、SARS-CoV-2の特性と宿主ヒト細胞との相互作用の特徴を表現する数字を集積した上で、SARS-CoV-2に関する疑問を設定しそれに答えた。集積した数字については、Figure 1を2分割した上で引用した下図左右を参照 [Figure 1は、Webサイトのbit.ly/2WOeN64にて、随時更新されていく予定]
SARS-CoV-2に関する疑問
1. 感染者11人から100万人が感染するまでに何日かかるのか?
ウイルスの伝播性を示す基本再生産数(R0)をもとにした試算
2. フィジカル・ディスタンシングの効果は?
実効的再生産数 (Re)を仮定した上で試算し、迅速に Re < 1 達成を推奨
3. なぜ2週間の検疫なのか?
感染してから症状が顕れるまでの期間 (incubation period)は個人差が大きいが、おおよそ99%が14日経過するまでに発症している (平均 ~ 5日)。一方で、無症状者は検査例が極めて少ないことから、感染後無症状のまま感染しなくなるまでの期間は不明である。
4. N95マスクはどういう仕組でSARS-CoV-2をブロックするのか?
N95マスクは、0.3μm径以上の粒子を >95%除去する設計であるが、製品は、ほぼ0.1μm径の粒子をほぼ99.8%除去する。したがって、ほぼ0.1μm径のSARS-CoV-2のウイルス粒子のほとんどを除去可能であるが、実際にはそれ以上の効果がある。
ウイルス粒子はサイズが> 5 μmまたは < 5μmの咳やクシャミの飛沫を介して伝播し、前者は近距離で地上に落下するか物の表面に付着し、後者は空気中を漂うが、N95マスクは後者に対してもある程度の性能を発揮する。
5. SARS-CoV-2は、風邪やインフルエンザウイルスにどの程度似ているのか?
風邪はコロナウイルスまたはライノウイルス感染から発症するが、風邪を引き起すコロナウイルスと SARS-CoV-2のゲノムは、サイズは近い (10%程度の差)が、配列の同一性はかなり低く50%程度である。インフルエンザのゲノムは、SARS-CoV-2の~30 kbに対して~14 kbと小さい。
SARS-CoV-2登場前からコロナウイルスは、インフルエンザには無い校正修復エクソヌクレアーゼExoNを帯び、変異率はインフルエンザウイルスの10分の1以下とされている。
6. SARS-CoV-2のゲノムとプロテオームについてどの程度分かっているのか?
SARS-CoV-2は一本鎖プラス鎖RNAウイルスであり、そのゲノムは26種類のタンパク質をコードする10種類の遺伝子を帯び、その中でorf1abがポリプロテインである (NCBIのNC_045512に準拠)。26種類のタンパク質のおおよそ半数については、生化学的特性と機能が未だ明らかになっていない。
7. ウイルスの変異速度から何を言えるのか?
複数サイクル1回ごとに各サイトに誘導される変異の頻度と、進化速度に相当する1年経過後の変異頻度の関係を説明した上で、前者を~ 10-6と見積もった。ここで、喀痰に含まれるウイルス粒子数を107と仮定すると、そのサンプル内のRNAゲノムの各サイトで1回以上の変異が起きていることになる。
8. 物の表面に付着したウイルス粒子の寿命と感染力は?
これらの特性は、表面の材質に加えて温度と湿度などの環境への依存性があることから、精度の高いデータが得られてはいないが、概ね、RNAは長期間検出されるが、ウイルス粒子の感染性はより短期間で失われるようである。
この他に、R0, 潜在期間, 感染期間の定義、ウイルスRNAと感染性ウイルスの違い、致死率 (case fatality rate)と感染者致死率 (infection fatality rate)の違い、ウイルスの放出数 (burst size)と複製時間 (replication time)の定義と測定法、および、無症状感染者の存在と診断のタイミングについて解説され、図の中の各数字の根拠となった文献リストが添えられている。
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