2021-08-22 迅速抗原検査が僻地で感染抑制に貢献した: アラスカのユーコンKuskokwimデルタ地域において2020年9月15日から2021年3月1日の間に54,981人を検査
2021-05-09 日本もようやく抗原検査を活用することにしたらしい: 「抗原検査キット活用 クラスターの発生防ぐ」西村経済再生相. NHK NEWS WEB. 2021-05-09 11:57. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210509/k10013019971000.html
2021-01-08 COVID-19の検査には精度よりも速度とするSci Adv 論文に関するcrisp_bio記事と, FDAによる家庭用抗原検査のキットの緊急使用承認に関するcrisp_bio記事へのリンクを追加
[出典] "Use of Rapid Antigen Testing for SARS-CoV-2 in Remote Communities — Yukon-Kuskokwim Delta Region, Alaska, September 15, 2020–March 1, 2021" Hodges E, Le!erts B, Bates E, et al. CDC Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR). Weekly / August 20, 2021 / 70(33);1120–1123. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7033a3.htm
- アラスカの農村部では,SARS-CoV-2のPCR検査の結果がでるまでに日数を要することが課題であった.検体の発送から結果が届くまで1週間程度を要していた.
- 当該地域に,ポイント・オブ・ケア検査として利用可能な迅速抗原検査 (15分で結果がでるアボット社製BinaxNOW https://www.binaxnow.us/)を導入し,核酸増幅検査 (Nucleic Acid Amplification Test, NAAT)の結果と比較した.
- BinaxNOW検査は,主に,有症者またはCOVID-19の診断を受けた人の濃厚接触者として特定された人を対象に実施した.
- COVID-19ワクチン接種を開始する前の時期において,BinaxNOW導入後,11月9日の週の人口10万人あたり342人から12月13日の週の119人へと65%減少した.ただし,陰性の判定が出た場合は,3日以内に再検査を行って,抗原検査の偽陰性判定の抑制を試みた.
- 迅速抗原検査によってその日のうちに感染者を特定することが可能になり,その結果、身近な人の隔離,接触者の追跡,検疫,加えて,感染者にリカバリーキット (体温や酸素飽和度を自宅でモニターするための機器)を迅速に提供することも可能になった.また,症例特定に応じて,地域の部族評議会や政府は状況を随時把握し,葬儀や宗教的儀式のために特定の家族と面会する予定を入れたり,地元企業の業務を変更して収容人数を制限したりするなど,公衆衛生上の介入を早期に実施することができた.
- 国内では,抗原検査で陽性になっただけではおそらく隔離/保護されないので,アラスカの例のような感染抑止効果を期待できないように思う.
- 国内の抗原検査については,厚生労働省が「医療機関・高齢者施設等への抗原簡易キットの配布事業」を開始し [*1],文部科学省が「利用を希望する大学, 高等専門学校, 専修学校, 高等学校, 中等教育学校, 特別支援学校, 日本語教育機関及び外国人学校に対して配布し, 各校・各機関における感染対策に供する」 など,公助の枠での利用が広がっては来ているようだ [*1] 厚生労働省 令和3年6月25日. https://www.mhlw.go.jp/content/000799092.pdf; [*2]文部科学省 令和3年7月29日. https://www.mext.go.jp/content/20210729-mxt_kouhou01-000004520_1.pdf]
- 第三者に感染させる可能性がある無症状感染者もしくは発症前感染者の存在が知られている以上,感染拡大防止には症状が無い人々へも検査を広げることが良策だったと思うのだが,未だに,一定の症状が顕在化していない限りPCR検査は自助であり,今や,隔離も「自宅療養」という名の自助である.日本の家庭で宿泊療養と同じレベルの隔離が可能,と認識されているのだろうか.
2021-01-08 COVID-19の検査には精度よりも速度とするSci Adv 論文に関するcrisp_bio記事と, FDAによる家庭用抗原検査のキットの緊急使用承認に関するcrisp_bio記事へのリンクを追加
- crisp_bio 2021-01-03 新型コロナウイルス感染抑制には迅速検査を高頻度で繰り返すことが有効 - 精度より速度 https://crisp-bio.blog.jp/archives/25204523.htm
- crisp_bio 2020-12-19 新型コロナウイルス: FDA、家庭で利用可能な抗原検査キット2種類の緊急使用を承認 https://crisp-bio.blog.jp/archives/25073045.html

[*]の図の作成者と訳者: 塩基エディターの始祖であるDavid R. Liu教授が多くの情報源からの情報を集約・ツイートし、国立遺伝学研究所川上浩一教授がLiu教授の了解を得て和訳版を再ツイートし、川上教授の了解を得てここに転載。
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[出典] "Coronavirus antigen tests: quick and cheap, but too often wrong?" Service RF. Science 2020-05-22 3;35 PM (EST)
米国のPCR検査は、日に~40万人について行われるようになったが、公衆衛生の専門家の中では、経済・社会活動を安全に進め、アウトブレイクを制御不能になる前に察知するためには、米国の総人口3.3億人の多くについて日々検査する必要があるとしており、また、一方では、日に90万人で十分であろうという説もある。いずれにしても、ホワイトハウスのコロナウイルス対策調整担当のDeborah Birx は4月の記者会見で「ウイルスRNAを検出するPCR検査は、米国民全て日々検査を実現することは不可能」と述べた。
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[出典] "Coronavirus antigen tests: quick and cheap, but too often wrong?" Service RF. Science 2020-05-22 3;35 PM (EST)
米国のPCR検査は、日に~40万人について行われるようになったが、公衆衛生の専門家の中では、経済・社会活動を安全に進め、アウトブレイクを制御不能になる前に察知するためには、米国の総人口3.3億人の多くについて日々検査する必要があるとしており、また、一方では、日に90万人で十分であろうという説もある。いずれにしても、ホワイトハウスのコロナウイルス対策調整担当のDeborah Birx は4月の記者会見で「ウイルスRNAを検出するPCR検査は、米国民全て日々検査を実現することは不可能」と述べた。
Birxらは、RNA検出に替えて、唾液や鼻腔拭い液といった検体から直接ウイルスのタンパク質を検知する抗原検査を推している。抗原検査は、安く、速く、また、抗体検査と異なりウイルスRNA検出検査と同様に検査時点での感染の有無を判定可能とする。抗原検査は既に、連鎖球菌性咽頭炎、インフルエンザ、結核、その他の感染症の検知に利用され、SARS-CoV-2についても1件、Quidel社のSofia 2 SARS Antigen FIA [*], がFDAの緊急使用許可 (mergency use authorization , EAU)を認められている。
Sofia 2 SARS Antigen FIAを含む抗原検査は、Birxらの期待に応えられるであろうか。賛否両論であり、懐疑的な研究者は、抗原検査はPCR検査よりも明らかに精度が低く、スケールアップも容易ではないとしている。University of Washington, Seattleの臨床検査の専門家Geoffrey Bairdは、誰でもが安く、速く、うまい (高精度)を望むが、3条件のうちいずれかの2条件を満たすのが限界だとしている。
抗原検査の概要と感度の問題
抗原検査の概要と感度の問題
- 抗原検知は、SARS-CoV-2の抗原を認識する抗体をセットしたペーパー (検出用紙片)の一端に、検体と数mLのバッファー液との混合液を数滴たらし、毛細管現象によって検査用紙片を移動する混合液中の抗原に対して、検出用紙片に固定されている2種類の抗体が示す反応を、蛍光から視覚的に、または電気的に、検出する。したがって、抗原検査キットの肝は抗体にある。2種類の抗体は、他のコロナウイルスや病原菌の抗原に結合することなく、また、SARS-CoV-2上の同一抗原タンパク質の異なる2箇所に、互いに相互作用することなく、結合する特性を求められる。
- 抗原検査では、一般に抗体が非選択的にも結合する傾向を帯びていることが課題であるが、シグナルが微弱であることも課題である。
PCR検査では、RNAを増幅することで、数コピーのウイルス粒子も検出可能として、感度98%と特異度はほぼ100%を実現している(偽陽性は稀であり、偽陰性は拭い液採取の過程から生じる)。
抗原検査では、抗原を増幅することは無く、加えて、検出用紙片に流すために、検体をバッファー液で薄めることが、さらに感度を低下させることになる。これらの結果、多くの抗原検査の感度は50%~90%の範囲に留まる。また、2020年3月27日にスペインのEI Pais誌が報じたところによると 、深センのShengzhen Bioeasy Biotechnologyの抗原検査が陽性判定したのは、感染者の30%に過ぎなかったという。 - Quidel社は、Sofia 2 SARS Antigen FIAはFDAの基準である感度80%以上を満たしており (言い換えると、陽性者の20%を陰性と判定する)、また、検体をバッファーで希釈する必要がないバージョンで感度90%達成を目指しているとしているが、いずれにしても、最新のPCR検査の感度98%には及ばない。
- UCLAのOtto Yangは、感度90%と特異度100%が達成されたとしても、それでも1000人の感染者のうち100名を偽陰性と判定することになりその100名がスプレッダーとなるリスクを無視できないとし、検査結果はCOVID-19対策に混乱を招くことになるとしている。
抗原検査の特長
- 抗原検査にはPCR検査には無いメリットがある。第1に、PCR検査に必要な高額な装置や試薬を必要とせず、また、その使用のために訓練を必要としないことから、CLIAラボ以外の開業医、救急センター、病院、さらには、企業や学校でも行えるPOCTである。
- 第2に、判定が迅速であることから、感染者を短期間に隔離することが可能になり、また、偽陰性ゆえの感染者の見逃しも、検査を繰り返すことで、抑制可能である。
- 第3に、PCR検査よりも規模拡大が遥かに簡単である。検出用に高信頼性の抗体を設定できさえすれば、キットの大量生産が可能であり、また、PCR検査と違って運用する間に試薬を追加していく必要もない。Quidel社は、今週に282,000キットを出荷し、6月はじめには毎週100万セット出荷を見込み、いずれ、毎年8,400万キットを出荷する予定である。全米国民の抗原検査達成には及ばないが、90万人抗原検査は可能になる数字であり、Qidel以外にOraSureなどが、数千万のキット生産を見込んでいる。
- さらにキットの大量生産によって1ドル・キットが実現すれば、発展途上国にとって特に福音となるが、この点について、Bairdらは懐疑的である。現時点では、Quidel社の抗原検査において高感度を実現するには、1,200ドルの読み取り装置が必要であり、この装置は米国内に限られている。
[*] 参考:Quidel社のSofia 2 SARS Antigen FIA
- 2020年5月9日にFDAはSofia 2 SARS Antigen FIAのCLIAラボでの使用を認めた(1)。
- Sofia 2 SARS Antigen FIAは、SARS-CoV-2のヌクレオカプシド・タンパク質抗原を検知する設計であるが、陽性反応は、病原菌の感染やSARS-CoV-2以外のウイルスの共感染の可能性を排除するまでには至らず、また、陰性反応は、あくまでも推定であり、被験者の管理に利用するには、RNA検査で確定する必要がある。いずれにしても、COVID−19感染の有無は、病歴と他の診断と総合して判定すべきである (2)。
- 出典:(1) "Coronavirus (COVID-19) Update: FDA Authorizes First Antigen Test to Help in the Rapid Detection of the Virus that Causes COVID-19 in Patients" FDA 2020-05-09;(2) Letter from FDA to Quidel Corporation. 2020-05-06
- crisp_bio CRISPR/Casに基づくSARS-CoV-2/COVID-19検出法
- crisp_bio 新型コロナウイルス:SHERLOCK、唾液からの迅速その場検査も可能な"STOP"へと進化 (ラボ使用承認のバージョンはEUA承認を獲得済み)
- crisp_bio 新型コロナウイルス:Mammoth Biosciences, DETECTRに基づく簡易キット開発へ
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