[出典] "Cas9 activates the p53 pathway and selects for p53-inactivating mutations" Enache OM, Rendo V [..] Ben-David U. Nat Genet 2020-05-18.
背景と概要
- 今や機能ゲノミクスの有力なツールとなったCRISPR-Cas9 ノックアウト (KO)スクリーンとDNA損傷応答を担うp53の活性が相関することが報告されてきた [参考記事 1-3]。
- CRISPR-Cas9 KOスクリーンは、通常、Cas9を発現させた細胞にsgRNAライブラリーを導入することで進んでいくことから、Broad Institute, Dana-Farber Cancer Institute, Tel Aviv Uなどの研究グループは今回、Cas9の細胞への導入が細胞にもたらす作用を切り分けることを目指した。
- 同一の癌細胞株について、Cas9を導入していない細胞 (以下、WT line)とCas9を導入した細胞 (以下、Cas9 line)の間で、遺伝子発現プロファイルとゲノム変異の比較解析から「Cas9の発現がp53パスウエイを活性化し、p53を不活性化する変異を帯びた細胞を選択する (その結果, p53不活性変異を帯びた細胞が増加する)」と結論し、CRISPR-Cas9 KOスクリーンおよびCas9を利用したゲノム編集の解析にあたって、Cas9およびCas9-sgRNAの細胞導入その他の細胞操作とp53の活性との相関に留意すべきとした。
詳細データ
- WT lineとCas9 lineのペアを解析したのは165種類の癌細胞株である。この中で、p53野生型が43株、p53変異型が122株であった。
- L1000アッセイ[参考記事 4]、ウエスタンブロットとRT-qPCR、ターゲットシーケンス解析、およびGene Set Enrichment Analysis (GSEA)などを経て、WT lineとCas9 lineのペアの間で、活性化に顕著な違いが発生した遺伝子群とパスウエイを抽出した。
- ペアの間で発現レベルが2倍以上 (2 ~ 1,650倍)異なる遺伝子87種類が存在し、その多くがMSigDB Hallmark遺伝子 https://www.gsea-msigdb.org/gsea/msigdb/collections.jsp であった。
- Cas9 lineで顕著に活性化が見られたパスウエイはp53パスウエイとNF-κBシグナル伝達パスウエイであった。いずれのパスウエイもDNA損傷応答に関与する。また、DNA修復を示す特徴的な転写プロファイルが、TP53野生型と変異型を含む32ペアのCas9 lineで顕著であり、免疫蛍光法からは、3ペアについて、Cas9単独(sgRNAを伴わない)での二本鎖DNA切断が増加した。
- Cas9 lineでのp53パスウエアの活性化は、25ペアについて見られたが、その内訳を見ると、p53野生型の癌細胞の32.6%に対して、p53変異型の癌細胞株では9.1%に留まった。また、447種類の癌遺伝子配列を42ペアで比較したところ、Cas9 lineにてタンパク質コーディング領域を改変する新たな変異が平均4.5件発生していた。この中で、TP53を不活性化する変異が顕著であった。また、Cas9 lineに見られずWT lineだけにみられるTP53変異は存在せず、WT lineに存在していたTP53を不活性化する変異がCas9 lineで広がる傾向が見られた。TP53のこの傾向は、他の446種類の癌遺伝子には見られなかった。
- 次に、TP53ヌルのHCT116細胞株と同一遺伝子系でTP53野生型の細胞増殖競合アッセイを試みたところ、前者の割合が徐々に増加したが、Cas9導入はその傾向を加速した。一方で、TP53以外の癌抑制遺伝子ARID1AとFBXW7 はそうした効果を示さなかった。
- 以上、Cas9の発現は、p53を不活性化する変異を特異的に選択することが明らかになった。
Cas9の活性とTP53の活性
- これまでの報告からは、Cas9の活性がTP53不活性型細胞株に比べてTP53野生型細胞株で平均して低いことが示唆されてきたが、研究グループは、226種類のTP53野生型細胞株と493種類のTP53変異型細胞株におけるCas9活性を比較し、p53の活性が、Cas9の発現の障害になることを、再確認した。
p53の状態がCRISPR-Cas9 KOスクリーンと薬剤感受性に及ぼす影響
- Broad研が発表したCRISPR-Cas9 KOスクリーンとRNAiノックダウン (KD)スクリーンの結果[参考記事 5]を、TP53野生型細胞株 vs TP53変異型細胞株の観点から分析したところ、TP53野生型細胞株で、2種類のスクリーン結果が大きく乖離していた。
- TP53野生型細胞株にてCRISPR-Cas9 KOで必須性が高く出た遺伝子群は、DNA複製とDNA損傷修復、および、RNAプロセッシングとウイルス転写の2種類のカテゴリーに集中していた。さらに、TP53 RNAi KDに対するTP53 CRISPR-Cas9 KOの細胞増殖効果が、TP53野生型細胞株の中で、TP53パスウエイ不活性型よりもTP53パスウエイ活性型で顕著であった。したがって、Cas9の発現とp53パスウエイの相関が、CRISPR-Cas9 KOに影響を及ぼすことが明らかになった。
- 加えて、MCF7細胞のMDS2阻害剤 (nutlin-3)に対する感受性が、WT lineに比べてCas9 lineで高まることも見出し、薬剤耐性の分析にもCas9の発現がp53を活性化そしてまたはp53不活性化変異を誘導する影響に留意する必要があることが示された。
[参考crisp_bio記事]
- 2019-04-16 CRISPR/Cas9遺伝子治療におけるp53問題 (2報)
- 2019-08-14「p53がCRISPRスクリーンに及ぼす影響」を巡る議論
- 2019-11-04 CRISPR-Cas9遺伝子編集は、p53だけでなくKRASおよびVHLについても、その変異を帯びている細胞を選ぶ
- L1000アッセイ法の開発と利用に関する論文とcrisp_bio記事: "A next generation connectivity map: L1000 platform and the first 1,000,000 profiles" Subramanian A, Narayan R, Corsello SM [..] Golub TR. Cell 2017-11-30: 2017-12-03 第2世代Connectivity Map(CMap)では、130万種類の遺伝子発現プロファイルとの照合が可能に
- DepMap portal; 2019-04-13 Broad研とSanger研がそれぞれ独自にCRISPR-Cas9スクリーンにより同定した癌細胞株147種類の遺伝子16,733種類への依存性プロファイルは整合したか
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