[出典] "Interfering with retrotransposition by two types of CRISPR effectors: Cas12a and Cas13a" Zhang N, Jing X [..] Li X, Hao P. Cell Discov 2020-05-19.
背景と概要
- CRISPRエフェクターの中で、Cas12aとCas13aはCas9には無い特徴と機能を備えている。例えば、Cas13aは標的RNA切断活性と非選択的RNA切断活性 (以下、コラテラル活性)を備えていることが知られている [参考 1]。
- Cas13aはまた、宿主バクテリアを、RNAファージだけでなく、DNAファージからも保護することが報告された [参考 2]。
[crisp_bio注] Cas13aは、コラテラル活性を介して“ファージ感染細胞を休眠させることでDNAファージからバクテリア (Listeria 菌)を守り、集団免疫にも貢献する” 受動免疫 (passive protection)”応答を宿主バクテリアにもたらすことが報告された。 - この特徴から、Cas13aが生活環の中でDNA型とRNA型を行き来するレトロウイルスに干渉するにもってこいのエフェクタと発想したInstitute of Plant Physiology and Ecology, Institute Pasteur of Shanghai, Michigan State Universityの研究グループは今回、これまで主としてCas9エフェクターにより試みられてきたレトロウイルス防御策に代わり、RNA切断活性と受動免疫機能を供するCas13a、ならびに、Cas12aによるレトロウイルスのレトロポジションを阻害する戦略を考案し、Schizosaccharomyces pombeで検証した。
[crisp_bio注] クラス2タイプV CRISPRに属するCas12a (Cpf1)とクラス2タイプ VI CRISPRに属する一連のCas13の特徴とこれまでの応用が、このCell Discovery論文のイントロダクションに簡明にまとめられている。また、crisp_bioでは、crisp_bioコレクション: Cas12とcrisp_bioコレクション: Cas13に過去記事一覧をまとめている。
成果
レトロウイルスとゲノム構造、複製機構および生活環を共にするLTRレトロトランスポゾンTf1をモデルとして、CRISPR-Cas12aと-Cas13aによるレトロトランスポジション干渉を対象とする解析を進めた。
Cas12a
- はじめに、S. pombeにFnCas12a-crRNAと、合成イントロン導入により構築した一連のTf1スプライシングレポーターを導入し、スプライシングされたRNAから逆転写されたcDNA中間体を、Cas12a-crRNAでターゲッティングする系を構築した。
- Cas12aは、レトロトランスポジションを強く抑制するが完全には抑止しなかった。これは、ウイルス様粒子内に保護されているTf1 RNA/cDNA中間体のプールにより、Tf1のトランスポジション活性が僅かに維持されていることによると想定された。
- この残留活性はしかし、Cas12aのターゲッティングを持続可能とする新たなcrRNAsをカセットを用意することで、完全に排除することができた。
Cas13a
- 先行研究 [参考 3]で開発たLshCas13a導入済株において、Tf1 RNA中間体を標的とすることで、Tf1のトランスポジションを強く阻害することに成功した。
- しかし、宿主バクテリアにおけるCas13aと異なり、S. pombeでは、コラテラル活性を介した感染細胞の休眠化とファージの感染サイクルの停止には至らなかった。
- したがって、crRNAの標的RNAウイルスで活性化されるコラテラル活性のありようが、バクテリアと真核生物の間で異なることした。
[参考]
- crisp_bio 2017-10-05 CRISPR-Cas13によるRNAターゲッティングとエディティング: Cas13a
- crisp_bio 2019-05-30 Cas13は、ファージ感染細胞を休眠させることでDNAファージから守り、集団免疫にも貢献する
- "Implementation of the CRISPR-Cas13a system in fission yeast and its repurposing for precise RNA editing" Jing X et al. Nucleic Acids Res 2018-09-06.
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