2020-06-05 修正 (より侵襲性検査が可能な体表粘液を試み → より侵襲性検査が可能な体表粘液を試み: よりによって、意味が正反対になっておりました)
2020-05-29 初稿

[出典] "Rapid and accurate species identification for ecological studies and monitoring using CRISPR‐based SHERLOCK"  Baerwald MR [..] Schreier A. Mol Ecol Resour 2020-05-12

 自然環境において、表現型に基づいて生物種を正確に同定することは、必ずしも容易ではない。また、遺伝子検査による同定も行われているが、自然環境から採取した検体を遺伝子解析が可能な研究室に送る必要があり、結果を得るまで数時間を要する。California Department of Water ResourcesとUC Davisは今回Broad Instituteの協力を得て、CRISPR-Cas13aに基づくSHERLOCKにより、その場で迅速に正確な種同定が可能なことを実証し、CRISPR技術が生態学と保全生物学にも有用なツールであることを示した。
  • SHERLOCKは、核酸配列の等温増幅に、標的核酸配列を検知すると非選択的にRNAを切断するCas13aとレポータRNAのセットを組み合わせた超高感度な核酸検出を実現したツールである。研究グループは、サンフランシスコ河口にみられる表現型が極めて似通った3種類の魚類の判別を試みた。
  • 対象は、絶滅寸前 (Critically Endangered: CR)と認定されているDelta Smelt (Hypomesus transpacificus; DSM), 保護の対象候補と位置づけられたLongfin Smelt  (Spirinchus thaleichthys; LFS), および外来種のワカサギ (Hypomesus nipponensis; WAG)である [Wikipedia引用下図参照]。Wakasagi
  • いずれもキュウリウオ科 (Osmeridae)に属し、表現型から識別することが、特に幼年期、困難である。
  • プライマーと、ミトコンドリア・シトクロムb (cyt-b)を標的とするcrRNAを設計し、LwCas13aベースのSHERLOCKで、ヒレ組織を検体として上記3種類に他の魚類も加えた同定を試み、特異度100%を得た。感度は、DSMとLFSでは300 copies/reactionに達したが、WAGの場合は ~2,000 copies/reactionであった。蛍光に基づく検出時間は~20分とqPCRの4分の1程度であった。
  • 検体として、ヒレ切片からのDNA抽出に代えて、より非侵襲性検査が可能な体表粘液を試み、粘液からDNAを抽出することなくリン酸緩衝生理食塩水で緩衝することで、SHERLOCKによる種の同定が可能なことを実証した。
  • また、ラテラルフローアッセイにより、溶液をキットに加えてから40分程度で、目視判定が可能なことも確認した。したがって、検体採取から同定まで、その場で、1時間以内に完了するプロトコルの可能性が広がり、ひいては、外来種の制御の他にも、魚類を保護する川の流量調節や、生物を介した環境モニタリングも容易になる。
  • 今回の実験データは、データ公開サイト (DRYAD)から公開されている:https://dx.doi.org/10.5061/dryad.hdr7sqvd3
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