2020-07-04 原論文を取り上げたPERSPECTIVEへのリンクを追加: PERSPECTIVE "Shutting down RNA-targeting CRISPR" Barrangou R, Sontheimer EJ. Science 2020-07-03. [Csa13a活性阻害のモデル図参照]
2020-05-29 初稿

[出典] "A phage-encoded anti-CRISPR enables complete evasion of type VI-A CRISPR-Cas immunity" Meeske AJ, Jia N [..] Patel DJ, Marraffini LA. Science 2020-05-28.

  バクテリアのCRISPR-Cas9獲得免疫応答に対するファージの対抗手段が、anti-CRISPRタンパク質 (Acr)である。Cascade, Cas9, Cas12a [1] に続いて、Cas13に対するAcrも最近同定された [2]。Cas13ヌクレアーゼは、crRNAに相補的なウイルス転写物を認識し、タイプIV CRISPR-Casシステムの抗ウイルス反応を活性化する間に、宿主とウイルスRNAの双方を分解する。ファージが、このCas13ヌクレアーゼによる切断をAcrsを介して免れる機構は不明であった。
  • Rockefeller UniversityにMemorial Sloan Kettering Cancer CenterにCornell Universityが加わった研究グループは、Listeria spp分離株から分離したリステリオファージ(listeriophage, ϕLS46)から、実験により、新奇Acrを発見し、これをAcrVIA1 (“type VI-A anti-CRISPR 1”)と命名した。
  • 続いて、AcrVIA1がCas13aに抗する分子機構を、生化学および構造生物学によって探った。後者では、クライオ電顕法でCas13a-crRNAと、それにAcrVIA1が結合した複合体の構造を再構成した。
  • その結果、AcrVIA1は、Cas13aとcrRNAの双方と相互作用することで、Cas13aのcrRNAに相補的な標的RNAへの結合を阻害すると共に、そのヌクレアーゼ活性も阻害し、宿主バクテリアListeria seeligeri Cas13aのcis-RNaseもtrans-RNase (コラテラル活性)も不活性化することが明らかになった。
  • 今回、Cas13aの免疫応答が、個々のウイルス粒子が帯びているAcrVIA1が1回侵入するだけでに無力化され、ファージは容易に宿主バクテリアに感染することが明らかになった。これは、DNAを標的とするCas-Cas3とCas9ヌクレアーゼの場合と対照的である。後者では、対抗するAcrsによるヌクレアーゼの抑制が部分的なため、宿主のCRISPR免疫応答を免れて感染するには、ファージは繰り返しチャレンジする必要がある。
[構造情報]
  • 6VRC/EMD-21367 (Cas13a-crRNA); 6VRB/EMD-21366 (AcrVIA1-Cas13a-crRNA)
[引用crisp_bio記事]
  1. crisp_bio 2020-03-22 [レビュー]抗-CRISPRタンパク質 (Acrタンパク質)
  2. crisp_bio 2020-05-01 バクテリアでもヒト細胞でもCas13のRNA編集を阻害するAcrsを同定 - Cas13の活性制御に利用可能