[出典] "In vivo base editing restores sensory transduction and transiently improves auditory function in a mouse model of recessive deafness" Yeh WH, Shubina-Oleinik O [..] Holt JR, Liu DR. Sci Transl Med 2020-06-03.
[記事タイトルに関する注] 日本遺伝学会が優性・劣性に代えて顕性・潜性の使用を提案し、日本学術会議もこれを推奨 (「高等学校の生物教育における重要用語の選定について (改訂)」2019年)
筆頭著者の1人Wei-Hsi Yehと責任著者のJeffrey R. HoltとDavid R. Liu らは、先行研究 [1]で、常染色体顕性(優性)難聴モデルマウス、ベートーベンマウス (Tmc1Bth/WT) においてTmc1遺伝子の病因変異アレル (c.T1235A; p.M412K)をCRISPR-Cas9遺伝子編集技術により改変することで、ある程度の聴力回復を実現していた。具体的には、病因変異アレルを標的とするCas9-sgRNAのRNPをカチオン性脂質との複合体ナノ粒子として内耳蝸牛に直接注入し、野生型アレルを維持しつつ変異アレルを特異的に破壊、野生型アレルを介して、音響振動を神経電気信号に変換する有毛細胞の一部回復と聴力の一部回復を実現した。
しかし、常染色体顕性変異は遺伝性難聴の12-13%であり、遺伝性難聴のほとんどは常染色体潜性 (劣性)変異に由来する (KEGG DISEASE)。先行研究は、野生型に対する1塩基の差異を識別して変異型アレルを特異的に破壊可能なことを実証したが、常染色体潜性 (劣性)変異の修復には、野生型アレルの復活が必要であり、Cas9で破壊する手法は適用できない。
研究グループは今回、David R. Liuらが開発し改良を重ねてた二本鎖DNA切断を介さず塩基変換を可能とする塩基エディター (BE)を採用し、常染色体潜性 (劣性)変異アレルの野生型アレルへの変換を実現した。
- Tmc1遺伝子に機能喪失点変異 (c.A545G; p.Y182C)を帯び、聴覚を完全に喪失していることを確認したBaringoモデルマウス にて実験を進めた。
- 研究グループはCBEmaxの変異体 [2]とgRNAをBaringoマウス胚由来線維芽細胞にてテストし、デアミナーぜとしてAIDを組み込むCBEmax (AID-CBEmax)を選択した。
- また、AID-CBEmaxは大型 (~5.2 kb)であり、単一のAAVではデリバリー不可能であったところ、N末端側とC末端側二分割し、二分割したインテイン (intein-split [3])を介して、デュアルAAVによるデリバリーを実現するとともに、標的細胞での一体化も実現した。
- デュアルAID-CBEmax AAVsを出生後1日目のBaringoマウスの内耳に直接注入することで、Tmc1転写物において、Tmc1 c.A545G点変異の51%が野生型 (c.A545A)へと変換されることを見出した。
- このin vivo Tmc1修復は、内耳細胞における音響振動から神経電気へのシグナル変換と有毛細胞の形態の修復につながり、注入後4週間後には、低周波聴力が一時的回復も見られた。
長期的な有毛細胞と聴力の回復維持に向けた塩基変換の効率向上や、BaringoマウスのTmc1変異に対応するヒトTMC1変異の同定など、課題は残っているが、本研究は、塩基エディターによって、病因となる常染色体潜性機能喪失変異の修復が可能なことを実証した。
[引用または参考crisp_bio記事]
[引用または参考crisp_bio記事]
- CRISPRメモ_2017/12/22 [第3項] Cas9-sgRNA RNPをカチオン性脂質でベートーベン・マウスに直接送達することで、常染色体優性難聴の遺伝子治療が可能性なことを示した;関連記事 2019-07-12 ベートーベン・マウスの聴力を、SaCas9-KKHを介した変異アレル特異的遺伝子編集により回復
- 2020-02-12 LiuグループによるCBE (C:G-to-T:A)の高精度化
- 2020-01-16 CBEまたはABEを2分割することで、AAVsによるマウス各臓器へのデリバリーを実現;2018-10-10 一塩基編集 (BE)によるフェニルケトン尿症モデルマウスのin vivo遺伝子治療
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