[出典] "Partner independent fusion gene detection by multiplexed CRISPR-Cas9 enrichment and long read nanopore sequencing" Stangl C [..] van Haaften G, Monroe GR. Nat Commun 2020-06-05

 University Medical Center Utrecht and Utrecht Universityを主とする研究グループの成果、FUDGEはFUsion Detection from Gene Enrichmentに由来する。

 最近の報告によるとヒト癌の16%までが、前立腺癌と慢性骨髄性白血病(CML)にそれぞれ特異的に見られるTMPRSS2-ERGBCR-ABL1のような融合遺伝子によってもたらされている(Cell Rep, 2018)。

 融合遺伝子は染色体の転座、挿入、逆位によって生じ、その組合せとブレイクポイントは極めて多様であり、KMT2A (旧名 MLL)のように多様な遺伝子と相互転座を引き起こして発癌性を発揮する遺伝子(recurrent fusion partners: 以下、RFP)も存在する。このため、癌の予後の予測や療法の選択に有用な融合遺伝子の検出は、容易ではない。

 これまでにFISHやRT-qPCR技術によるアッセイに続いて、NGSに基づくアッセイ法が登場して、ようやくRFPが関与する融合遺伝子の検出も可能になったが、時間とコスト、および、高度なバイオインフォマティクスを必要としていた。最近、CRISPR-Cas9技術による関心あるゲノム領域 (region of interest: ROI)をエンリッチメントした上で、Oxford Nanopore Technology (ONT)のロングリードシーケンシングを施すnCATSが開発された。しかし、nCATSでは、ROIに隣接する領域の配列データを必要とするために、未知のパートナー遺伝子との組合せからなる融合遺伝子を検出できなかった。

 FUDGE法開発において、CRISPR-Cas9技術によるROIのエンリッチからロングリードかつリアルタイムのONTシーケンシングまでのプロトコルを確立し、加えて、データ解析ツール (NanoFG)も開発することで、融合遺伝子を構成する遺伝子の一方が既知であれば、そのパートナーが未知であっても、融合遺伝子とブレイクポイントの同定が可能になった (FUDGEのワークフローについてFig. 1引用下図参照)。Fudge
 FUDGE法を、融合遺伝子のペアとブレイクポイントが特定されている3種類の癌細胞株の分析、患者由来の6種類の癌細胞における融合遺伝子のブレイクポイント発見、パートナー遺伝子が不明またはブレイクポイントが不明な2種類の癌細胞でのブラインドテスト、によって順次評価した。

 
FUDGE法によって、事前知識の有無に関わらず、急性骨髄性白血病 (AML)、ユーイング肉腫、大腸癌などの癌細胞から48時間以内に融合遺伝子パートナーとブレイクポイントとを特定した。

 また、少量のDNAサンプル (10 ng)および多重サンプルからの検出も実現し、アッセイの経費節減も実現した。さらに、日常的に行われている診断法では融合遺伝子を検出できなかった検体から、新規融合遺伝子を2日の間に検出することに成功した。