[出典] "Targeted In Situ Protein Diversification and Intra-organelle Validation in Mammalian Cells" Erdogan M, Fabritius A, Basquin J, Griesbeck O. Cell Chem Biol 2020-05-21.

 CRISPR/Cas9のDNA二本鎖切断 (DSB)からの細胞内在修復機構を利用した多様な酵母の変異体 [1]や多様な抗体 [2]の作出が報告されてきたが、MPI NeurobiologieとMPI Biochemieの研究チームは今回、CRISPR/Cas9 HDRを介してHEK293細胞内で蛍光タンパク質の膨大な変異体を誘導し、細胞小器官リソソームでのスクリーンにより、蛍光タンパク質mRuby3からリソソーム内の酸性環境でも十分な蛍光を発光しかつストークスシフトが長い蛍光タンパク質に至り、これをmCRISPRedと称し、この手法は、内在タンパク質を含む任意のタンパク質に展開可能であるとした。

手法など
  • 安定発現細胞株として知られているFlp-In™ HEK293 (Thermo Fisher)にCas9ヌクレアーゼを導入し (HEK-FRT-Cas9)、その上で、関心のあるタンパク質 (POI)をコードしつつ微小な欠損またはフレームシフトを帯びた遺伝子を1コピー導入する (論文Fig. 1 参照)。
  • 続いて、sgRNAsとssODNsを導入することで、多様な変異体を誘導し、細胞質内、細胞区画内または細胞小器官内で、望ましい特性の変異体をスクリーンする。NHEJによる修復が進行したクローンは、上記欠損またはフレームシフとの回復に加えてレポータ遺伝子の発現で排除する。POIの微小欠損・フレームシフトは、Cas9編集が進行するまでPOIの発現を抑制する意味もある。
  • 蛍光タンパク質は外因性タンパク質であるが、POIが内因性タンパク質の場合も、POIをコードする配列にCRISPR/Cas9の標的となる20-ntの長さの合成DNAを組込んだ後に、Flp-In™ HEK293細胞に導入することで、展開可能と考える。
  • 論文には、mCRISPRedにmRuby3に優る特性をもたらした一連のアミノ酸変異とその作用機序についても詳述されている。
参考crisp_bio記事
  • CRISPRメモ_2018/05/22 [第2項] モデル生物酵母における高速機能ゲノミクスの基盤構築
  • CRISPRメモ_2018/05/03 [第1項] CRISPR/Cas9 HDRを介して哺乳類細胞での抗体ハイスループット・スクリーニングを実現 - homology-directed mutagenesis (HDM)法