[出典] "Development of CRISPR-Cas13a-based antimicrobials capable of sequence-specific killing of target bacteria" Kiga K [..] Cui L. Nat Commun 2020-06-10  < bioRxiv 2019-10-17/-11-18. 
[注] 本論文の研究内容については、bioRxivに準拠して2019-10-23付「 薬剤耐性遺伝子特異的にバクテリアを殺菌するCRISPR-Cas13a抗菌剤」にて投稿したが、Nature Communication掲載バージョンに準拠してテキストを改訂し再投稿した。

 自治医科大学にUniversity of Glasgowと国立感染症研究所が加わった研究グループは今回、Cas13a-crRNAシステムが、crRNAの標的RNAを認識すると、crRNAと非相補的ssRNAsを宿主内在ssRNAsも含めて無差別に切断するコラテラルssRNA切断活性を利用して [1-2]、配列特異的にバクテリアを殺傷する抗菌剤を実現した。

 研究グループは、先行研究で同定 [3]したCRISPR-Cas13aの中でLeptotrichia shahii由来Cas13a (LshCas13a)の殺菌性
をカルバペネム耐性遺伝子を帯びた大腸菌で確認した上で、LshCas13a-crRNAをファージのカプシドに組み込みデリバリーする手法を確立し、これをCaspsidCas13aと命名した。
  • E. coliファージのM13カプシドに組み込んだCapsidCas13aは、一連のカルバペネム耐性遺伝子とコリスチン耐性遺伝子2種類のいずれかをゲノム上またはプラスミド上に帯びたE. coliを耐性遺伝子選択的に殺傷した。また、CapsidCas13aは、カルバペネム耐性遺伝子を帯びたE. coliを感染させたGalleria mellonella (ハチノスツヅリガ)胚の寿命を伸ばす効果も示した。
  • CapsidCas13aは、カルバペネム耐性遺伝子とコリスチン耐性遺伝子それぞれ帯びたE. coliと耐性遺伝子を帯びていないE. coliの混合培養した場合でも、crRNAに対応した耐性遺伝子を帯びているE. coliを選択的に殺傷した (Fig. 3引用下図参照)。Fig. 3
  • CapsidCas13aを、配列特異的バクテリア殺傷ツールからバクテリア遺伝子検出・同定ツールへと展開した。感度を向上させるために、カルバペネム耐性遺伝子に対するcrRNAを最適化し、M13ファージカプシドをキャリアとする手法に替えて溶原性ファージ Φ80を介したファージ誘導性染色体アイランド (phage-inducible chromosomal island, PICI) [Supplementary Figure 3引用下図参照)Suppl
    を介して、カルバペネム耐性遺伝子対応crRNAにカナマイシン耐性遺伝子またはハイグロマイシン耐性遺伝子を加えたCapsidCas13aを導入した上で、カナマイシンまたはハイグロマイシンを帯びた寒天培地上でコロニー形成の有無を確認することで、臨床検体におけるカルバペネム耐性遺伝子の有無を、核酸増幅と光学機器を使う事なく簡便に判定可能なことも実証した。
  • CapsidCas13aの手法は、グラム陰性菌Staphylococcus aureusについても、S. aureusファージ80αカプシドを利用することでメチシリン耐性遺伝子について、E. coliのカルバペネム耐性遺伝子とコリスチン耐性遺伝子の場合と同様に、適用することができた。
 CaspsidCas13aは、ファージカプシドの宿主領域、Cas13aの作用機序の詳細、ファージカプシドのパッケージング効率、遺伝子組換えに関する倫理など、実用化に向けて課題を残しているが、遺伝子配列特異的な抗菌剤としてだけでなく、微生物叢内の特定のバクテリアを選択的に除去するツールや、簡便で低コストな薬剤耐性遺伝子検出ツールとしても、有望である。

 [参考crisp_bio記事]