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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[2024-06-19] 記事タイトルを「塩基エディター (ABE)による家族性高コレステロール血症治療薬VERVE-101の治験前進」から「塩基エディター (ABE)による家族性高コレステロール血症治療薬VERVE-101とVERVE-102」に改訂
2024-06-18 VERVE-101VERVE-201の論評が、Expert Opinion on Investigational Drugs誌から出版された: Editorial "VERVE-101, a CRISPR base-editing therapy designed to permanently inactivate hepatic PCSK9 and reduce LDL-cholesterol" Hooper AJ, Tang XL, Burnett JR. Exert Opin Investig Drugs. 2024-06-15. https://doi.org/10.1080/13543784.2024.2369747
[所属] PathWest Laboratory Medicine WARoyal Perth Hospital & Fiona Stanley Hospital Network, U Western Australia.

 塩基編集は、Cas9ヌクレアーゼによるゲノム編集より安全な可能性があり、肝臓におけるPCSK9産生を永久的に不活性化することで、長期にわたりLDL-コレステロールを抑制する。しかしながらVerve社の"概念実証 "Heart-1試験の中間解析では、デキサメタゾンと抗ヒスタミン剤にをる前投薬にもかかわらず、VERVE-101の高用量で一過性の軽度から中等度の注入関連反応とALT (GPT)上昇が見られ、さらに重要なこととして、試験参加者のうち2人に心血管系イベントが発生したことで、安全性に関するいくつかの懸念が提起されている。Verve社は最近、わずか13名の患者を登録した後、Heart-1試験への登録を中止した。別の患者がALT上昇と血小板減少で入院を必要とする重篤な薬物関連有害事象を経験したためで、現在はVERVE-102の開発に優先順位を移している。

 VERVE-102は、VERVE-101と同じ塩基エディターとガイドRNAを使用するが、異なるLNPデリバリーシステムを使用する。この送達システムには、他の臨床試験で良好な忍容性を示した異なるイオン化可脂質が含まれており、肝臓を標的とするためにN-アセチルガラクトサミン (GalNAc)-LNPが組み込まれている。VERVE-102はHeart-2試験(NCT06164730)で評価される。この試験は、LDL-コレステロールの追加低下を必要とするヘテロ接合体FHまたは早発性冠動脈疾患の患者にVERVE-102を投与し、その安全性と薬力学的プロフィールを評価する非盲検の第Ib相単回漸増投与試験である。本試験は2024年5月に英国とカナダで募集を開始し、試験期間は1年、推定登録者数は36名、終了予定は2026年8月である。

 CRISPR塩基編集療法は有望な技術ではあるが、Heart-1臨床試験におけるVERVE-101で実証されたように、オフターゲット効果や長期的な健康・安全性への不確実な影響など、リスクがないわけではない。これは、現在使用されているPCSK9阻害剤が一般的に忍容性が高く、注射部位に関連したものを含めて有害事象の発生率は低いことと、対照的である
。一過性の生化学的・血液学的の擾乱はLNPデリバリー・システムに関連していると考えられており、イオン化可能な脂質とGalNAc肝臓標的リガンドを用いたHeart-2試験の結果が注目される。

2024-05-25 Heart-1第1b相臨床試験の一時中断するに至った経緯がHuman Gene Therapy誌の短報として発表された:Verve Pauses Enrollment in Base Editing Trial after Adverse Events” Philippidis A. Hum Gene Ther 2024-05-22. https://doi.org/10.1089/hum.2024.28412.bfs [所属] Mary Ann Liebert, Inc;投与後4日以内に無症候性のグレード3の一過性の血清アラニンアミノトランスフェラーゼ上昇と血小板減少が発生したことを契機として一時中断に至った。

2024-04-04 Verve Therapeutics社、VERVE-101のHeart-1第1b相臨床試験の一時中断を決定し、株価が30%以上低下、最安値を記録か
[出典] "Verve Therapeutics Announces Updates on its PCSK9 Program" 2024-04-02
https://ir.vervetx.com/news-releases/news-release-details/verve-therapeutics-announces-updates-its-pcsk9-program; "An Update on Human CRISPR" Lowe D. Science 2024-04-03 12:23 PM ESThttps://www.science.org/content/blog-post/update-human-crisp

 6人の参加者にVERVE-101を0.45mg/kg投与し、少なくとも28日間追跡調査された最初の5人の参加者において、VERVE-101は時間平均で21%から73%、平均で46%のLDL-Cの減少を示した (2024年3月18日のデータカットオフ時点)。0.45mg/kgまたは0.6mg/kgのコホートで最も追跡期間が長かった2人の患者では、LDL-C低下は270日まで持続しており、追跡調査は継続中である。

 しかしながら、0.45mg/kgコホートで治療を受けた6人目の患者は、投与後4日以内にグレード3の薬剤誘発性一過性の血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)上昇とグレード3の薬剤誘発性血小板減少という重篤な有害事象を経験した。参加者は検査値異常に関連する出血やその他の症状を経験せず、ステロイド治療異常は数日以内に完全に消失した。 

 なお、同社はVERVE-101で使用したのとは異なる脂質ナノ粒子を利用する第二のPCSK9編集療法 (VERVE-102) を開発中であり、低用量でも有効なことが期待されている。

2023-11-18 
VERVE-101の臨床試験において、ヒト生体内での悪玉コレステロールのレベル低減を実証
[出典] "Base editing, a new form of gene therapy, sharply lowers bad cholesterol in clinical trial" Kaiser J (記者). Science. 2023-11-12. https://doi.org/10.1126/science.adm8865
  • フィラデルフィアで開催されたAmerican Heart Association (AHA)でのVerve Therapeutics社の発表を紹介
  • 三人の患者に投与後6ヶ月の時点で、PCK9タンパク質のレベルが47~84%低下し、LDLのレベルが39ー55%低下
  • 1名は心停止で死亡、もう1名は投与翌日に心臓麻痺を起こした。前者についてはVERVE-101の投与とは関連しないと安全審査の結果判定され、後者については、投与前に胸の痛みの自覚症状があったことを認識しないままの投与であり、事前に申告されていれば投与しなかったという見解。
  • [AHA News] "A single infusion of a gene-editing medicine may control inherited high LDL cholesterol" American Heart Association 2023-11-12.  https://newsroom.heart.org/news/a-single-infusion-of-a-gene-editing-medicine-may-control-inherited-high-ldl-cholesterol
2023-10-28 Verve Therapeutics社、家族性ヘテロ接合性高コレステロール血症患者を対象とした生体内塩基編集技術をベースとするVERVE-101のIND (Invetigatoinal New Drug) 申請が承認され、米国での治験を再開へ (英国とニュージーランドでは進行中) [出典] Press Release. Verve Therapeutics. 2023-10-23. https://ir.vervetx.com/news-releases/news-release-details/verve-therapeutics-announces-clearance-investigational-new-drug

2023-01-21 MIT Technology Review が、Verve ThrapeuticsのVERVE-101をCRISPR療法として"2023年の画期的技術10件"の一つとしてハイライトした。
[出典] "Next up for CRISPR: Gene editing for the masses?" Hamzelou J. MIT Technology Review. 2023-01-19. https://www.technologyreview.com/2023/01/19/1067074/next-for-crispr/
 
2022-11-05 非ヒト霊長類における試験結果
[出典] "Efficacy and Safety of an Investigational Single-course CRISPR Base Editing Therapy Targeting PCSK9 in Non-human Primate and Mouse Models" Lee RG, Nazzoka AM, Braun MC [..] Khera AV. Cirulation 2022-10-31.
https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.122.062132
 VERVE-101は、非ヒト霊長類 (カニクイザル)において忍容性が高く、血中PCSK9タンパク質を83%、LDL-Cを69%低下させ、投与後476日まで効果が持続した。これらの結果は、ヘテロ接合型家族性高コレステロール血症とアテローム性心血管系疾患を持つ患者を対象としたファーストインヒューマン臨床試験の開始を支持した。 
 
2022-07-13 Verve Therapeutics,ヘテロ接合性家族性高コレステロール血症の治療薬として,生体内塩基編集薬「VERVE-101」を初めてヒトに投与 [出典] News Release "Verve Therapeutics Doses First Human with an Investigational In Vivo Base Editing Medicine, VERVE-101, as a Potential Treatment for Heterozygous Familial Hypercholesterolemia" Verve Therapeutics. 2022-07-12 6:30 AM EDT. 
 Verve社は,アテローム性動脈硬化症の一種であるヘテロ接合型家族性高コレステロール血症患者を対象としてニュージーランドで開始したフェーズ1b臨床試験「heart-1」にて,最初の患者にVEWRVE-101を投与したと発表した.VERVE-101は,塩基エディターABEをベースとした遺伝子編集薬剤の単回投与によって,肝臓のPCSK9遺伝子を永久的に不活性化し,疾患の原因となる低密度リポタンパク質コレステロール (LDL-C)を減少させる治療法である.heart-1試験の安全性パラメータ,血中PCSK9値,血中LDL-C値などの中間臨床データは,2023年に発表される予定である [臨床試験登録番号 NCT05398029].

2022-05-21
5月10日付のVerve社のニュースリリース [*]を受けて,ブログ記事タイトルを「LDLコレステロールとトリグリセライドを抑制する 塩基エディター (ABE)をベースとするVERVE-101の開発進む」から「塩基エディター (ABE)による家族性高コレステロール血症治療薬VERVE-101の治験前進」へと改訂した.
[*] Verve社は,「2022年半ばにニュージーランドにて,ヘテロ型家族性高コレステロール血症 (HeFH)患者への投与を開始し,2023年中の初期臨床データを取得を見込み」,「2022年後半に向けて,英国と米国でのVERVE-101薬事申請を準備中」と発表した.
 また,ホモ型家族性高コレステロール血症 (HoFH)患者と従来の療法でLDL-C抑制を達成できなかったアテローム性動脈硬化症 (ASCVD)患者を対象とするANGPL3プログラムにおいて,非ヒト霊長類4例において,肝臓における ANGPTL3 遺伝子を標的とする塩基エディターによる療法が有効性を示し,肝毒性を伴わなかったことから,2022年の後半にIND (Investigational New Drug)試験開始を見込んでいるとした.

[出典] NEWS RELEASE "Verve Therapeutics Announces Clearance of First VERVE-101 Clinical Trial Application and Outlines Global Clinical Development Strategy; Reports First Quarter 2022 Financial Results"  Verve Therapeutics 2022-05-10

2021-09-24 Verve Therapeuticsが,TIDES USA (Oligonucleotide & Peptide Therapeutics Conference) にて,VERVE-101について36匹の非ヒト霊長類 (NHP)を用いた新しい前臨床試験およびパイロット試験のデータを報告した [crisp_bio注 本記事タイトルを"LDLコレステロールとトリグリセライドを抑制する 塩基エディター (ABE)をベースとするVERVE-101の開発進む"に改訂した].
[出典] PRESS RELEASE "Verve Therapeutics Reports New Preclinical Data with VERVE-101 Demonstrating Robust, Durable and Precise Editing of the PCSK9 Gene for the Treatment of Cardiovascular Disease" GlobeNewswire, Intrado. 2021-09-23 06:30 EST.

  • VERVE-101は塩基エディターのABEをベースとする製剤である.
  • 作用機序: PCSK9遺伝子の不活性化によるPCSK9タンパク質レベルの持続的低下 -> LDL受容体の発現亢進 -> 低比重リポタンパク質コレステロール (LDL-C)レベル低下 -> アテローム性動脈硬化性心血管疾患 (ASCVD)のリスク低減.
  • 今回の発表には,非ヒト霊長類 (NHP)を用いた長期にわたる有効性と安全性の試験,マウスの部分肝切除モデルを用いた試験,成熟した成体NHPを用いた生殖細胞編集評価,およびONE-seq と Digenome-seq を用いたオフターゲット編集評価が,含まれている.
  • パイロット試験から,PCSK9蛋白質および低密度リポ蛋白質コレステロールが15ヶ月間持続的に減少することを確認した.
  • 生殖細胞での編集は発生しないことを確認した.
  • ヒト肝細胞における244の潜在的な部位に,オフターゲット編集が発生しないことを確認した.
  • 2022年のIND (Investigational New Drug)申請に向けてVERVE-101の研究開発を継続する.
  • TIDES 2021での発表スライドが公開されている: "Safety and Durability of VERVE-101" Andrew Bellinger. TIDES 2021 September 23, 2021. 
2021-05-29 論文のハイライト記事へのリンクを追加: crisp_bio 2021-05-29 [ハイライト] ABEで高コレステロール血症を狙い撃ち - 非ヒト霊長類モデルで実証https://crisp-bio.blog.jp/archives/26498356.html

2021-05-21
Nature 掲載論文の書誌情報とアブストラクト(訳),および他の塩基エディターを利用した同様の研究紹介crisp_bio記事へのリンクを以下に追記: "In vivo CRISPR base editing of PCSK9 durably lowers cholesterol in primates" Musunuru K, Chadwick AC [..] Kathiresan S. Nature. 2021-05-20. https://doi.org/10.1038/s41586-021-03534-y

 ヒトを対象とする遺伝子治療の臨床試験に進む前に,ヒト以外の霊長類にてヒトの治療標的と同じ臓器で,編集結果が維持され.安全であることを実証することが必須である.研究グループは,カニクイザル (Macaca fascicularis)の生体内へ脂質ナノ粒子を介してデリバリーしたABE8.8 [*]が,標的とした疾患関連遺伝子を効率的かつ正確に改変できることを実証した.
[*] Beam Therapeutics、ABE7.10をABE8へと進化.https://crisp-bio.blog.jp/archives/22292646.html
  • 脂質ナノ粒子の1回投与によって,肝臓内のPCSK9がほぼ完全にノックダウンされ.同時に,PCSK9の血中濃度が〜90%,低密度リポタンパク質 (LDL)コレステロールが~60%低下した.
  • 脂質ナノ粒子の1回投与の効果は,投与後少なくとも8ヶ月間安定していた.
  • 今回の成果は,LDLコレステロールの低下と世界的な死亡原因の第7位の動脈硬化性心疾患に対する'once-and-done'治療の可能性を示すと共に,ABE8.8によって肝臓などの臓器において治療標的遺伝子を1塩基の精度で修復する技術の可能性も示した
  • [crisp_bio注] 初稿で引用した記事と異なって,Methodが詳細に記述されていることは言うまでもないが,主たる成果については,カニクイザルが7頭から8頭に増え,おそらくそれに応じて効率を示す数字が若干変更されたに止まっているように見える.
 [crisp_bio関連記事]
  • 2021-05-19 塩基エディターからゲノムワイドとトランスクリプトームワイドのオフターゲット変異誘発を排除するhttps://crisp-bio.blog.jp/archives/26362591.html -  (transformer BE (tBE)にて)PCK9タンパク質と血清中の総コレステロールの低減を実証
2020-06-28 初稿
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[出典] NEWS "I
n its first tough test, CRISPR base editing slashes cholesterol levels in monkeys" Begley S STAT 2020-06-27; ICCSR 2020講演者・Verve Therapeutics共同設立者Kiran Musunuruのツイート[文末に引用]

 ICCRS (国際幹細胞学会) 2020 Virtual Meetingの"Clinical Innovation & Gene Editing"プレナリーセッションにでVerve Theratpeuticsの共同設立者Kiran Musunuruが、カニクイザルにPCSK9ANGPTL3を標的する塩基エディター (ABE)を脂質ナノ粒子で送達した結果を報告した [Verve TheratpeuticsはABEをBeam Theratpeuticsからライセンスしていた]。
  • PCSK9を標的とした7頭:編集効率 67%; PCSK9レベル 89%減; LDLコレステロール 59%減
  • ANGPTL3を標的とした7頭: 編集効率 60%; ANGPTL3レベル 95%減; LDL コレステロール 19%減; トリグリセライド(TG/中性脂肪)レベル 64%減
  • カニクイザルとヒト培養肝細胞にはABE編集による異常はみられなかった (オフターゲット編集の配列レベルでの解析については言及されず)
先行研究
 2006年から2010年にかけて、PCSK9およびANGPTL3のナンセンス変異が、それぞれ、LDLコレステロールのレベルと冠動脈疾患のリスクの低減、および、トリグリセライドのレベルと心疾患のリスクを低減することが、報告されていた。
  1. PCSK9ナンセンス変異: "Sequence Variations in PCSK9, Low LDL, and Protection against Coronary Heart Disease" Cohen JC [..] Hobbs HH. N Engl J Med 2006-03-23. 
  2. ANGPTL3ナンセンス変異: "Exome Sequencing, ANGPTL3 Mutations, and Familial Combined Hypolipidemia" Musunuru K [..]  Kathiresan S. N Engl J Med 2010-12-02
  3. ANGPTL3とTGレベルおよびLDLレベルとの相関: "Biological, Clinical and Population Relevance of 95 Loci for Blood Lipids" Teslovich TM, Musunuru K [..] Kathiresan S. Nature 2010-08-05
研究の経緯 - Kiran Musunuruのツイートとcrisp_bio記事から
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