2020-12-12 Cell誌のPREVIEW記事へのリンクを追加: Cas9 in Human Embryos: On Target but No Repair. Hoffman ER, Roig I. Cell 2020-12-10. https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.11.022 - Cell誌同号に出版されたZuccaro論文は、Cas9によるオンターゲットでのDSBは、90%を超えるヒト胚において、染色体の欠損または誤った修復結果をもたらすことを示し、DSBを介したゲノム編集による"gene surgery"に重大な疑問をもたらした。
2020-10-31 更新 記事タイトルを"ヒト胚におけるCRISPR-Cas9による遺伝子編集が招く混乱"から"ヒト胚CRISPR-Cas9遺伝子編集により染色体大混乱"へと改訂; 初稿で取り上げた#2のbioRixv投稿 (著者: Zuccaro MV, Xu J [..] Egli D)が, タイトルが短縮された上で、2020-10-29にCellから査読済論文として発表されたことから、初稿よりもやや詳細にその内容を以下に記述:
  • EYS遺伝子座の父性染色体のフレームシフト変異の修復を目的とするCRISPR-Cas9編集を試みた。
  • Cas9によるDSBの誘導とマイクロホモロジーを介した末端結合による修復が、数時間以内に進行する。
  • マイクロホモロジーを介した修復結果は、モザイクを生じることなく読み枠を回復する。
  • 一方で、DSBのほぼ半数が修復されず、父性アレルが消失し、有糸分裂進行後、一方または双方の染色体アームが欠失した。
  • Cas9がオフターゲットに誘導するDSBは、両アレル切断を介して染色体の欠損とヘミ接合性挿入欠失変異 (hemizygous indels)をもたらした。
[出典] "Allele-Specific Chromosome Removal after Cas9 Cleavage in Human Embryos" Zuccaro MV, Xu J [..] Egli D. Cell 2020-12-10/online 2020-10-29. https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.10.025
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2020-06-28 初稿
[出典] NEWS "CRISPR gene editing in human embryos wreaks chromosomal mayhem" Ledford H. Nature 2020-06-25. [ヒト胚におけるCRISPR遺伝子編集は染色体を大混乱に陥れる]

 2020年6月に相次いだbioRxivへの投稿3編 [1-3]がいずれも、CRISPR-Cas9による遺伝子編集がヒト胚ゲノムにおいて標的サイト近傍の領域に大規模な望ましくない変異 (オフターゲット遺伝子変異)を誘導することを示した。これまでは、CRISPR-Cas9ゲノム編集におけるオフターゲット遺伝子変異については、主として、ターゲットサイト (標的サイト)から遠位の領域に注目が集まっていた。
  1. Francis Crick InstituteのKathy Niakanらは、胚発生に重要なPOU5F1遺伝子を標的とするCRISPR-Cas9遺伝子編集を行い、22の胚のうち22% (18)にPOU5F1の周辺の広い領域に望ましくない変異が誘導されることを見出した [参考 crisp_bio記事]。
  2. Columbia UのDieter Egliらは、失明を引き起こすEYS遺伝子変異を帯びた精子に由来する胚において、CRISPR-Cas9による修復を試みたところ、対象とした胚のほぼ半数でEYSが位置する染色体の大領域が欠失し、また、染色体全域の欠失も発生した。
  3. Shoukhrat MitalipovらOregon Health & Science Universityに山東大学, 蔚山大学医学部などが加わった米中韓の研究グループは心臓病を引き起こす変異を帯びた精子に由来する胚においてCRISPR-Cas9による変異修復を試み、変異遺伝子を帯びた染色体に大規模な変異が発生することを見出した。
 先行研究にて、マウス胚とヒト細胞において、CRISPR-Cas9が誘導するDNA二本鎖切断 (DBS)からの修復過程が望ましくない大規模な変異を誘導することが報告 [4-5]されていたが、今回、ヒト胚においても望ましくない大規模な変異が、標的サイト近傍に誘導されることが、互いに独立な3グループから報告された。

 ヒト胚においてCRISPR-Cas9が誘導するDSBからの修復と染色体改変について、NiakanとEgliは、大規模な欠失と染色体再配列によるものとしたが、 Mitalipovらは、改変の40%が相同DNA組換え形式の一種であり、DSBが外来ドナーテンプレートを介してではなく、相同染色体の一方がもう一方の染色体の断片で置換されることによって修復されるgene conversion によるとした。Mitalipovらは2017年Nature[6]にて、ヒト胚ゲノム編集がgene conversionを介して修復されると発表したが、当時、胚におけるgene conversionの頻度やアッセイ法について疑義が呈されていた [7]

 今回の研究に関与していなかった専門家の一人*はbioRxiv投稿に対して「ヒト胚ゲノム編集を生殖医療や生殖細胞系列編集を目指すロケットに例えれば、ロケットは打ち上げる前に打ち上げ台の上で爆発してしまった」とコメントをしている (*UC BerkeleyのFyodor Urnov)。

[参考文献とcrisp_bio記事]
  1. Alanis-Lobato G [..]  Niakan KK."Frequent loss-of-heterozygosity in CRISPR-Cas9-edited early human embryos" bioRxiv 2020-06-05; crisp_bio 2020-06-11CRISPR-Cas9によるヒト胚ゲノム編集には、安全性検証のための基礎研究がまだまだ必要
  2. Zuccaro MV, Xu J [..] Egli D. "Reading frame restoration at the EYS locus, and allele-specific chromosome removal after Cas9 cleavage in human embryos" bioRxiv 2020-06-18.  > Cell 2020-10-29. 
  3. Liang D, Gutierrez NM, Chen T, Lee Y [..] Kang E, Chen ZJ, Amato P, Mitalipov S. "Frequent gene conversion in human embryos induced by double strand breaks" bioRxiv2020-06-20
  4. Adikusuma A [..] Thomas PQ. "Large deletions induced by Cas9 cleavage" Nature 2018-08-08.
  5. Kosicki M, Tomberg K, Bradley A."Repair of double-strand breaks induced by CRISPR–Cas9 leads to large deletions and complex rearrangements" Nat Biotechnol 2018 Jul 16; crisp_bio 2018-07-17 CRISPR-Cas9が誘導するDSBの修復は、ゲノムの大規模な削除と複雑な再編に至る
  6. Ma H 〜 Belmonte JC, Amato P,  Kim JS, Kaul S,  Mitalipov S. “Correction of a pathogenic gene mutation in human embryos” Nature 2017-08-02.; CRISPRメモ_2017/08/03 [第1項] ヒト胚ゲノム編集:米・韓・中の共同研究チーム、心疾患病因変異の高効率・高精度修復を実現
  7. Egli D, Zuccaro M, Kosicki M, Church G, Bradley A, Jasin M. "Inter-homologue Repair in Fertilized Human Eggs?" Nature 2018-08-08.; CRISPRメモ_2017/08/29 [第1項] CRISPR/Cas9によるContradictory Results病因変異修復論文(注*)に対する”Contradictory Results”: ヒト胚ではgene conversionによるDSB修復は進行しない