[出典] De novo design of modular and tunable allosteric biosensors. Quijano-Rubio A, Yeh HW [..] Oh BH, Baker D. bioRxiv 2020-07-20

 UWのD. BakerらはUCSFのH. El-Samadらと共同で2019年に, 天然タンパク質の改変ではなくコンピュータでde novo設計した合成タンパク質スイッチLOCKR [*]を公開したが、今回、KAISTや江原大学の研究グループと共同で、LOCKRをベースに標題を実現した。

LOCKRのOFFとON
 (復習)
[2019-07-29 crisp_bio記事の一部を手直しの上転載; 下図はUW Medicine Newsroom 2019-07-24のツイートを引用]
  • OFFの状態: 5重のヘリックスからなる安定な人工タンパク質 (ケージと称する)にヘリックス (ラッチと称する)が 結合している状態 [crisp_bio注: ケージが飛び出しナイフの本体に、ラッチが刃にあたる、とも言えそうだ]
  • ONの状態: "他のペプチド"が分子間相互作用を介して、ラッチに取って代わってケージに結合することで、ケージからラッチが複合体の状態から飛び出し、そのことで、ラッチ内に組み込んでおいた生理活性ペプチドが活性を発揮する。著者らはこの"他のペプチド"をキーと称した。
  • ラッチ内の生理活性ペプチドには、標的分子への結合、標的タンパク質分解、核移行シグナル、さらには細胞分解 (degronLOCKR)などの機能を持たせることができる。
バイオセンサーの構成
[Fig. 1 (PDFへのリンク; プレプリント全文はPDFのため、図や表の固有のURLは存在しない)参照]
  • ルシフェラーゼの活性化(発光)をリードアウトとするバイオセンサーは、lucCagelucKeyと命名された2種類の合成タンパク質で構成されている。
  • lucCageケージラッチと命名された2種類のドメインで構成されており、関心のある分子 (ターゲット)が存在していない状態では、ケージとラッチは一端がリンカーで結合された二つ折りの形に固定されている (状態1)。
  • ラッチは、ケージにリンカーで結合されている端から続く領域にルシフェラーゼのサブユニットであるペプチドSmBiTが位置し、もう一方の端にターゲットが結合するモチーフが位置している。
  • lucKeyはルシフェラーゼのサブユニットLgBiTをターゲット (キー)に結合した構成である。
  • 標的分子がラッチの標的分子結合モチーフに結合すると、ケージからラッチがその先端側から離れ (二つ折りが開き)、キーの本体がケージに結合し、キー結合LgBiTがラッチ内のSmBiTに結合する (状態7)。こうして、ルシフェラーゼが活性化し、発光が観察されるに至る。
  • このバイオセンサーは、状態1よりも、ケージ・ドメインにキーが結合した状態 (状態6)の自由エネルギーが大きく、状態7が状態1よりも自由エネルギーが小さくなるように設定される。
  • このバイオセンサーはまた、ケージ・ドメインとラッチ・ドメインのベース部分およびキーはターゲットによらず一定であり、ラッチ・ドメイン末端のターゲット結合モチーフを変えることだけで、多様なターゲットに展開可能である。
バイオセンサーのモジュール性と感度の実証
  • 抗アポトーシスタンパク質Bcl-1, hIgG1 Fcドメイン, Her2受容体, ボツリヌス毒素B, 心筋型トロポニンI (cTnI), および, 抗B型肝炎ウイルス抗体の多様なターゲットそれぞれについて、最小限の最適化にて、臨床診断に十分な感度 (サブナノモル濃度)で検出可能なことを実証した。
新型コロナウイルスの抗体またはスパイクタンパク質をターゲットとするバイオセンサー
 [Fig. 4 (PDFへのリンク; プレプリント全文はPDFのため、図や表の固有のURLは存在しない)参照]

新型コロナウイルスに対する抗体検出
  • はじめに、SRAS-CoVとSARS-CoV-2のプロテオームから免疫原性が高く、風邪を引き起こす"common"コロナウイルスには存在しない線形エピトープを、文献情報から同定した。
  • その中から、それぞれ膜タンパク質 (Mタンパク質)とヌクレオカプシド(Nタンパク質)に位置するエピトープを2種類を選択し、lucCageSARS2-MとlucCageSARS2-Nを作出し、Mタンパク質とNタンパク質に対する抗体を高感度検出を実現した。
新型コロナウイルス検出
  • SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン (RBD)に対してピコモル濃度の結合親和性を帯びたバインダー (LCB1)を設計・合成し、検出検出限界15 pMでダイナミックレンジが1700%に及ぶバイオセンサーlucCageRBDを実現した。
  • ウイルス粒子あたり~100 RBDsと仮定すると、ウイルス粒子を対象とするバイオセンサーは少なくとも100 fMの感度を期待できる。
 新型コロナウイルスの抗体とRDBのバイオセンサーの作出に要した期間はいずれも、遺伝子合成から発現、タンパク質精製を経てセンサーの性能評価まで、わずか3週間であり、LucCageシステムのモジュール性の効果と、その工作が容易であることを実証された。