[出典] Engineering designer beta cells with a CRISPR-Cas9 conjugation platform. Lim D [..] Choudhary A. Nat Commun 2020-08-13

 CRISPR-Cas9システムは、二本鎖DNA切断 (DSB)を介したゲノム編集に加えて、細胞内で機能性タンパク質ドメインを標的領域へデリバリーするキャリア (以下、Cas9キャリア)として、ゲノム・エピゲノムの操作や可視化に広く利用されている。代表例が、失活させたCas9キャリア (dCas9) によって転写抑制因子または活性化因子をカーゴ (cargos)として標的遺伝子領域へデリバリーするCRISPRiとCRISPRaである。

 Broad Instituteを主とする研究グループは今回、これまでのCas9末端にポリペプチド鎖を結合する手法に対して、
システインのチオール基 (SH基)を標的とするチオール-マレイミド・クリック反応 (以下、クリック反応)をベースとして、Cas9内部のサイトへの非ポリペプチド鎖結合を可能とし、Cas9キャリアの応用範囲を一段と拡げ、表題を実現するに至った。
Fig. 1
Cas9内部への非ペプチド鎖の結合
  • 研究グループは始めに、apo-Cas9, gRNA結合Cas9, およびgRNAと標的DNAが結合したCas9の構造に基づいて、Cas9の活性を損なうことなくクリック反応による分子結合を許容するシステインを同定した [Fig. 1引用右図参照]。
  • ビオチン-マレイミドとPEG (5 kDa)-マレイミドをモデルとして、最適な反応条件を同定した。
  • Supple 2クリック反応を介してPEGと同レベルのSH基標識が可能な17-ntの長さのDNAアダプターを設計した。 [ビオチン、PEGおよびアダプターの構造についてSupplementary Figure 1引用右図参照]
  • DNAアダプターを介して、Cas9にssODN (33-ntのDNA断片であるHiBiT配列)を結合すると、相同組み換え修復 (HDR)を介したssODNノックイン効率が、U20S細胞株からhiPSC、初代線維芽細胞まで、幅広い細胞型において向上した [Fig. 2引用下図参照]。また、ssODNを化学修飾する必要が無いことも、この手法の特長である。
    Fig. 2
  • HDRを介したssODNノックイン効率は、2ヵ所のシステイン (532Cと945C; 532Cと1207C)にDNAアダプターを介してssODNを結合することで、さらに向上した [Fig. 4参照]。
β細胞の改変
  • 抗炎症性サイトカインや抗線維化因子をβ細胞に分泌させる技術は、現在研究開発が進められている1型糖尿病インスリン分泌細胞移植療法の安全性向上に貢献する。
  • ラットINS-1E β細胞株において、2種類あるインスリン遺伝子 (Ins1Ins2)のうち Ins1のCペプチドにインターロイキン10遺伝子 (Il10: 797-nt ssODN)をノックインした [Fig. 5参照]。
  • インスリン分泌経路を介してグルコース濃度に応じてインスリンと共にIL10が分泌された。
  • DNAアダプターを介してCas9-ssODNを一体化してデリバリーすることで、Cas9とssODNを別々にデリバリーする場合に対して、分泌量が~2倍になった。本手法はまた、ウイルスベクターや外来プロモーター不要である点も特長である。
  • HiBiTノックインβ細胞をインスリン促進物質またはインスリン分泌抑制物質に暴露する実験も行って、HiBiTノックインβ細胞が、β細胞の研究にあたりインスリンELISAに優るレポータであるとした。
[注] 関連特許出願: PCT/US2020/026264