2020-09-04 更新 [訂正] ヒートマップの見方に関するテキスト部分で、暖色と寒色を逆の意味に捉えておりました。関連する2ヵ所を次のように訂正致しました:暖色系が親和性低下寒色系が親和性向上;V367W変異がACE2結合親和性を向上させる
2020-09-03 初稿

[出典] "Deep mutational scanning of SARS-CoV-2 receptor binding domain reveals constraints on folding and ACE2 binding" Starr TN, Greaney AJ  [..] Bloom JD. (bioRxiv 2020-06-17) Cell 2020-08-11. 2020 Sept 3:82(5); P1295-1310.E20
[Webサイト] SARS-CoV-2 RBD DMS https://jbloomlab.github.io/SARS-CoV-2-RBD_DMS/

Deep mutational scanning概要 [グラフィカルアブストラクトを引用した右図参照]
Fred Hutchinson Cancer Research CenterとFred Hutchinson Cancer Research Centerの研究グループはSARS-CoV-2スパイクタンパク質 (Sタンパク質)のACE2受容体結合ドメイン (receptor binding domain; RBD)の全ての残基 (アミノ酸)を他の19種類のアミノ酸に置換し、ヒト細胞に似たタンパク質品質管理とグリコシル化の機構を帯びた酵母表面にディスプレーする手法を利用して、各置換がSタンパク質の発現とフォールディング, およびACE2結合に及ぼす影響を分析した [Deep mutational scanning法]。

補足
  • はじめに、酵母ディスプレー法で、SARS-CoV-2 (Wuhan-Hu-1)ならびにコウモリとセンザンコウのSARS-CoV-2 (RaTG13とGD-Pangolin)のRBDs, 加えて、SARS-CoV-1 (Urbani株)とそのコウモリ由来近縁SARS-CoV-1 (LYRa11)ならびにコウモリCoVの2種類 (BM48-31とHKU3-1)のRBDsを発現させ、ヒトACE2との結合親和性 (解離定数)を測定し、既報と整合する結果を得た: 
    GD-Pangolin > SARS-CoV-2 > SARS-CoV-1 > LYRa11 > RaTG13 (HKU3-1とBM48-31はACE2結合見られず)
  • PCRによる部位特異的変異法により、理論的に可能な3,819種類のRBD単一アミノ酸変異体のうち3,804種類の作出に成功した。変異と機能の紐付けは16塩基のバーコード配列をコーディング領域の下流に挿入しておくことで実現した。
  • 変異体の多くが野生型と同等との発現レベルを維持し、46%が少なくともSARS-CoV-1と同等のACE2結合親和性を維持し、SARS-CoV-2が概ね変異に寛容なことが示された。
  • GD-Pangolin, SARS-CoV-2, RaTG13の三者の間のACE2結合親和性の差異を説明する変異も同定した。また、SARS-CoV-1RBDとの比較から、ACE2結合親和性および感染性の差異について考察を加えた。
  • SARS-CoV-2 RBDが概ね変異に寛容であった一方で、変異が許されない (置換したRBDが発現しない)サイトが見えてきた。これらは、ワクチンや抗体療法の標的として理想的な領域である。
  • また、ACE2への結合親和性を高めた変異が、COVID-19患者からの臨床分離株にこれまで見られてきた変異と一致しないことを見出した。
  • SARS-CoV-2 RBD DMS各変異がACE2結合親和性とSタンパク質発現に及ぼす影響の大きさのヒートマップをインタラクティブな利用者インターフェースを介して公開した [Webサイト画面キャプチャ右図参照]。ACE2結合親和性のヒートマップでは、暖色系が親和性低下寒色系が親和性向上を表し、ヒートマップに重ねて表示されたウインドウには、V367W変異がACE2結合親和性を向上させる、ACE2に直接結合する領域に位置していないことなどが示されている。
[SARS-CoV-2の変異関連crisp_bio記事][Deep mutational scanning利用関連crisp_bio記事]