(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2015/12/02)
- [論文] "eSpCas9": Cas9/sgRBA/標的DNA三者複合体の構造に基づいて、オフターゲット編集を検出限界以下まで抑制するCas9変異体を作出:Feng Zhang (Broad Inst.)
- [Streptococcus pyogenes 由来Cas9(SpCas9)とsgRNAおよび標的DNAの三者複合体の構造に基づいた仮説」
Cas9のヌクレアーゼ活性を担うNUCローブを構成するHNHドメインとRuvCドメインの間に正に帯電したアミノ酸からなる溝が存在し、ターゲットではないDNA鎖(以下、nt鎖)は、この溝(以下、nt-groove)に固定される. したがって、nt-grooveの正に帯電しているアミノ酸を中和すれば、nt鎖とnt-grooveの結合が弱まって、nt鎖はターゲット鎖と再結合する傾向を示すようになる.結果的に、sgRNAと標的DNA鎖のワトソン・クリック型塩基対の形成がより厳密に求められるようになり、オフターゲットサイトに対する編集が起こりにくくなる. - 仮説を実証する実験として、nt-grooveに位置する正に帯電している32のアミノ酸をアラニンに置換
- 評価済みのガイドRNAを使ってHEK細胞のEMX1 遺伝子(オンターゲット)ならびに既知のオフターゲットサイト3ヶ所についてindelを測定.32変異体の中から5変異体が、オンターゲットでのindel発生効率が野生型と変わらないまま、オフターゲットでのindel発生率を10分の1へと減少し、血管内皮細胞増殖因子VEGFA 遺伝子においても同様なオフターゲット減少効果を示した.オンターゲットへの特異性を2〜5倍にあげる変異体も存在したが、オフターゲットにおいてindelがわずかながら検出された.
- そこで1回目のスクリーニングで好成績であった変異体を組合せて評価し、EMX1 とVEGFA に対して野生型Cas9と同等のヌクレアーゼ活性を維持したままオフターゲット編集を非検出へと抑制する3組を同定した:SpCas9 (K855A), SpCas9 (K810A/K1003A/R1060A) [eSpCas9(1.0)と命名]ならびにSpCas9 (K848A/K1003A/R1060A) [eSpCas9(1.1)と命名].
- SpCas9(K855A)、eSpCas9(1.0)、eSpCas9(1.1)のいずれも、10種類の遺伝子座上の24ターゲットサイトについても、高い効率と特異性を示した.また、VEGFA を対象とするガイドRNAに1塩基または2塩基のミスマッチを導入した場合でも、オフターゲットへのindel発生率が野生型Cas9より低かった.
- 3者のなかでオンターゲット編集効率が高いSpCas9(K855A)とeSpCas9(1.1)についてBLESS(direct in situ breaks labeling, enrichment on streptavidin and next-generation sequencing)を使って、ゲノムワイドでのDNA二本鎖切断(DSB)を定量し、Cas9変異体によってゲノムワイドでオフターゲットが減少することを確認した.
- 仮説(Cas9とntとの親和性が弱まる(高まる)と特異性が高まる(減じる))に基づいて作出した2種類の変異体(S845KとL847R)は、想定通り、野生型よりも低い特異性を示した.
- 仮説は、他のCas9にも成立し、また、Cas9のDNA結合と劈開の機構を詳らかにしていくことで、さらなる最適化が可能と見ている.
- [Streptococcus pyogenes 由来Cas9(SpCas9)とsgRNAおよび標的DNAの三者複合体の構造に基づいた仮説」
- [論文] CRISPR/Cas9を利用したHIV-1の"Kick & Kill":David V. Schaffer (UC Berkeley)
- CRISPR/Cas9による遺伝子発現亢進、HIV-1再活性化化合物、さらに、CRISPRシステムに基づいたアセチル転移酵素によって、リーザーバー(reservoir)細胞に潜在しているHIV-1遺伝子の活性化("Kick")を実現、抗ウイルス剤を組みわせた("Kill")HIV-1療法の道を拓いた.
- [レビュー] CRISPRゲノム編集実験の設計に有用なツールと資源:David E. Root (Broad Inst.)
- タンパク質をコードする遺伝子の機能解明への観点からのゲノム編集に焦点をあてたレビュー.
- [最善の結果を得るために押さえておくべき点とツールをレビュー]
Cas9とsgRNAの送達とCas9の活性; 標的サイトの選択とsgRNAの設計; オンターゲットの編集効率を高める戦略; sgRNA設計支援ツール; オフターゲット(OT)予測; OT予測とスコアリングのためのツール; オンターゲットとオフターゲットの実験検証法とクローン選別法; オンターゲット編集の評価法; 現実的なOT判定法 - sg設計支援ツールとOT評価ツールの機能と長所/短所がTable 1とTable 2にまとめられている:sgRNA Designer, CRISPR MultiTargeter, Cas9 Design, SSFinder、Cas OFFinder; CCTop, CHOPCHOP, Crispr.mit, WU-CRISPR, GT-Scan, CROP-IT, Cas OT, CRISPRseek, ZIFIT, E-CRISP, CRISPR Direct, COD, sgRNAcas9, DNA 2.0 gRNA Design Tool, Cas-Designer, sgRNA Scorer 1.0, Protospacer)
- [CRISPRのユースケース:応用分野ごとに考慮すべき点]
個々の遺伝子の機能ノックアウト(KO); 大規模KOスクリーン; 遺伝子精密編集; モデルマウス作出; - [将来展望]
対象とする細胞集団100%のゲノム編集を目指してより効率的に; データ駆動型モデルによって、オンターゲット編集効率とオフターゲットのより高精度な予測へ; 転写調節への展開
- [論文] 生殖細胞系ゲノム編集の臨床応用について考える:石井哲也 (北大)
- 医療と倫理の観点から生殖細胞系ゲノム編集の妥当性、その目的(疾患予防;個別化生殖補助医療(assisted reproductive technology, ART);ゲノム改変強化(genetic Enhancement);優生学的展開(eugenic application)とリスク対効果について考察.規制が緩い国においてこの技術がmisuseされることは避けられないと指摘.各国の着床前遺伝子診断やARTの動向を踏まえて、しかるべき規制と社会との対話について議論.
- [レビュー] バクテリアのゲノム編集にCRISPR/Casシステムを活用する:Rodolphe Barrangou (North Carolina State U.); Jan-Peter van Pijkeren (U. Wisconsin-Madison)
- バクテリアゲノム編集へのCRISPR/Cas技術の展開の現状と展望 (バクテリアのゲノム編集では自己DNAを標的とする(self-targeting) CRISPR/Casシステムが利用されてきた).
- CRISPR/Casシステムの一般的な紹介の後、D. L. Courtらが開発した一本鎖DNAリコンビニアリング(Single-stranded DNA recombineering, SSDR)の課題をCRISPR/Casシステムで解消したLactobacillus reuteri (ラクトバチルス・ロイテリ菌)のゲノム編集の手法を紹介 (L. reuteri はプロアイオティクスとして広く利用されている).
- L. reuteri 細胞に、一本鎖DNA結合タンパク質RecT、Cas9、リコンビニアリング用のオリゴヌクレオチドならびにCRISPRプラスミドを、一段階あるいは2段階でエレクトロポレートする.この手法によってL. reuteri にコドン単位の変異導入が実現されている.このプロバイオティックス菌株の効率的なゲノム編集技術は、乳製品のスターター用菌株にも展開されている.
- バクテリアへのCRIPR/Casシステムの応用は、産業上有用なバクテリアの形質転換からバクテリオファージに対するワクチンまで広がっていく.
- CRISPR/Casシステムによるバクテリアのゲノム編集を大規模に展開していくためには、CRISPRシステムとDNA修復テンプレートの効率的送達、多様なDNA修復機構の理解、外来性と内在性CRISPR/Casシステムの比較検討が必要である.
- [技術報告] ウニのゲノム編集法:Yi-Hsien Su (中央研究院細胞與個體生物學研究所)
- 初期発生過程と関連する遺伝子制御ネットワーク研究のモデルとして有用なウニ胚のゲノム編集.
- 設計した6種類のgRNAのうち5種類がCRISPR/Cas9システムを送達した胚の60〜80%に期待通りの表現型を誘導.
- ゲノムDNAを胚から分離し、表現型と遺伝型の対応関係を解析. シーケンシングしたクローンにおける変異率は67〜100%.
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