(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ2015/12/11

  1. [NEWS AND VIEWS] クラスⅡ CRISPR/Casに新たに加わったクラスメートCpf1:Erik J. Sontheimer & Scot A. Wolfe (U. Massachusetts Medical School) 
    • [情報拠点注] Cpf1は、Cell 誌2015年9月25日のオンライン出版CRISPR関連文献メモ_2015/12/11)に先立つCold Spring HarbourにおけるFeng Zhangの講演の際に熱狂的に迎えられたとのことであるが、その後も、さまざまな学術雑誌や業界紙で取り上げ続けられている.例えばNature Methods Research Heighlight(12月1日)に続いて、Nature Biotechnology (12月9日)によって、取り上げられた.
    • 今回は、CRISPR/Casシステムの多様性と進化の観点から、最近、タイプⅠ、ⅢおよびⅣが属するクラスⅠと、タイプⅡ (Cas9がメンバー)とⅤ(Cpf1がメンバー)が属するタイプⅡが設けられた新分類体系Nat Rev Microbiol. 2015 Nov;13(11):722-36.)に触れ、Cas9とCpf1の詳細な比較と簡明な対照図が用意されている.また、Cpf1の発見がもたらす新たな謎も列挙している.
  2. [論文] CRISPR/Cas9による編集が非効率なサイトをPAMの多重度で判定する:Jerry Pelletier (McGill U.)
    • Doudnaらの論文"DNA interrogation by the CRISPR RNA-guided endonuclease Cas9"で報告された"Cas9のオフターゲットDNAへの結合がPAMの密度と相関"と"R-loopの形成に方向性がある(ターゲット領域端に位置するPAMから始まる)"に触発された研究.
    • Traffic light reporterシステム(以下、TLR)を利用して、本来のターゲットのPAMと近位と遠位の違い、ならびに、ターゲット領域に存在するPAMの密度の観点から、Cas9のDNAヘの結合を評価.
    • Cas9によるゲノム編集を阻害する要因は、ターゲット領域のGC含量そのものではなく、Streptococcus pyogenes Cas9のPAMのNGGモチーフのターゲット領域における密度とG四重鎖を形成するポテンシャルにあることを示した.すなわち、この2要因を回避することによって、効率的ゲノム編集を実現できる.
  3. [論文] PAMの多様化を許す変異導入によってStaphylococcus aureus Cas9 (SaCas9)による編集可能ゲノム領域を拡大:Benjamin P. KleinstiverJ. Keith Joung (Massachusetts General Hospital/Harvard Medical School)
    • KleinstiverとJoungらのNature 論文(6月22日オンライン出版)の第2弾.本研究開始時に構造が解かれていたS. pyogenes Cas9 (SpCas9)とその他10種類のオルソログ配列のマルチプルアラインメントによってSaCas9のPAM相互作用(PAM-interacting) ドメイン(PIドメイン)を推定.
    • 野生型SaCas9に対応するPAMはNNGRRT(N:any, R:A/G)であることから、PAMの3番目の塩基Gの条件緩和を目指してSaCas9のPIドメインに変異を導入し大腸菌の細胞アッセイでPAM認識を判定.はじめにR1015H変異がNNRRRTを認識することを同定し、ランダム変異を導入していきNNNRRTを認識する変異体の中でヌクレアーゼ活性が高いE782K/N968K/R1015Hを選択(KKH SaCas9と命名).
    • KKH SaCas9は、EGFPレポータを使ったヒト細胞中のゲノム編集アッセイで、6箇所の遺伝子に対して、野生型Cas9の標的は1箇所であったのに対して、KKH SaCas9は16箇所すべてを標的とした.NNGRRT PAMsに対しては野生型Sa Cas9が最適であることを考慮して、KKH SaCas9は、標的範囲を2〜4倍まで広げたと言えよう.
    • GUIDE-seqで評価したKKH SaCas9のオフターゲットサイトは、野生型Cas9のオフターゲットサイトと一部重なり、件数は同程度であった.
    • 配列をベースにしてPAMの多様化を実現可能な本手法は構造未知の多様なCas9オルソログに展開可能.一方で、変異導入による認識するPAMの条件緩和について、西増らによって明らかにされたSaCas9の結晶構造(ライフサイエンス新着論文レビュー 2015/09/16)と整合する分子機構についても考察.
  4. [論文] Streptococcus pyogenes Cas1の結晶構造ならびにCsn1との相互作用:Euiyoung Bae (Seoul National U.)
    • Cas1タンパク質は、CRISPR/CasシステムのタイプⅠ、ⅡおよびⅢに共通し、CRISPRを介した適応免疫に必要な新たなスペーサー獲得に関与するとされている.
    • タイプⅡシステムに属するS. pyogenes Cas1 (SpCas1)の結晶構造を解きタイプⅠシステムのCas1とは異なるコンフォメーションをとっていることを明らかにし、また、S. pyogenes Csn2 (SpCsn2)と直接相互作用していることを見出した.
  5. [特集号] The American Journal of Bioethics 2015年12月号はCRISPR/Cas技術を巡る特集号
    • 論文 5編(各論文の主題は以下のリスト参照)の他にピアレビューを受けた投稿 13編の構成
    • [論文1] 遺伝子"編集":2013年1月から2015年11日までの新聞と一般向け科学雑誌で使用されたCISPR技術のメタファーを分析し、望ましいメタファーについて議論
    • [論文2] 絶滅生物の回復などヒト以外の地球上の生物への適用
    • [論文3] 科学の社会に対する責任を分析するためのフレームワーク
    • [論文4] ヒト生殖細胞系のゲノム編集を規制するフレームワークのモデル
    • [論文5] 体外受精などの生殖補助医療、クローニングさらにミトコンドリア置換療法の例を引いて、規制に関する英国モデルを推奨
    • [投稿] インフォームド・コンセントの観点、適切な用語やメタファーに関する考察(複数投稿あり)、企業の社会的責任(CSR)に学ぶことHinxton Groupの声明なども取り上げられている.