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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "De novo design of picomolar SARS-CoV-2 miniprotein inhibitors" Cao L [..] Baker D. Science 2020-09-09 [online; Science. 2020 Oct 23;370(6515):426-431] (bioRxiv 2020-08-03). 

[概要]
 David Bakerのグループは今回、デノボ設計によって、新型コロナウイルスのスパイク(S)タンパク質 [1, 2]にピコモル親和性を示し、また、TMPRSS2 [3]を発現するVero細胞 [4] (Vero E6)へのSARS-CoV-2感染を阻害するミニタンパク質バインダーを創製し、設計した構造とクライオ電顕法で再構成した構造がよく一致することを示した。

[構造情報]
  • EMD 22532/PDB 7JZL: SARS-CoV-2 spike in complex with LCB1 (2RBDs open)
  • EMD 22534: SARS-CoV-2 spike in complex with LCB3 (2RBDs open)
  • EMD 22535: SARS-CoV-2 spike in complex with LCB3 (3RBDs open)
  • EMD 22574/PDB 7JZU SARS-CoV-2 spike in complex with LCB1 (local refinement of the RBD and LCB1)
  • EMD 22533/PDB 7JZM SARS-CoV-2 spike in complex with LCB3 (local refinement of the RBD and LCB3)
[参考記事]
[詳細]

 SARS-CoV-2 (以下、ウイルス)の感染の予防と感染後の治療に、ウイルスが鼻腔に感染してから下気道と拡がる前に、高濃度のウイルス阻害剤を鼻腔内に投与する戦略が効果的である。ウイルス阻害剤として抗体の研究開発が急ピッチで進められているが、抗体は、比較的サイズが大きく安定性が低く、結合部位が低密度 (~ 2ヵ所/ 150 KDa)であることから、鼻腔内投与には向いていない。抗体はまた抗体依存性感染増強のリスクを伴っている。

 研究グループは先行研究で、インフルエンザウイルス A H1ヘマグルチニン(HA)とボツリヌス毒素B(BoNT/B)に高親和性で結合するミニタンパク質をデノボで設計し、マウスをインフルエンザに暴露する前または後に、鼻腔内にスプレーすることで、マウスをインフルエンザウイルスから保護可能なことを示していた [5]

 研究グループが今回開発したミニタンパク質は、新型コロナウイルスのSタンパク質に対する親和性が高く、Sタンパク質とACE受容体の結合を阻害し、抗体よりサイズが小さく安定かつ結合部位が高密度であり、鼻腔内への塗布や噴霧、あるいはエアロゾル吸入法によって呼吸器系へと送達も可能とするSタンパク質・バインダー (以下、バインダー)である。

2種類の設計戦略
  1. Sタンパク質の受容体結合ドメイン (RBD) と主として相互作用するヒトACE2受容体のα-ヘリックス (残基の23から46までの)を取り込む戦略をとり、Rosetta blueprint builder [6]で設計 [下図の Fig. 1 (A)引用部分を参照]minibainder
    [6] RosettaRemodel: A Generalized Framework for Flexible Backbone Protein Design. Huang PS [..] David B. PLoS One. 2011-08-31.
  2. RBDとの結合データに依存することなく、スクラッチからデノボで、蛍光性β-バレルのデノボ創製 [7] に寄与したドッキング・アルゴリズムのRIF (rotamer interaction field)法とインフルエンザウイルス阻害ミニタンパク質の創製 [5]に寄与した大規模なミニタンパク質のライブラリーを利用して設計 [右図のFig. 1 (B)引用部分とFigure S1引用部分を参照]。
    [7] crisp_bio2018-09-17 蛍光性β-バレルのデノボ設計・発現・応用
バインダー候補からの絞り込み
  • 酵母表面にディスプレイした蛍光標識RBDをプラットフォームとするRDB結合スクリーニングの結果、戦略1から3種類のヘリックス・スキャフォールドと、戦略2からデノボの界面を帯びた105種類のバインダー候補を得、ヘリックス・スキャフォールド3種類全てと、デノボ設計12種類を、E. coliで発現・精製し、ヘリックス・スキャフォールドからは親和性 ~1 nMのAHB1、デノボ設計からは11種類が 100 nM ~ 2μMの親和性を示すことを見いだした。
  • 続いて、安定化したAHB1とデノボ設計50種類のバインダー候補に部位特異的飽和変異導入を施し、RDB親和性が高いバインダー候補にエンリッチされていた変異を組合せたライブラリーを構築し、RDB親和性を再評価し、その結果、戦略1からはAHB1に由来するAHB2、戦略2からはLCB1-LCB8の8種類の計9種類がバインダー候補として残った。
  • 9種類をE. coliで発現・精製し、平衡解離定数 (以下、KD)を測定し、7種類のKDが 1-20 nMの範囲であり、LCB1とLCB3が 1 nMを切ることを見いだした。
  • LCB1とLCB3については、SARS-CoV-2のスパイク細胞外ドメイン3量体との複合体構造をクライオ電顕法により、それぞれ、2.7 Å と3.1 Å の分解能で再構成し [Fig. 4 参照]、設計構造とCα主鎖のrmsdがそれぞれ1.27 Åと1.9Åに収まることを確認できた。
ウイルス中和活性
  • Vero E6細胞をSARS-CoV-2 100 粒子 (100 focus-forming units (FFU))に暴露し、AHB1, AHB2およびLCB1-5の中和活性を判定し、AHB1とAHB2、および、LCB1とLCB3のIC50値としてそれぞれ、35 nMと15.5 nM,および23.54 pM48.1 pMを得た。
  • モル濃度ベースでは、これまでに報告された強力なSARS-CoV-2モノクローナル抗体のほぼ3分の1程度であるが、サイズがそれらの20分の1程度 [*]であることから質量ベースの中和活性 (IC50値 ~0.16 nm/ml)では凌ぐ結果となった。
    [*] LCB1とLCB3はそれぞれ56残基と64残基のサイズ
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