出典
  • [論文] "Designed protein logic to target cells with precise combinations of surface antigens" Lajoie MJ, Boyken SE, Salter AI [..] Baker D. Science. 2020-09-25
  • [Research Highlight] When de novo-designed protein logics meet CAR-T therapies. Xe M, Lu P. Cell Res 2020-09-25
背景 
  • 生物過程の研究から細胞療法まで、標的細胞を的確に認識する仕組みが必須である。細胞は特異的なマーカを表面に提示しており、マーカに対する抗体で認識可能であるが、細胞混合集団の中から目的とする細胞を特定するに一種類のマーカを標的とするだけでは不十分である。そこで、2種類のマーカに結合する二重特異性抗体が開発されたが、2種類のうち1種類だけを発現する細胞との相互作用を抑制するためのバランス取りが難しい。
  • 癌免疫療法として画期的な効用を示したCAR-T療法も、複数の抗原を認識する仕組みを取り入れることで、腫瘍細胞を特異的に標的する精度が向上する。複数抗原認識は、CAR-T細胞を生産するにあたり、選別と臨床的検証の過程の簡素化にも貢献する。
成果概要

 David Bakerグループは今回、多重なマーカを認識しその組合せに応じて、自己完結的にしかるべく応答するモジュール型の論理回路を、先行研究で開発していたタンパク質スイッチLOCKRをベースに開発し、多重なマーカを認識して活性化するCAR-T細胞を作出するに至った。

LOCKR
  • David Bakerグループは、α-ヘリックス・ホモ三量体をベースとして、タンパク質スイッチLOCKRを開発し、遺伝子発現調節、細胞内輸送の方向変更、特定タンパク質分解、およびタンパク質間相互作用の制御が可能なことを示し [1-2]、続いて、共同研究を経て、バイオセンサーを開発し [3]、その後、CRISPRaの活性制御に利用可能なこと[4]も示してきた。
  • LOCKRは、ケージ (cage)、ラッチ (latch)、および、キー (key)の3要素で構成されいる。LOCKRは、不活性な状態ではラッチがケージと一体化しており、入力シグナルに当たるキーがラッチに換わってケージに結合すると、ラッチがジャックナイフのように開き、ラッチ内にコードされていた生理活性ペプチドが機能を発揮し活性化する [1]。このLOCKRの感度は、ケージとラッチおよびケージとキーのそれぞれの間の親和性で制御可能である。
  • LOCKR 2019年版 (原論文には無いcrisp_bioの独自表現)は細胞内では設計どおり機能したが、精製すると、ベースとしたα-ヘリックス・ホモ三量体に由来する対称的な反復配列に起因するドメイン・スワッピングを介して凝集するため、LOCKRの多重化には難があった。
  • 研究グループは今回、タンパク質設計ソフトウエアRosettaを利用して、凝集することなくほぼ100%単量体として存在するLOCKR 2020年版を作出し、X線結晶構造解析を行い設計した構造とほぼ一致することを同定した。 [PDB ID 7JH5]。
Co-LOCKR
  • LOCKR 2020年版をベースとして、Bim-Bcl2ペアをモデルとして、共局在するマーカに対して応答するLOCKRであるCo-LOCKR (colocalization- dependent LOCKR);を作出した。Bcl2は、濾胞性リンパ腫患者で高発現することが知られているがB細胞リンパ腫のほとんどで発現しているが、このBcl2をキーに設定した。また、Bimは、Bcl2と相互作用する細胞死メディエーターであるが、ここでは、BimのBH3モチーフ (以下、Bim)を生理活性ペプチドとしてラッチに組み込んだ。
  • Co-LOCKR評価のプラットフォームとして、Her2-eGFPとEGFR-iRFPの一方または双方を発現させたK562細胞を用意した。
  • Co-LOCKRは、Her2とEFGRにそれぞれ結合するケージとキーをアンキリン反復タンパク質 (DARPin)から作出することで構築した。
  • このCo-LOCKRによって、2種類のマーカを発現したK562細胞表面上でキーとケージが近接・互いに結合し、ラッチが開き、BimにAlexaFluor594で標識したBcl2が結合することを確認した。一方で、2種類のマーカのいずれか一方だけ発現させたK562細胞では、このCo-LOCKR活性化は見られなかった [Fig. 1 E 参照: "A and B 論理"]。また、Co-LOCKRの活性を変異導入によって調節可能なことも示した。
  • 同じくK562細胞株をベースとして、Her2, EGFR, およびEpCAMの3種類のマーカの組合せに合わせて設計したCo-LOCKRの反応を検証し、"A and B"論理に加えて、ケージ1種類に対して2種類のマーカに結合するキー2種類を併用することで細胞集団の中から、"A and (B or C)"論理を満たす細胞特異的なCo-LOCKR活性化が進行することを確認した [Fig. 3 - A, -B, -C参照 ]。さらに、特定のマーカに結合するケージをデコイとすることで、3種類のマーカが全て発現している細胞表面上では不活性状態を維持することが可能なことも示した ["A and B and not C"論理: Fig. 3 D, E参照]
CAR-T細胞活性化への展開
  • 初代T細胞にBcl2キメラ抗原受容体 (CAR)を発現させたCAR-T細胞を作出し、K562細胞とヒトバーキットリンパ腫由来Raji細胞にHer2, EGFR, そしてまたは EpCAMの3種類のマーカを発現させ、然るべき設計したCo-LOCKRを介して"A and B", "A and (B or C)"と"A and B and not C"のいずれの論理にもそれぞれ従ったCAR-T細胞活性化 (インターフェロン-γ誘導)が進行することを確認した。
  • なお、Raji細胞は、K562細胞に比べてマーカ発現レベルが低いことから、Co-LOCKRの感度検証に有用であった。
ユニバーサルCAR-Tへの工夫  [Research Higlight Fig. 1参照]

 CAR-T細胞療法では腫瘍抗原ごとにCARを設計し直す必要がある。この再設計を不要とするCAR-T作出法が工夫されてきている。
  • ACTR (antibody-coupled T cell receptor): 抗原結合ドメインを抗体結合ドメインCD16に置き換え、腫瘍特異表面マーカを認識する抗体を差し替えるだけで、同じACTR発現をしているT細胞によって異なる種類の腫瘍細胞を障害可能とする手法 [5]
  • SUPRA (split, universal and programmable) CAR: それまでのCARを腫瘍抗原を標的とするscFvの部分と細胞内シグナルドメインの部分に二分割し、ロイシンジッパーの構造を利用して、CAR-T細胞として再構成可能とすることで、scFvを腫瘍にあわせて改変し、T細胞自体は使う回すことを可能とした手法; Co-LOCKRと同様に、マーカのAND, OR, NOTの組み合わせに対応可能 [6]
  • Co-LOCKR CAR: 標的マーカに合わせてケージとキーを再設計することで、SUPRA CARと同様にT細胞自体を改変することなく、腫瘍特異的なCAR-T細胞を作出可能であり、マーカのAND, OR, AND NOTによる精密な標的も実現可能であり、今後、デノボ合成タンパク質の免疫原性の検証と動物モデルでの検証への展開が待たれる。
[関連crisp_bio記事と論文]

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