2020-12-10 トランプ大統領の"お仲間 (inner circle)"のジュリアーニ元ニューヨーク市長が、大統領と同じ療法2種類 (リジェネロン社の中和抗体カクテルを含むと思われる)とその他の療法で回復・退院したと報道されている。ニューヨークタイムズのオンライン記事はこの件を、ジュリアーニ氏の「(他のCOVID-19患者が受けられない治療をうけられるのは)セレブの特権」や「政治家が、治療可能になった新型コロナウイルスに対して、マスク装着せよと言い過ぎる」といった発言を引用しながら、医療倫理の観点から論じている。なお、ジュリアーニ氏はトランプ大統領に類似の治療を受けた"セレブ"の3人目にあたるとのこと。
[出典] "Trump and Friends Got Coronavirus Care Many Others Couldn’t" Stolberg SG. New York Times 2020-12-09 9:36 pm ET updated.

2020-11-22 更新: FDA, リジェネロン社のCOVID-19の2種類の抗体 (casirivimabとimdevima)のカクテル療法の緊急使用を許可
 第1/2/3相試験 (NCT04425629)に由来する軽度から中度で入院していない799名のCOVID-19患者に接種 (内プラセボ 266名)した結果、抗体カクテル療法によるウイルス量低減と重症化抑制の効果が見られ、一定期間での安全性が確認されたことから、12歳以上で体重40kg以上の軽度から中度 (mild to moderate)の症状でSARS-CoV-2陽性であり、重度にそしてまたは入院が必要になるリスクが高い患者を対象とする接種を許可 (すなわち、重度の患者は対象外)した。
[出典] FDA News Release 2020-11-21 "Coronavirus (COVID-19) Update: FDA Authorizes Monoclonal Antibodies for Treatment of COVID-19"; FDAからReneron Pharmaceuticals, Inc.への2020-11-21付け通知書 (https://www.fda.gov/media/143891/download)

2020-10-12 中和抗体REGN-COV2の研究開発の過程でHEK293T細胞が使用されていたことが、思わぬ波紋を呼んでいる
  • トランプ政権は中絶に由来する胎児組織の研究利用を阻止または抑制しようとしててきたところ、HEK293T細胞は1973年にオランダで中絶された胎児の腎組織に由来していたからである [Wikipedia]。
  • MIT Technology Reviewの記事は、「トランプ大統領は"神が与え給うた奇跡"と述べた。もしそれが真実であるとすれば、"神は、ヒト胎児由来の細胞株の研究利用をお許しになられた (原文ではthe God employs ....)」から、始まっている:  [出典 MIT Technology Review 2020-10-07]  "Trump’s antibody treatment was tested using cells from an abortion" Regalado A。
  • リジェネロン社は「HEK293T細胞は長年にわたり生物医学研究に使用されており、米国で議論の対象となっている胎児組織ではない」と言う主旨のコメントをしている。
  • リジェネロン社からのScience論文2報によると、中和抗体の生産にチャイニーズハムスターの卵巣由来のCHO細胞を使用し ["Chinese hamster ovary (CHO) cells to produce recombinant fully human antibodies": 参考文献 1]、研究開発の過程で、ウイルスに対する抗体の効力を安全に解析するために必須のシュードタイプウイルスの樹立にHEK293T細胞を使用した ["HEK293T cells (ATCC CRL-3216) were transfected with the genomic clone ..." : 参考文献 2]"とされている。
2020-10-11 トランプ大統領の主治医Sean P. Conleyが、「ポリクローナル抗体療法 (polyclonal antibody therapy)を施した」とするメモを出していたことがCBSなどで報道され、リジェネロン社が「ポリクローナル抗体ではない」と訂正する一幕があった。"poly-"は"多"を意味する接頭辞なので、日常英語の中では誤りではないとも言えるが、医療の専門家としてはいただけない [出典 CBS News 2020-10-02] "Trump is being treated with an experimental drug cocktail for COVID-19. Here's what it is." ポリクローナル抗体など各種抗体について、本ブログ文末の [crisp_bio注] [参考 1]参照

2020-10-06 クライオ電顕法で再構成したREGN10933-RBD-REGN10987の構造モデル図を追加し、「カクテル抗体REGN-COV2」の項のテキストを手直し。

2020-10-04
初稿
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リジェネロン社のカクテル抗体REGN-COV2とは
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[出典] [In Brief] "A cocktail of antibodies for COVID-19 therapy" Matthews DB. Nat Rev Immunol 2020-08-17

 感染症に対する抗体療法は、病原体が突然変異を介して抗体の認識を免れることで耐性を獲得するリスクを伴うが、病原体上で標的とする部位が重ならない二種類の抗体を組合せることで、耐性発生のリスクを長期間回避できる可能性があり、また、病原体を阻害する活性も高まる可能性が高まる。リジェネロン社のREGN-COV2は2種類のモノクローナル抗体, REGN10933とREGN10987, の'カクテル'を投与する療法である [参考文献1, 2]。
  • リジェネロン社が中心となりNational Centre for Infectious Diseases (シンガポール)とUniversity of Maryland School of Medicineも加わって、ヒト化マウスならびに回復したCOVID-19患者から得たSARS-CoV-2 S抗体のライブラリー (パネル)を構築した。
  • その中から、SARS-CoV-2を阻害するに十分な活性を示す中和抗体で、かつ、Sタンパク質のACE2受容体結合ドメインの異なる領域に結合しならがらも相互には干渉しない抗体の組合せを絞り込んでいくことで、REGN10933とREGN10987のペアにたどり着き [1]、さらに、このペアがSタンパク質の様々な変異に対して阻害性を維持することを同定した [2] 。REGN10987-REGN10987
  • 参考文献1のFig. 4から引用した右図にあるように、REGN10933とREGN10987はそれぞれSARS-CoV-2のスパイクタンパク質上のACE2受容体ドメイン(RBD)のトップとサイド (異なる個所)に互いに干渉することなく結合する。なお、前者はRBDドメイン内でもACE2に直接結合する領域と重なっていたが、後者は、殆ど重なっていなかった。
  • REGN-COV2は、アカゲザルとハムスターでの前臨床試験でウイルス量低減効果が示され、ヒトを対象とする第1/2/3相試験へと進んだ。
 [参考文献]
  1. "Studies in humanized mice and convalescent humans yield a SARS-CoV-2 antibody cocktail" Johanna Hansen J, Baum A [..] Kyratsous CA. Science 2020-08-01.
  2. "Antibody cocktail to SARS-CoV-2 spike protein prevents rapid mutational escape seen with individual antibodies" Baum A [..] Kyratsous CA. Science. 2020-08-21. (REGN-COV2 antibody cocktail prevents and treats SARS-CoV-2 infection in rhesus macaques and hamsters. bioRxiv 2020-08-03)
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REGN-COV2の臨床試験
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[出典] Regeneronリリース 2020-09-29 "REGENERON'S REGN-COV2 ANTIBODY COCKTAIL REDUCED VIRAL LEVELS AND IMPROVED SYMPTOMS IN NON-HOSPITALIZED COVID-19 PATIENTS"

 リジェネロン社は、2020年9月29日に、REGN-COV2を対象とする進行中のシームレスな第1/2/3相試験からの第1回報告として入院はしていない275名のCOVID-19患者(平均年齢 44歳)に投与した結果を「REGN-COV2が、COVID-19患者のウイルス量を低減し症状を緩和した」と発表した。
  • 被験者のプロファイル*: 275名のCOVID-19患者の中で45%がSARS-CoV-2に対する抗体を帯びており (以下、抗体陽性)、41%は抗体を帯びていなかった (以下、抗体陰性)。
  • 抗体陽性と抗体陰性と、ウイルス量と症状およびそれらの低減・緩和との間に相関が見られ、抗体陽性者では自律的にウイルス量が減少し、また、症状緩和も早かった。
  • REGN-COV2は抗体陰性者に、抗体陽性者に見られたのと同様なウイルス量の低減をもたらした。ウイルス量低減効果はウイルス量レベルが高いほど顕著であった:

    ・ウイルス量レベル 105 copies/mL ~ 50-60%低減

    ・ウイルス量レベル 107 copies/mL ~ 99%低減 
    ・ウイルス量レベル 106 copies/mL ~ 95%低減

  • 抗体陰性患者の中等症または無症状に至る症状緩和に要した日数 (中央値)は、プラセボ(偽薬)で13日のところ、REGN-COV2の高用量 (8 g)投与で8日へ、低用量 (2.4 g)投与で6日へと早まり、また、症状緩和もウイルス量が高レベルな患者ほど効果が有る傾向が見られた。
  • 投与に対する過敏性反応 (インフュージョンリアクション)は、偽薬投与とREGEN-COV2投与それぞれ2名に見られた。治験で言うところの重篤有害事象 (serious adverse event)が、偽薬投与で2例、低用量投与で1例見られたが、高用量投与では見られなかった。
     なお、独立データモニタリング委員会 (Independent Data Monitoring Committee) からは、REGN-COV2に参加している2,000名を超える被験者全体にわたって"予期せざる安全性に関わる事象 (unexpected safety finding)"の報告はなされていない。
 [crisp_bio注]