crisp_bio

科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

2020-12-28 2020年を締めくくるにあたり再投稿

2020-10-21 本文を読む時間を計測し直したところ、随時追記した注, 小文字にした括弧内,も含むと, 2分かかることが判明いたしましたので、タイトルを「... 1分間」から[... 2分間]へ修正しました。補足も含めた全文については計測しておりません。なお、特許係争に関する第11項を今回補足に補足いたしました。

2020-10-08 初稿
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微生物の力
  1. 新型コロナウイルスはヒトに感染しますが、世の中にはバクテリアに感染し破壊するウイルスもいます。 
    [
    バクテリアに感染するウイルスはバクテリオファージ, 略してファージ, と呼ばれますが、本記事ではウイルスに統一しました]
  2. CRISPR-Cas (クリスパーキャス)は, バクテリアがウイルスから身を守るシステムの一つです 。
    [
    CRISPR-Casシステムはバクテリアの獲得免疫機構とも呼ばれます]
  3. バクテリアは侵入するウイルスのゲノム配列を切断してその断片を自身のゲノム内に蓄積していきます。蓄積された断片配列をスペーサと呼びます。
    [一連の断片配列を順次蓄積した場所をCRISPRアレイと呼びます。CRISPRアレイは免疫記憶とも呼ばれます]
  4. バクテリアは、後に、侵入するウイルスのゲノム配列を、スペーサ (DNA)から転写したRNA*を手掛かりに検査し、一致する部分を発見すると、そのウイルスのゲノムを切断し破壊します。
    [* crispr RNA (crRNA)と呼ばれます]
ヒト細胞の力
  1. ヒト遺伝子の配列の一部をスペーサ (crRNA)とみたててCasタンパク質と組み合わせると、crRNA*を手掛かりにヒトゲノム (二本鎖DNA)の狙った位置を切断**することができます 。
    [より正確にはcrRNAに、以下の「補足」の項5にあるtracrRNAを組み合わせる必要があります。また、crRNAとtracrRNAが一体となったsgRNAを人工合成する発明もノーベル賞に至るポイントの一つです)
  2. ヒト細胞は、切断されたゲノムを修復する仕組みを備えています。
  3. 修復エラーを起こしやすい仕組みが働くと、切断は修復されますが、完全には修復されずに変異が残ることがあります。
    [非相同末端結合/NHEJと呼ばれる仕組みに基づく修復です]
  4. crRNAとCasタンパク質に加えて、修復に利用できるDNA断片を供給すると、そのDNA断片が組み込まれることがあります。 
    [
    相同組換/HRという仕組みに基づく修復です]
CRISPR-Casによるゲノム編集

 CRISPR-Casが誘導するゲノムの切断と細胞のゲノム修復機能を巧妙に組み合わせることで、ヒトに限らずあらゆる生物のゲノムを編集*できるようになり、2013年以来、CRISPR狂騒とも呼ばれる状況が続いています
[
* 塩基A/T/G/Cの並びで書き表されるゲノムを、キーボードとマウスでテキストを編集するかのように、文字通り編集することが可能になりました。実験には別のマウスが良く使われますが .....; バクテリアのCRISPR-Casがウイルスゲノムを切断する現象をもってして、CRISPR/Cas9によるヒト細胞でのゲノム編集が可能なことが"自明な事であったか否か"が、カリフォルニア大学とBroad研究所との特許係争の争点になりました (補足の第11項参照)]

[補足] --------------------------------------------------------
  1. CRISPRはリピート配列と外来DNA由来の断片(スペーサ)が繰り返し並んでいる様子を表現した"Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats"の頭文字をとったもので、Casタンパク質はCRISPR associated proteinsに由来します (第4項参照)。
  2. CRISPR-Casシステムは、バクテリアだけでなくアーキア(もしくはアーケアまたは古細菌)と呼ばれる微生物も帯びている多様なシステムです。2019年の時点で2クラス/5タイプ/33タイプの階層に分類されています。
  3. CRISPRアレイは、1987年に石野良純らによって奇妙な繰り返し配列*として発見 (PMC213968)されましたが当時はCRISPRアレイとは呼ばれていませんでした。[*"Five highly homologous sequences of 29 nucleotides were arranged as direct repeats with 32 nucleotides as spacing"]
  4. 2000, short regularly spaced repeats (SRSR)と呼ばれていた繰り返し配列を、Francisco MojicaRuud JansenCRISPRと命名しました (Wikipedia)
  5. Cas9-crRNA ribonucleoprotein complex mediates specific DNA cleavage for adaptive immunity in bacteria.”という論文がPNAS誌から201294日にオンライン出版れています (受理 2012-05-21)。著者は、小国リトアニアVilnius UniversityGiedrius Gasiunas, Rodolphe Barrangou, Philippe HorvathならびにVirginijus Siksnysです。この論文は、Cell 誌にリジェクトされ、PNAS誌投稿後査読数ヶ月の間にMartin Jinek, Krzysztof Chylinski, Ines Fonfara, Michael Hauer, Jennifer A Doudna, Emmanuelle Charpentierによる"A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity"Science誌から2012628日にオンライン出版されました (受理 2012-06-20)。
     そこで今回、「ノーベル賞は3名まで共同受賞可なので、Virginijus Siksnysも受賞者にすることができたはずだとする意見*が出ています [* The Nobel Prize in chemistry has gone to the two women who pioneered CRISPR gene editing. MIT Technology Review 2020-10-07 - Controversial pickの項]
     一方で、ノーベル賞の"A TOOL FOR GENOME EDITING"という解説文書からは、スペーサに対応するcrRNAそしてCas9に、Charpentierらが発見していた"trans-activating CRISPR RNA (tracrRNA)"が加わりsgRNAに至ったことが評価されたことが伺えます。
  6. 「2分間」の記述から飛躍、あるいは、相反するかに見えるCRISPR-Casゲノム編集技術が続々と発明・発見され、CRISPR-Casゲノム編集技術の利用は生物が関わるあらゆる学問と産業に広がっています [以下、#7-#10]
  7. DNAを切断しないゲノム編集技術切断活性を失わせたdCasとsgRNAにより機能を帯びた分子を標的位置に誘導することで、遺伝子の発現を抑制または活性化する技術 (CRISPRiとCRISPRa)、塩基 (ATGC)を任意の塩基に置き換える技術 (CBE, ABE, PE)、DNAやRNAを可視化する技術;
  8. crRNAの指し示す標的以外に、DNAやRNAを無差別に切断する活性 (コラテラル活性)を利用して、標的分子のシグナルを劇的に増幅する技術 (DETECTRやSHERLOCK);
  9. CRISPR-Casを抑制するanti-CRISPRタンパク質 (Acr), 続いて、Acrの活性を制御するanti-anti-CRISPR がウイルスから発見され、それぞれ、CRISPR-Casの制御への利用が模索されています (再興・新興ウイルスとヒトとの戦いが続くように、ウイルスとバクテリア/アーケアの戦いも、果てしなく続く)
  10. さまざまなCRISPR-Casゲノム編集技術による論理因子を組合せた合成遺伝子回路構築 (Biochem Soc Trans, 2020), などなど。
  11. カリフォルニア大学とBroad研究所との特許係争: CRISPR/Cas技術によるヒトゲノム編集に関する Broad研究所の特許を有効とする米国特許商標庁 (USTPO)の裁定に対して、カルフォルニア大学が連邦控訴裁判所に申し立てた異議は2017年に却下されましたが、2019年に入ってからUSTPOでの審議が再開され2020年も継続中の模様です [crisp_bio 2018-09-11/2020-10-08]。
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