[出典] "SARS-CoV-2 neutralizing antibody structures inform therapeutic strategies" Barnes CO [..] Bjorkman PJ. Nature. 2020-10-12.

 リネジェロン社の抗体カクテルREGN-COV2 やイーライリリー社のLY-CoV555を始めとして、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質のACE2受容体結合ドメイン (RBD)を標的とするヒト中和抗体 (human neutralizing antibodies: hNAbs) によるCOVID-19治療の治験が進行している。

 California Institute of TechnologyにRockefeller Universityが加わった研究グループは今回、SARS-CoV-2中和の構造基盤を明らかにすることを目的として、SARS-CoV-2のSタンパク質三量体[*]またはSタンパク質のRBDとCOVID-19 hNAbsとの複合体8種類の構造をX線結晶構造解析とクライオ電顕法により明らかにし、また、生物物理学およびバイオインフォマティクスによる解析を加え、複合体の構造とRBD-ACE2の結合をブロックする活性との関係を比較した。
 [*crisp_bio注] Sタンパク質は3つの同じ鎖で構成されているが、鎖ごとに、RBDがACE2に結合可能なコンフォメーション(up)をとったり、受容体がアクセス不可能な配置 (down)をとったりする柔軟性を備えている: crisp_bio 2020-03-02の中盤, または, crisp_bio 2020-06-05 参照]

hNAbsに見えてきた4つのクラス
  1. [クラス1] ACE2の結合をブロックする短いCDRH3を帯びており、"up"状態のRBDsに限り結合するhNAbs
  2. [クラス2] 結合サイトがRBDのACE2結合サイトと重なり, RBDの"up"状態と"down"状態のRBDのいずれも認識するhNAbs。クラス2に属する長いCDR H3を帯びているhNAbは、結合した"down" RBDに隣接するRDBsにも接触し、三量体のRBDs全てを"down" 状態に固定、すなわち、Sタンパク質を閉じたコンフォメーションに固定する。
  3. [クラス3] ACE2結合サイト以外のRBD領域に結合し、"up"状態と"down"状態の双方のRBDsを認識するhNAbs
  4. [クラス4 ]"up"状態のRBDsに結合するが、Sタンパク質のACE2への結合をブロックしない抗体
    [参考: crisp_bio 2020-04-04 "SARS-CoV中和抗体との結合から見えてきたSARS-CoV-2エピトープは標的足り得るか"参照: CR3022がSARS-CoV-2のRBDに結合することが報告されていたが、CR3022はSARS-CoV-2を中和するに至らなかった]
 RBDの変異体とSARS-CoV-2のhNAbs回避との相関分析から、hNAbsのカクテル[**]としては、異なるクラスを組み合わせることが、RBD変異に対する戦略として有力であることが示唆された。
[**crisp_bio注] リジェネロン社の抗体カクテルを構成する2種類のモノクローナル抗体REGN10933とREGN10987はそれぞれクラス1とクラス3に分類された [crisp_bio 2020-20-12参照] 。

構造情報 (2020-10-13現在公開待ち; 10月21日と28日で全エントリー公開済み)
  • [X線結晶構造解析] C102-RBD 7K8M; C102 Fab 7K8N; C002 Fab 7K8O; C110 Fab 7K8P; C121 Fab 7K8Q; C135 Fab 7K8R 
  • [クライオ電顕法] C002-S 2P (state 1) 7K8S; C002-S 2P (state 2) 7K8T; C104-S 2P 7K8U; C110-S 2P 7K8V; C119-S 2P 7K8W; C121-S 2P 7K8X; C121-S 2P 7K8Y; C135-S 2P 7K8Z; C144-S 6P 7K90