[出典] "Cas9-AAV6 Gene Correction of Beta-Globin in Autologous HSCs Improves Sickle Cell Disease Erythropoiesis in Mice" Wilkinson AC [..] Nakauchi H, Porteus MH. bioRxiv 2020-10-13. [プレプリント]

 鎌状赤血球症 (SCD)の責任遺伝子であるβグロビン遺伝子変異 (HBB) を始めとする疾患責任遺伝子変異をヒト造血幹細胞・前駆細胞 (HSPC)において修復する手法の研究開発が進み、治験も始まっている [*]。
[*] [20200612更新] 鎌状赤血球症とβサラセミアのCRISPR/Cas9療法の治験, 前進CRISPR関連文献メモ_2016/10/15 [第1項] [論文] 鎌状赤血球症の病因変異をCRISPR/Cas9を介した相同組換え修復 (HDR)で正常化

 Stanford University School of Medicineの研究グループは今回、Townes-SCDマウスをプラットフォームとして、造血幹細胞 (HSCs)においてSCDの原因であるHBB変異をCRISPR/Cas9 HDRを介してex vivoで修復し、Townes-SCDマウスへと自家移植した:
  • 病因変異を修正したHSCsからヘモグロビンA (HgbA)が安定して生成され、それに応じてHgbSが減少した。
  • 遺伝子編集を加えたHSCsが定着することで、赤血球の鎌状への変形が抑制され、末梢血での網状赤血球の頻度が低下し、赤血球の半減期が伸びる効果が見られた。
なぜTownes-SCDマウスか
  • CRISPR/Cas9遺伝子編集を加えたヒトHSPCsの再増殖機能はこれまで、専ら異種移植した免疫不全マウスにて検証され、自家移植のモデルでは検証されて来なかった。
     異種移植モデルはin vivoでのヒトHSPCs研究に有用ではあるが、異種移植の環境自体が解析する上の制約になる。特に、ヒト成熟赤血球の産生が不全になることから、赤血球生成の欠陥をもたらす遺伝子変異の修復の評価がin vitroに限られていた。
  • Townes-SCDマウスは、ヒトHBAとE6V変異HBBからなるヒト化ヘモグロビン遺伝子座を帯びているSCDトランスジェニックマウスモデルである。このHbS SCDマウスは、ヒト・ヘモグロビンS (sockle hemoglobin)四量体だけ発現し、SCDの症状を示し、異種移植モデルの制約回避を期待できる。
  • また、Townes-SCDマウス由来のES細胞において相同組換えを介してHbsHbAへ置換すると、赤血球生成が正常化することが、先行研究 (Blood, 2006)で示されていた。