[出典] Commentary "Why and How Vaccines Work" Iwasaki A, Omer SB. Cell 2020-10-15.
[注] 本投稿は「ワクチンはなぜ効くのか (1/2)」の続き
ワクチンのタイプ
[注] 本投稿は「ワクチンはなぜ効くのか (1/2)」の続き
ワクチンのタイプ
- ウイルス学, 分子生物学, および免疫学の進歩とともに新たなタイプのワクチンが生み出されてきた [Figure 2 - A参照]。例えば、病原菌に対しては、その細胞壁に特有の糖鎖を標的する抗体を分泌するいわゆる 'conjugate vaccine' (結合型ワクチン)が、開発された。
- 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)に対しては、あらゆるタイプのワクチンの開発が進められている [Figure 2 - B参照]。米国では、短期間で試作することが可能なmRNAまたはDNAをベースとしたワクチンが先陣を切っているが、いくつかの生ワクチンを除くほとんどが、免疫応答を高めるために複数回の接種を前提としている。
ワクチン学の課題
- 最も致命的で侵襲的な感染症, マラリア, 肺結核, およびHIV-1の場合、感染が再感染を予防する効果をもたらさず、免疫応答をもたらすワクチンも存在していなかったが、希望の光は見えてきている。
- マラリアの場合は、マラリア原虫のスポロゾイト表面タンパク質の一部、B型肝炎ウイルスのエンベロープタンパク質, およびアジュバントAS01で構成されるワクチンの第3相試験が完了し、マラウイ, ガーナ, およびケニヤの3ヶ国において、2019年から2023年までの予定で、試験的接種が進められている。
- 肺結核の場合は、結核菌の2種類の抗原をベースとしアジュバントAS01Eからなるワクチンの第IIb相試験が進行中である。
- 一方で、HIV-1については、これまでのワクチン候補は全て臨床試験で脱落している。
- また、これらの三大感染症に加えて、ワクチンを必要とする「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)」が多々存在することを忘れてはならない。
[注] 新型コロナウイルスのような新興感染症に対するワクチン開発も課題である。SARS-CoV-1ワクチンの場合は、十分な治験が完了する前に感染が終息へと向かい始め、完成に至らなかったとされている。
ワクチン学の未来
- 多分野の高次元なデータセットをベースとするシステム生物学を融合した 'systems vaccinology' (システムワクチン学)によって、インフルエンザウイルスや黄熱病ウイルスを含む多くのウイルスに対するワクチン開発が進み、また、予想外な遺伝的特徴とワクチンの効力の間の関係が明らかにされてきている。また、'systems serology ('システム血清学)によるHIV-1ワクチン開発研究において、予防効果と相関する抗体候補が同定されてきている。
- システムワクチン学とともに、'T cell vaccines' (T細胞ワクチン)も新たな分野としてひろがってきている。これまでのワクチンの殆どが免疫応答の中でも中和抗体の生産に焦点を絞っていたが、HIV-1, インフルエンザ・ウイルス, 単純ヘルペスウイルスのように中和抗体の認識を免れる仕組みを備えたウイルス (antibody-evasive viruses: AEV)が存在する。AEVに対して有効な戦略が、病原体が侵入する場所, 粘膜系, にて、ワクチンを介してT細胞免疫応答を誘導することである。これまで、粘膜系に注入したワクチンの殆どがメモリーT細胞を粘膜に定着させることができなかったが、この課題の解決法も見えてきている。
- 'Mucosal vaccines' (粘膜免疫)を活性化する粘膜ワクチンも次世代ワクチンの候補である。
ワクチン忌避の課題
- ワクチンによる集団免疫の実現を妨げる大きな障壁が、ワクチンに対する誤解と不信によるワクチンの忌避 (無視や拒絶)である。
- ワクチンの成功が、皮肉にも、ワクチンの価値を見えなくさせているところもある。ワクチンによって抑制が進むほどそのワクチンが対象とした感染症がもたらす深刻な問題が忘られ、同時に、ワクチン接種に伴う副作用がSNSなどを介して拡散し、ワクチン接種を躊躇する層が拡大していく。
- さらに、政府と医療提供者への不信感もワクチン忌避の空気と相関し、倫理観とワクチン忌避の相関も論じられているが、憂慮すべきことに、来たるべきCOVID-19ワクチンに対して、米国成人の多くが忌避しようとしている。
- この状況に対して、ワクチン接種の拡大に貢献するコミュニケーションの取り方が提案されている[*]。また、ワクチン接種をいつでもどこでも気軽に受けられる (accessible and convenient)ような仕組みが、ワクチン接種を広げた事例もある。
[*] Presumptive approach**: Talking with Parents about Vaccines for Infants. CDC 2018-04-11 (Last reviewed) ; Motivational interviewing (Wikipedia)
[**] "Presumptive" approach assumes parents will immunize their child.
- ワクチンはウイルスや病原菌の感染の拡大と感染症による死を予防する最も効果的なツールの一つであるが、ワクチン学が進化していく一方で、ワクチン学の信頼性を損なうリスクが存在している。
- 意図的か否か、悪意か善意か、の如何に関わらず、誤った情報 (misinformation)の流布と、それが増幅するワクチンに対する不安感、ひいては、ワクチン忌避の広がりである。このリスクを回避するために、科学者は、新旧のメディアを駆使して、一般社会とのコミュニケーションを深めていく必要がある。
- こうして、ワクチン学は、ウイルス学, 免疫学, バイオインフォマティクス, ならびに, システム生物学といった専門分野に加えて、社会学にも立脚してくことになる。
crisp_bio注: 「ワクチン学の課題 (Progress and Challenges)」と「
ワクチン学の未来 (Where Vaccine Science Is Headed)」の原文では本投稿よりも遥かに詳細な専門的記述がなされています。また「むすび (Conclusion)」の部分は、crisp_bioの主観を入れ込んだ'超訳'になっています。いずれにしましても、他のcrisp_投稿と同じく、"ワクチンはなぜ効くのか(1/2) と(2/2)"の文責はcrisp_bioにあります。
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