[出典] "Molecular Dynamics Reveals a DNA-Induced Dynamic Switch Triggering Activation of CRISPR-Cas12a" Saha A, Arantes PR [..] Palermo G. J Chem Inf Model. 2020-10-27

 CRISPR-Cas12aのコラテラル活性をベースとした超高感度核酸検出システムDETECTRは、SARS-CoV-2の診断にも利用され始めている [1]。UC Riversideの研究者達に2020年ノーベル化学賞 [2]を受賞したJennifer A Doudna, Emmanuelle CharpentierのCRISPR論文[3]の筆頭著者Martin Jinek (現 U. Zurich) [4]が加わった著者らは今回、Cas12aがDNAへの結合をきっかけとして大きくコンフォメーションを変化させることでDNA切断活性を発揮するに至る構造基盤に関する知見を深めた。

 これまでの構造生物学と生化学実験からCas12aはCas9と同様に2つのローブで構成されていることが分かっている。すなわち、DNAを認識する(REC)ローブとヌクレアーゼ (NUC)ローブが、ウエッジドメイン (WED)で繋がれている。RECローブはREC1とREC2の2種類のα-ヘリックスドメインで構成され、DNA結合を担う。NUCローブはRuvCとNucドメインで構成され、PAMと相互作用 (PI)ドメインに隣接している。ガイドRNA (crRNA)は、二本鎖DNAのうち標的鎖 (TS)とヘテロ二重鎖を形成し、非標的鎖 (NTS)はRuvCとNucドメインで形成されるクレフトに格納される。

 Cas9ではTSとNTSが
2種類のヌクレアーゼドメイン HNHとRuvCによってそれぞれ切断されるが、Cas12aではRuvCドメイン内の活性部位1ヵ所でTSとNTSの双方が切断される。Nucドメインについては、TSの切断、NTSとDNA結合への関与などが示唆されてきたが、Nucドメインのコンフォメーション変化が、DNA切断の活性化、またはRuvCドメインの活性部位におけるTSとNTSの交換促進に、どのように関わるか不明であった。Cas12aの構造については、crRNAが結合したLbCas12aとFnCas12aの構造, crRNAと切断後のDNA NTSが結合したAsCas12aとFnCas12aの三者複合体構造、FnCas12aについてはさらにNTSとTSを含む三者複合体、が決定され、DNA結合から切断に至るまでCas12aが大きくコンフォメーションを変化させることが明らかになっていた。
  • 著者らは今回、~20 μsにおよぶ全原子分子動力学シミュレーションによる解析を行い、Cas12aを構成するドメイン、コンフォメーション変化、および触媒活性の間の関係について新たな知見を得た。
  • DNA結合をきっかけとしてREC2ドメインとNucドメインが動き、Nucドメインの大きな振り幅がDNA切断を可能にし、また、NucとREC2の動きが共役していることからREC2がNucの制御因子として機能することが示唆された (これは、Cas9におけるHNHドメインを想起させた)。
  • このREC2とNucドメインの協働を介したフレキシブルなコンフォメーション変化が、RuvCドメインの活性部位におけるTSとNTSの交換を可能にし、さらに、Cas12aにDETECTRのベースとなったssDNAの非選択的切断活性 (コラテラル活性)をもたらしているとした。
[引用crisp_bio記事]
  1. 2020-07-31 新型コロナウイルス検査: DETECTRの性能を、オランダのグループが患者378人の検査で実証
  2. 2020-10-07 2020年ノーベル化学賞はCRISPR (クリスパー): ジェニファー・ダウドナとエマニュエル・シャルパンティエに
  3. "A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity" Martin Jinek, Krzysztof Chylinski, Ines Fonfara, Michael Hauer, Jennifer A Doudna, Emmanuelle Charpentier. Science. 2012 Aug 17;337(6096):816-21. Epub 2012 Jun 28.
  4. [INTERVIEW] "Turning point: Martin Jinek" Gewin V. Nature 2015-09-16