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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Exploration of Bacterial Bottlenecks and Streptococcus pneumoniae Pathogenesis by CRISPRi-Seq" Liu X, Kimmey JM, Matarazzo L [..] Veening JW. Cell Host Microbe 2020-10-28

肺炎レンサ球菌 (Streptococcus pneumoniae )の病原性
  • S. pneumoniaeは往々にして無症状のままヒト鼻咽頭に定着しているが、肺炎, 敗血症, 髄膜炎などを引き起こす日和見病原体であり、毎年世界中で数百万人に及ぶ死者をもたらしてきた。また、1918年のIAVパンデミックを典型例として、A型インフルエンザウイルス (IAV)の感染後の重篤化が知られている。
  • S. pneumoniae の一連の病原性因子の研究は進んできたが、病原性因子群れとIAVとの共感染時の感染症の重篤化との関係は不明であった。
  • S. pneumoniae 感染症の進行には病原性因子に加えてボトルネック [*]が関与していることが知られているが、その定量的解析も進んでこなかった。
    [*] 宿主細胞において、免疫応答や栄養制限を受けたS. pneumoniae集団の規模が一旦縮小し、その後、きわめて少数のS. pneumoniae細胞が増殖することにより、感染症が進行することが知られている。
研究成果

 J. W. Veeningらは先行研究でCRISPRiによりS. pneumoniaeの新たな必須遺伝子を同定 [1]していたが、今回、University of Lausanne, UCSD, Institut Pasteur Lilleなどの研究グループとして、ドキシサイクリン (Dox)で誘導可能なプール型CRISPRiによるスクリーニング結果をイルミナ・シーケンシングで読み出す新たなパイプライン (CRISPRi-seqと命名)を構築し、広く肺炎研究に利用されてきたモデルマウスにおいてボトルネックのサイズを定量し、感染症の発症に関わる病原性因子を同定した。
  • 先行研究に基づいて慎重に選別したバーコード付きsgRNAをベースとするDox誘導性プール型CRISPRiシステムを肺炎モデルマウスに気管内投与し, 24時間後に肺からバクテリアを採取し、48時間後に肺と血液からバクテリアを採取した。CRISPRiの活性は、マウスの餌にDoxを混ぜるか否かで調節した。その上で、バクテリアDNAのイルミナシーケンシングにより、ボトルネックと、各遺伝子の必須性を測定した。
  • 24時間経過時にはほとんどのバクテリア集団のサイズが維持されていたが、48時間経過後には肺と血液の双方でバクテリア集団が25クローンまで減少し、変異体によってその後~10の7乗まで増殖することを見出した。この現象はCRISPRiの活性化の如何には左右されなかった。また、実験ごとにボトルネック・サイズが大きく変動し、肺と血液との間の相関も見られず、バクテリアの組成が極めてヘテロになっていた
  • こうして、ボトルネックが感染に極めて大きな影響を与え、また、ボトルネック後の、ボトルネックが確率的な現象であることが示唆された。
  • IAVを先行感染させたモデルマウスではボトルネックの現象は見られず、感染に必須の遺伝子群の同定が可能になった。トップヒットに入った遺伝子の中には、adenylsuccinate synthetaseをコードするpurAと莢膜形成に関与するcpsオペロンが含まれていた。一方で、肺炎球菌産生毒素ニューモリシンは、意外にも、感染に必須の遺伝子ではなく伝播に関与することが示唆された。また、S-adenosylmethionine synthetaseをコードするmetKin vitroでは必須であるが、in vivoでは必須でないことも明らかになった。
  • CRISPRi-seqは、必須遺伝子を含む全ての遺伝子についてその病原性を判定することを可能とし、従来のトランスポゾンを介した遺伝的スクリーン (Tn-seq)では不可能な病原性機能ゲノミクスを可能とする。
[関連論文]
  1. [*] "High-throughput CRISPRi phenotyping identifies new essential genes in Streptococcus pneumoniae" Liu X, Kimmey JM [..] Veening J. Mol Syst Biol 2017-05-10. 
  2. "Modulating pathogenesis with mobile-CRISPRi" Qu J, Prasad NK [..] Rosenberg OS. J. Bacteriol 2019-10-21
  3. [3] "Synthetic gene-regulatory networks in the opportunistic human pathogen Streptococcus pneumoniae" Sorg RA Veenign JW. PNAS 2020-10-21.
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