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科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

[出典] INSIGHT "Conditional Genome Editing in the Mammalian Brain Using CRISPR-Cas9" Sun H, Zheng J, Yi M, Wan Y. Neurosci Bull. 2020-10-24; 論文 "Development of a CRISPR-SaCas9 system for projection- and function-specific gene editing in the rat brain" Sun H [..] Yi M, Wan Y. Sci Adv 2020-03-18

背景
  • 哺乳類の脳の機能は、形態, 生化学的特性, および機能が明確に異なる神経細胞の集団が構成する複雑な回路によって維持され、異なる神経回路に属する特定の神経細胞の機能不全が回路群を介して多様な疾患をもたらす。したがって、脳機能の分子機構を探るには、複雑な脳の組織にわたって分布している多様な神経細胞集団を選択的かつ多重に操作する技術が必要である。
  • 記憶を例にとると、近年、記憶は特定の神経細胞におけるシナプス結合の強さに依存するのでは無く、engram cells (記憶痕跡細胞)と呼ばれる神経細胞のサブセットに保持され、脳の複数の領域にわたるengram cells間の結合が形作るネットワーク (回路)が、記憶の符号化 (encoding)と長期記憶固定化の実体とされた [1,2]
  • この成果は、トランスジェニックマウスにおいて、ドキシサイクリン(Dox)誘導システムを介したimmediate early gene (IEG; 最初期遺伝子)のラベリング技術をベースとして得られ、今では、arcc-fosを含むIEGsの発現が神経細胞活性化のバイオマーカとして活用されるに至っている。
北京大学のSunらの成果
  • Sunらは今回、Cre-loxPシステムを介したCRISPR-Cas9の活性の時空間制御、順行性AAVと逆行性AAVベクター、および神経細胞の活性に依存するラベリング技術を組み合わせることで、投射に特異的な遺伝子編集と機能に特異的な遺伝子編集を可能とする手法を樹立した。
  • 概念実証実験を、ラット脳において学習と記憶に関与する内側前頭前野 (mPFC)ニューロン内のcbp(CREB結合タンパク質)遺伝子をモデルとして行った。
  • 具体的には、AAV9–c-fos–rtTA-U6-gRNAとAAV9-TRE3G-SaCas9を注入しておくことで、文脈的恐怖条件付け学習に由来する記憶の保持または消去をそれぞれ担うengram cellsにおける選択的CREBノックダウンを実現し、遠隔記憶想起の阻害または記憶消去の阻害がもたらされることを示した。
  • また、FACSとディープシーケンシングを組み合わせることで、SaCas9による遺伝子編集を受けたニューロンの転写動態のin vivo解析も実現した。
  • 今回の成果は、in vivoゲノム編集の技術を利用することで、トランスジェニック・ラット系統の樹立を回避することが可能なことも実証した。
神経科学におけるゲノム編集技術の今後
  • CRISPR-Cas9ゲノム編集ツールは、Cas9ヌクレアーゼ活性を介して遺伝子ノックアウトに加えてdCas9をベースとする遺伝子発現抑制と活性化のツール(CRISPRi/a)、Doxに依存しないCRISPR-Cas9/dCas9の活性化ツール、gRNAsライブラリーを介した多重遺伝子編集のツールなど、拡張が続いている。
  • また、血液脳関門を超えるCIRISP-Casシステムのキャリア (AAV-PHP.eBとAAV-PHP.S)も開発されたことから、CRISPR-Casゲノム編集ツールはオフターゲット活性や免疫原性の課題を伴ってはいるが、神経科学への応用が今後拡大していくであろう。
[参考文献など]
  1. "Optogenetic stimulation of a hippocampal engram activates fear memory recall" Liu X, Ramirez S [..] Tonegawa S. Nature 2012-03-22; "記憶が特定の脳神経細胞のネットワークに存在することを証明―自然科学で心を研究、心は物質の変化に基づいている―" 理化学研究所プレスリリース 2012-03-23 
  2. "Engram cells retain memory under retrograde amnesia" Ryan TJ, Roy DS, Pignatelli M, Arons A, Tonegawa S. Science 2015-05-29; 記憶痕跡回路の中に記憶が蓄えられる-神経細胞同士のつながりの強化は記憶の想起には不要-. 理化学研究所プレスリリース 2015-05-29. 
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