[出典] "3D Culture Models with CRISPR Screens Reveal Hyperactive NRF2 as a Prerequisite for Spheroid Formation via Regulation of Proliferation and Ferroptosis" Takahashi N [..] Brugge JS. Mol Cell 2020-10-30.

 Harvard Medical Schoolの研究グループは今回、非小細胞性肺癌細胞 (A549細胞とH1437細胞)の2D単層培養系 (以下、2D)と3Dスフェロイド (以下、3D)を対象として、~1,500遺伝子を標的とする14,058 sgRNAsによるプール型CRISPR-Cas9スクリーンにより、それぞれの生存・増殖に関与する一連の遺伝子を同定・比較した。
  • はじめに、NRF2のshRNAsノックダウン実験から、3Dが2Dよりも強くNRF2に依存することを見出した。
  • NRF2の恒常的発現を帯びた一連の癌細胞で高発現している遺伝子から選択した55遺伝子に基づいてNRF2の活性の指標となるNRF2スコアを定義した上で、肺癌および肺以外の組織の癌に由来する一連の癌細胞株のスフェロイド形成を評価した結果、肺癌細胞スフェロイドの形成には NRF2の恒常的活性が必須という結論に至った。また、CRISPR-Cas9によるKEAP1ノックアウトを介したNTF2タンパク質の発現と活性の上昇を介して、スフェロイドのサイズが増大し、これを裏付けた。
  • NRF2のノックダウンがもたらすスフェロイド内部のマトリクス由来細胞の消滅と増殖抑制に対して、抗酸化剤を投与することで、細胞の生存はレスキューできたが、細胞の増殖はレスキューされず、NRF2が生存と増殖に異なるパスウエイを介して影響していることが示唆された。
  • A549細胞とH1437細胞2Dと3Dを対象として、ヒト全遺伝子からこれまでの知見に基づいて絞り込んだ~1,500遺伝子を標的とする14,058 sgRNAsによるプール型CRISPR-Cas9スクリーン結果を、それぞれの生存・増殖に関与する遺伝子、特に、3D成長に重要な遺伝子に注目して、比較し、3Dが2Dよりも有意に強い依存性を示す41遺伝子を同定した。
  • こうしたアッセイの結果から、腫瘍組織内で部位によって酸化ストレスとフェロトーシスに対する耐性が異なることが明らかになった。そこで、腫瘍組織の全ての細胞を死滅させるには多重な抗酸化ストレス機構を標的にする必要があり、NRF2、GPX4、転写因子NRF2の標的遺伝子 (例 SLC7A11)、または、脂質過酸化反応に対する感受性を左右するパスウエイ (例 ACSL4)を標的としてフェロトーシスを誘導する肺癌治療戦略が検討に値するとした。