[出典] "Genome editing of CCR5 by CRISPR-Cas9 in Mauritian cynomolgus macaque embryos" Schmidt JK, Strelchenko N [..] Golos TG, Slukvin II. Sci Rep. 2020-10-28.
CCR5は、R5-HIV-1のコレセプターであり、CCR5遺伝子のケモカイン・モチーフにおける32 bpのホモ型欠失がHIV-1感染に対する耐性をもたらしている例が発見 (頻度 < 1%)されたことで、CCR5を標的とする創薬や遺伝子治療に関心が集まっているが、この臨床研究を進めるには、CCR5変異型 (CCR5-delta32)造血幹細胞に加えて、生理学的に適切な動物モデルが必要である。
非ヒト霊長類 (nonhuman primates: NHP)の一種であるモーリシャス産カニクイザル (MCMs)は他のカニクイザルと異なり、MHCハプロタイプが7種類にとどまり、同種骨髄移植にMHC適合性が及ぼすの影響の評価が容易になるメリットを帯びている。
University of Wisconsin-Madisonの研究グループは先行研究で、CRISPR/Cas9でCCR5変異を誘導したヒトiPSCsに由来するマクロファージがHIV-1感染を阻害することを報告[*]していた。今回、MCMの排卵誘発と胚培養のプロトコルを含む体外受精のプロトコルと、MCM胚におけるCCR5遺伝子座の効率的編集のプロトコル (RNPのマイクロインジェクション)を確立して、CCR5変異型MCMモデルを作出した [Figure 2引用右図参照]。
- 二重gRNAを利用することで、MCM胚の~23-37%に、CCR5遺伝子に両アレル欠失が誘導された。
- 全胚と割球ごとのジェノタイピングから、同一胚内でモザイクが発生することが明らかになった。
- こうして、HIVの幹細胞療法の研究に有用なプラットフォームが確立された。
- なお、Chinese cynomolgus macaques (CCMs)についても同時並行で実験が行われた結果も論文内で報告されている。
[*] CRISPR関連文献メモ_2015/12/25 [第6項] CRISPR/Cas9によってiPS細胞においてCCR5を破壊すると、免疫細胞にCCR5指向性HIV-1ウイルス感染に対する選択的耐性が生じる; "CCR5 Disruption in Induced Pluripotent Stem Cells Using CRISPR/Cas9 Provides Selective Resistance of Immune Cells to CCR5-tropic HIV-1 Virus" Kang, H. et al. Mol. Ther. Nucleic Acids. 2015 Dec 15;4:e268.
[参考] モーリシャス島産カニクイザルの全ゲノムシークエンス解析. 霊長類研究 Supplement (2015); "Whole-Genome Sequencing of Six Mauritian Cynomolgus Macaques (Macaca fascicularis) Reveals a Genome-Wide Pattern of Polymorphisms under Extreme Population Bottleneck" Osada N [..] Blancher A. Genome Biol Evol. 2015.
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