[出典] "Chain-shattering Pt(IV)-backboned polymeric nanoplatform for efficient CRISPR/Cas9 gene editing to enhance synergistic cancer therapy" Zhang Q, Huang G, He S [..] Zhou D, Huang Y. Nano Res. 2020-10-29.

 長春応用化学研究所は、プロドラッグの一種である白金錯体Pt(IV)を骨格に含む分解性ポリマー (chain-shattering Pt(IV)-backboned polymeric: CSPt)からなるナノプラットフォーム (NPCSPt)を開発し、癌遺伝子を標的とするCRISPR-Casシステムをコードするプラスミド (pEZH2)を組み込んだNPCSPt/pEZH2 [*]をヒト前立腺癌細胞株PC-3にデリバリすることで、癌細胞増殖の抑制が可能なことを実証した。

 
NPCSPt/pEZH2はまた、BALB/cヌードマウス (オス)に皮下移植したPC-3に対して、シスプラチンよりも高い癌増殖抑制効果を示し、その投与に伴う副作用も見られなかった。T7EIアッセイにより判定したEZH2遺伝子へのindels誘導率は21.3%であり、また、EZH2タンパク質のノックダウン率は66.7%であった。

[*] NPCSPt/pEZH2とは
  • NPCSPtは、CSPtにオリゴエチレンイミン (OEI)を結合することで、カチオン性ミセルのナノ粒子として自己組織化し、遺伝子との結合親和性が高く、かつ、プロトンスポンジ効果を介して、細胞内に取り込まれ細胞質へ放出される。
  • pEZH2は、多くの癌細胞で高発現しているEZH2を標的とするsgRNA, Cas9, GFP, および核移行シグナル配列 (NLS)をコードしたプラスミドであり、静電相互作用を介して、NPCSPtと複合体を構成する。
  • NPCSPtは、癌細胞内の高い還元性の環境をトリガーとして鎖破砕を起こし (chain-shattering)、pEZH2と細胞毒性を帯びているPt(II)を放出する。
  • 続いて、細胞質内で形成されたCas9-sgRNA複合体がNLSにより細胞核へ移行し、in vitroでもin vivoでもEZH2を効率的にノックアウトし、その結果、癌細胞の増殖が抑制される。この間、EZH2ノックアウトがH3K27me3を下方制御することでクロマチンがオープンになり、Pt(II)が核DNAにアクセスしやすくなることで、細胞死が亢進する。