[出典] "Untangling the genetics of plasticity" Zahn LM. Science 2020-11-06; 論文 "Genomic architecture of a genetically assimilated seasonal color pattern" van der Burg KRL [..] Reed RD. Science 2020-11-06.
生物の発生時の可塑性 (developmental plasticity)は、環境要因に応答して同一の遺伝型から異なる表現型を生み出す能力 (表現型可塑性)*であり多様な表現型をもたらすが、進化の過程で、その中で特定の表現型が自然選択されていくことが示唆される [* 異なる表現型が遺伝型の違いに因る場合は遺伝多型であり表現型可塑性には相当しない]。この自然選択によって、祖先から受け継いだ特定の環境要因のもとで発現する表現型を、その環境要因が存在しなくても発現するに至るシナリオを、Waddingtonは遺伝的同化 (genetic assimilation)と称し (Evolution, 1953) 、物議を呼んだ。
Cornell Universityの研究グループは今回、翅の色が、自然環境でも人工的環境でも、温暖・長日では淡褐色 (light tan)に、寒冷・短日ではえんじ色(dark red)になるJunonia coenia (アメリカタテハモドキ)をモデルとして、遺伝的同化をもたらす遺伝子構造を探った [アメリカタテハモドキの画像をWikipediaから右図へと引用; 翅色変化について論文のFig 1参照]。
- はじめに、温暖条件で最もdark redな集団を選抜繁殖させることを12世代繰り返し、温暖条件でも主としてdark redが顕れる表現型可塑性が低下した系統 (以下、同化系統)を作出し、一方で、温暖条件での最もlight tanの選抜と寒冷条件での最もdark redの選抜を交互に繰り返すことで、翅の色が環境条件に応答して変化し色差も広がった系統 、表現型可塑性が増した系統 (以下、可塑系統)、を作出した。
- 環境応答の過程には、(1) 環境シグナル感知, (2) 環境シグナルのホルモンなどを介した生体内伝達, および (3) 伝達されたシグナルに対する体内組織の応答の3つのスデージがあり、どの段階で可塑性が制御されるかの観点から、作出した同化系統と可塑系統を比較解析した。
- 両系統の間で、昆虫ホルモンの一種であるエクジソン (ecdysone)のプロファイルにもレベルにも差が見られなかったことから、遺伝的同化は、(1)と(2)のステージではなくステージ(3)で起きていると推定した。
- そこで、同化系統と可塑系統の間のF3世代を温暖・長日条件で飼育し、この環境条件に反応した20個体 (最もlight tan色)と反応しなかった21個体 (最もdark red色)のGWASとRNA-seqを経て、翅色の可塑性を制御する遺伝子候補を絞り込み、3種類の遺伝子 (cortex, trehalase, およびherfst)を特定するに至った。すなわち、CRISPR/Cas9によるノックアウト実験から、3遺伝子それぞれが"red autumn"の発色に必須であり、3遺伝子のうちいずれか1種類の遺伝子の機能喪失が"tan summer"色をもたらすことを同定した。さらに、ATAC-seqとHi-Cによる解析を加えた結果、これら3遺伝子のシスエレメントの選択に基づく遺伝的同化のモデルを提案するに至った [Fig. 4参照]。
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