2020-12-10 ブログタイトルの誤字SERSをSARSへと修正、また、ゲノムワイドCRISPRスクリーンによる宿主因子同定論文とcrisp_bio記事へのリンクを追加: "Genetic screens identify host factors for SARS-CoV-2 and common cold coronaviruses" Wang R, Simoneau CR [..] Ott M, Puschnik AS. Cell. 2020-12-01; crisp_bio 2020-12-10 SARS-CoV-2と2種類の風邪-CoVに共通する宿主因子をゲノムワイドCRISPR/Cas9スクリーンで同定
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2020-12-08 初稿
[出典] "Comparative host-coronavirus protein interaction networks reveal pan-viral disease mechanisms" Gordon DE et al. Science. 2020-12-04/2020-10-15. https://doi.org/10.1126/science.abe9403
[注] PPI: protein interaction networks/タンパク質間相互作用

 ここ20年の内に新規なコロナウイルス3種類が致死性感染症を広げた。SERS-CoV-1 (2002年以来の重症急性呼吸器症候群), およびMERS-CoV (中東呼吸器症候群ウイルス, 2012年 ~), および2009年からのSARS-CoV-2である。

 Quantitative Biosciences Institute (QBI) COVID-19 Research Group (QCRG)を中心とする200名の共同研究グループは今回、SARS-CoV-2タンパク質群と宿主であるヒト細胞のタンパク質の間のPPIs (Nature 2020-04-30  [*1])に加えて、SARS-CoV-1とMERSについてもウイルスと宿主因子のPPIsを同定し、比較解析を進めた [*2; *3]2020-12-08 15.51.22
[*1] crisp_bio記事 [20200504更新] 新型コロナウイルスとヒトのタンパク質間相互作用マップから、承認薬の標的になり得る宿主因子が見えてきた]。
[*2] 論文のグラフィカルアブストラクトを右図に引用
[*3] PPIネットワークの対話型検索閲覧システム Webサイト

 細胞内共局在も測定考慮して同定したSARS-CoV-2, SARS-CoV-1, ならびにMERS-CoVタンパク質と相互作用する宿主因子群そはそれぞれ、389種類, 366種類, および296種類の規模になり、3種類のウイルスに共通な因子群を同定した。その中には相同性が低いがネットワークの中で共通の機能を担っていると思われる一連の因子が含まれていた。

 続いて、ACE2を安定発現させたA549細胞とCaco-2細胞を対象として、それぞれ、siRNAノックダウン (KD)とCRISPR/Cas9ノックアウト (KO)により、SARS-CoV-2と相互作用する宿主因子群 (ウイルス感染を亢進する因子群と抑制する因子群)をスクリーニングし、その欠損がSARS-CoV-2の複製を顕著に抑制する宿主因子73種類を特定した。その中で、
TOM70, IL17RA, PGES-2, およびシグマ受容体 (SigmaR1)を選択して、詳細な解析を進めた。

 ミトコンドリアタンパク質輸入受容体の一種であるTOM70とSARS-CoV-2タンパク質のOrf9bとの複合体構造を、クライオ電顕法で再構成 [*4]したところ、ORF9bが宿主の免疫応答を調節する機構が見えてきた。また、GWASのデータを参照することで、結晶中のIL17RAレベルが高いとCOVID-19の重症化のリスクが低いという相関が見えてきた。
[*4] 7KDT/EMD-22829 Human Tom70 in complex with SARS CoV2 Orf9b [2020-10-14公開/2020-11-04更新]

 こうして治療標的として優先順位が高いと推定できた宿主因子を標的とする薬剤を投与されたSARS-CoV-2患者のデータと、その薬剤に類似しているがSARS-CoV-2を阻害しない薬剤を投与されたSARS-CoV-2患者のデータを比較し[*5]、PGES-2を標的とする非ステロイド性抗炎症薬の一種であるインドメタシンと、シグマ受容体と相互作用する抗精神病薬の一種が有意に有効であることを見出した [Fig. 9参照 ]。
[*5] COVID-19感染738,933例から抽出