[出典] "Gene Regulatory Network Analysis and Engineering Directs Development and Vascularization of Multilineage Human Liver Organoids" Velazquez JJ, LeGaw R [..] Ebrahimkhani MR. Cell Systems. 2020-12-07. https://doi.org/10.1016/j.cels.2020.11.002

 ヒトの組織発生の多細胞モデルとしてオルガノイドを多能性幹細胞 (PSC)から分化誘導することが可能になったが、in vitroでの形成は、成熟までに至らない、細胞運命が異常になる、一部の細胞型が実現しないといった課題を解決を抱えている。成熟については、モデル動物に移植することで促すことができるが多大な時間とコストを要する。

 University of Pittsburghを主とする研究グループは今回、先行研究でPSCからGATA6 をベースとする技術でヒト胎児肝オルガノイド (Fetal Liver Organoid: FeLO)の自己組織化を実現したが、成人肝組織までには至らなかった。

 研究グループは今回、FeLOsにおける遺伝子調節ネットワーク (gene regulatory networks: GRNs)と成人ヒト肝臓のGRNsとを、CellNetを利用して比較解析し [論文Fig. 1-A参照]におけるGRNs、その結果に基づいて、成人肝臓オルガノイドの実現に向けてGRNをリプログラムする戦略を立て、実行し、in vitroでの肝臓への成熟と血管網の形成を実現し、これを、デザイナー肝臓オルガノイド (Designer Liver Organoid: DesLO)と称した。
[注] 実験研究の全体像について論文のGraphical AbstractFig. 1を参照
  • GRNのリプログラムは、PROX1 ATF5 の過剰発現にCRISPRaによる内在CYP3A4 の転写活性化を組み合わせることで実現した。
  • scRNA-seq解析によれば、DesLOは肝細胞, 胆管細胞, 内皮細胞, および星細胞 - 様 (-like)の多細胞集団で構成されていた。
  • GRNをリプログラムしたこのDesLOは、これまでのPSCsに成長因子を順次加えていくだけの手法で形成した肝オルガノイドと比べて、成人肝組織により近い特性を示した。
  • GRNsのリプログラムによって、FXRシグナル伝達、CYP3A4代謝酵素活性、および間質細胞の反応といった機能が改善された。
  • 一方で、高レベルの尿素生産またはCYP2C19活性化の実現には至らず、成人肝組織を完全に再現するために今後、GRNのリプログラミングと評価を繰り返し、また、組織培養の技術を組み合わせていくことになる。
[関連crisp_bio記事]
  • crisp_bio 2020-12-05 [プロトコル]ヒト肝臓由来オルガノイド2種類の樹立とCRISPR-Cas9による遺伝子ノック・イン/アウト;  "Establishment of human fetal hepatocyte organoids and CRISPR–Cas9-based gene knockin and knockout in organoid cultures from human liver" Hendriks D, Artegiani  B [..] Clevers H. Nat Protoc 2020-11-27.