2021-12-17 サナテックシード社がCRISPR技術で作出した高GABAトマトを,Nature Biotechnology 誌が,NEWS記事で「初のCIRPS編集食品市販」として取り上げた.
[出典] "GABA-enriched tomato is first CRISPR-edited food to enter market" Waltz E. Nat Biotechnol. 2021-12-14. https://doi.org/10.1038/d41587-021-00026-2
 ニュース記事は,米国,中国,韓国,欧州などにおけるゲノム編集植物の研究開発と規制の状況と共に,サナテックシード社の家庭菜園への提供から浸透させていったことや,「高GABA」をキーワードとしたマーケッティング,に相当の段落を割いており,GABAの健康効果については「コンセンサスがない」とする専門家のコメントも引用している.
 また,ゲノム編集作物に関する日本の規制方針が,サナテック社のトマトの審査と同時進行で形成され,そのプロセスには約1年かかったが,日本政府が遺伝子編集作物を市場に出すことができるように政策を推進した結果に至ったことで,サナテック社の最高技術責任者の江面宏筑波大学教授を高く評価するコメントも引用している.
 なお,GABA高蓄積トマト「シシリアンルージュハイギャバ」は,9月から消費者に直接販売されるようになったとされている.

2021-10-11 ゲノム編集作物の商品化に向かう米英の動向と,ゲノム編集を加えたマダイや大腸菌の商品化に関する情報を追記し,記事タイトルを「初のゲノム編集食品 (トマト)流通へ」から「初のゲノム編集食品 (トマト)流通へ」 - ゲノム編集商品の広がり」へ改訂

1. 英国,CRISPR技術による低アスパラギン小麦系統の開発研究を開始
NEWS IN BRIEF "UK trials first CRISPR-edited wheat in Europe" Nat Biotechnol 2021-10-07. https://doi.org/10.1038/s41587-021-01098-w
 小麦に含まれるアスパラギンは,パンを焼いたりトーストしたりすると発癌性物質であるアクリルアミドに変化するとされている.英国規制当局は,CRISPR技術を用いて遺伝子編集された小麦の実地試験(5年間を予定)を英国内で初めて許可した.研究室では,アスパラギン合成酵素遺伝子TaASN2をノックアウトすることで,穀粒中のアスパラギン濃度が90%以上減少することが実証されている.現行のEU規則では,ゲノム編集作物は遺伝子組み換え作物 (GMO)と同じ扱いになっているが,4月に欧州委員会が遺伝子組み換え生物に関する規則の見直しを開始し,ゲノム編集技術を用いた作物に対する規制が緩和される可能性が出てきたという.
[crisp_bio注] ブレグジットを経て,英国はもはや欧州ではないが,欧州はゲノム編集作物のマーケットではある.
2. 米国,Pairwise とPlant Sciences Inc (PSI), ベリーの新品種共同開発へ
NEWS "Pairwise, Plant Sciences to bring new varieties of berries to US" Fruit Growers News. 2020-04-15.https://fruitgrowersnews.com/news/pairwise-plant-sciences-to-bring-new-varieties-of-berries-to-us/
 PairwiseがCRISPRゲノム編集技術を提供し,PSIが遺伝子資源を提供し,味だけでなく長期保存と年間を通しての供給を追求する.
3. 米国,高オレイン酸大豆から生産した高品質な食用油と家畜用飼料原料の販売を開始
PRESS RELEASE "First Commercial Sale of Calyxt High Oleic Soybean Oil on the U.S. Market" Calyx 2019-02-26 https://calyxt.com/first-commercial-sale-of-calyxt-high-oleic-soybean-oil-on-the-u-s-market/
 TALENゲノム編集技術を介して開発しhたCalyno™ High Oleic Soybean Oilは,市販の大豆油と比較して,80%のオレイン酸を含有し,飽和脂肪酸は最大で20%少なく、1食あたりのトランス脂肪酸は0グラムであり,また,保存期間が長い (最大で3倍).
4. 2021-09-18 ゲノム編集食材,トマトに続いてマダイ販売開始へ.https://crisp-bio.blog.jp/archives/27446686.html
5. 2021-12-14 ゲノム編集技術Target-AIDでDNA型転移因子の活性を抑制したホスト大腸菌商品化https://crisp-bio.blog.jp/archives/25027614.html

2020-12-12
初稿
[出典]
  1.  "ゲノム編集トマトの流通が現実に まず家庭菜園用から供給" 有機農業ニュースクリップ. 2020-12-11.  
  2. "ゲノム編集食品の動向と高GABAトマトの 開発・実用化について" 江面浩. 野菜情報. 2020年1月号.  [PDF]
  3. "Efficient increase of γ-aminobutyric acid (GABA) content in tomato fruits by targeted mutagenesis" Nonaka S [..] Ezura H. Sci Rep. 2017-08-01. https://doi.org/10.1038/s41598-017-06400-y
 サナテックシード社のゲノム編集高GABAトマトが厚労省・新開発食品調査部会遺伝子組換え食品等調査会によって、遺伝子組み換え食品 (GMO)ではなく、ゲノム編集食品に中でも「届出」に相当すると判断したニュースは、一般紙などでも広く報道されたが、有機農業ニュースクリップの記事 (全文公開)から最も詳細な情報が得られると思われる[1]

 また、開発をリードしてきた筑波大学江面 浩教授による高GABAトマトに関する解説が、
2020年1月に、独立行政法人の農畜産業進行機構が発行する"野菜情報"に掲載されている [2]。この解説には、ゲノム編集が品種改良技術の一つであること、ゲノム編集作物開発の国内外の動向、高GABAトマトの開発、高GABAトマトの実用化 (ゲノム編集作物の届出と表示; ゲノム編集技術の基盤的知財への対応; ゲノム編集作物の社会受容の向上)について、必要十分な情報が分かり易くまとめられている [注: Web版よりも、7ページにわたるがフォントサイズが大きいPDF版の方が読み易い]

 2017年のScientific Report 論文 [3]では、トマトに内在するGABAの生合成の鍵酵素グルタミン酸デカルボキシラーゼ (GAD)5種類のうち、トマト果実の結実期に機能するSlGAD2SlGAD3 の自己抑制ドメイン (autoinhibitory domain)の直前に、CRISPR-Cas9システムを介してストップコドンを誘導することで、GABAの蓄積を7~15倍向上させた成果が述べられている。

 中でも、SIGAD3 の自己抑制ドメインの直前にストップコドンを誘導した結果得られる"自己抑制ドメインが位置するC末端が欠失したSIGAD3"によって、GABAの蓄積量が十分向上し、高品質なトマト果実が得られ、また、この手法は、イネなど他の作物にも展開可能であるとされていた。