2021-02-09 伝播性と重症化に関して、2月7日付けの米国からの論文と1月22日付の英国機関からの報告を紹介したcrisp_bio記事へのリンクを以下に追記:2021-02-09 「新型コロナウイルス:英国変異株の伝播性と重症化に関するデータが蓄積されてきた」https://crisp-bio.blog.jp/archives/25539314.html
2021-01-30 crisp_bio 2021-01-29 新型コロナウイルス: 英国変異株と南アフリカ変異株の傾向と対策 (6報)へのリンク追加 https://crisp-bio.blog.jp/archives/25441681.html
2021-01-24 [参考] 忽那賢志「国内で経路不明の感染例も イギリスの新型コロナ変異株の現在の状況は?」Yahoo!ニュース 2021-01-23 13:17 へのリンクを追加 https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210123-00218979/
流行状況、特徴および日本への影響が分かりやすくまとめられている。また、ジョンソン首相の「変異株の致死率が高い可能性」発言に言及されているが、「今後の報告が待たれます」としている。
流行状況、特徴および日本への影響が分かりやすくまとめられている。また、ジョンソン首相の「変異株の致死率が高い可能性」発言に言及されているが、「今後の報告が待たれます」としている。
英国変異株に加えて南アフリカ変異株とブラジル変異株の伝播性, 免疫回避性, 再感染については、1月21日Nature誌がNEWS記事で、1月22日Science誌がIN DEPTH記事で取り上げたが、crisp_bioは「変異の生物学的意味が確定されるに至っていない」と解釈している。
- NEWS "Fast-spreading COVID variant can elude immune responses - Evidence that a variant of the coronavirus identified in South Africa might compromise immunity sparks concerns about vaccine effectiveness." Callaway E. Nature 2021-01-21; 南アフリカ変異株と英国変異株に対するCOVID-19回復者とワクチン接種者に由来する血清/抗体の活性など. https://doi.org/10.1038/d41586-021-00121-z
- IN DEPTH "New mutations raise specter of ‘immune escape’" Kupferschmidt K. Science 2021-01-22. 2021-01-22. ブラジル変異株にも言及. https://doi.org/10.1126/science.371.6527.329
2021-01-10 ファイザー/ビオンテックのmRNAワクチンは、N501Y変異株にも有効である
この項の投稿は2021-01-11に、独立の投稿へと移行しました: crisp_bio 2021-01-11 新型コロナウイルス:ファイザー/ビオンテックのmRNAワクチンは、N501Y変異株に有効である https://crisp-bio.blog.jp/archives/25278120.html
2021-01-03 英国変異株の伝播力に関する英国研究グループからの報告を以下に引用し、国立感染研究所の関連記事へのリンクを追加
1. "Report 42 - Transmission of SARS-CoV-2 Lineage B.1.1.7 in England: insights from linking epidemiological and genetic data" MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis. 2020-12-31 (日本, 中国、スペイン、フランス、イタリア、およびアラブの各言語への翻訳が予定されている).https://www.imperial.ac.uk/mrc-global-infectious-disease-analysis/covid-19/report-42-sars-cov-2-variant/; PDFダウンロードhttps://www.imperial.ac.uk/media/imperial-college/medicine/mrc-gida/2020-12-31-COVID19-Report-42-Preprint-VOC.pdf
英国で夏から秋にかけて発生したとされるSARS-CoV-2の変異系統B1.1.7は英国公衆衛生庁 (Public Health England)によってVOC (Variant of Concern/注視すべき変異)と認定されVOC-202012/01と称されるに至った。
Imperial College London, University of Edinburgh, Public Health England, Wellcome Sanger Institute, University of BirminghaならびにThe COVID-19 Genomics UK (COG-UK) コンソーシウム [*]からなる研究グループは、コミュニティーをベースとした検査によって得られた完全ゲノム配列データと疫学データをベースとしたモデリングから、VOC-202012/01系統がそれ以外の系統よりも伝播力が強い(再生産数比にして1.4~1.8倍)という結論に達した [*crisp_bio注: 日本にも, 各地で分離されるSARS-CoV-2のゲノム解析を迅速に進める機関横断型のコンソーシウムが存在するのだろうか]。
また、VOC-202012/01変異系統への感染グループにおいて19歳以下の感染者数が占める割合が、それ以外の新型コロナウルス感染グループよりも高いことも見えてきた。
[注] VOC-202012/01の23ヶ所の変異の一つがS遺伝子での69-70アミノ酸残基の欠損である。VOC-202012/01はこの変異を介して、S遺伝子を検出するPCR検査を潜り抜けて偽陰性の判定をもたらす。これをspike gene target failure (SGTF)と称するが、英国研究グループの解析には、SGTFと非SGTFのデータも活用された。
2. 国立感染症研究所 「感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について (第4報) 」2021-01-02. https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10090-covid19-30.html
2020-12-30 "COVID-19ワクチン に関する提言 - 第1版" 日本感染症学会ワクチン委員会 2020-12-28: PDF https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2012_covid_vaccine.pdf
[注]この項は2020-12-30に、他の情報を加えた別記事へと移動しました:
crisp_bio 2020-12-30 新型コロナウイルス: ワクチンに関する雑感と専門家からの情報
2020-12-29 mRNAワクチンとウイルス感染症 [crisp_bioの雑感]
[注]この項は2020-12-30に、他の情報を加えた別記事へと移動しました:
crisp_bio 2020-12-30 新型コロナウイルス: ワクチンに関する雑感と専門家からの情報
2020-12-25 NHKニュース [*]によると、田村厚労省大臣が「12月21日に羽田空港と関西空港にでの検疫で陽性であった5名のウイルスのゲノム配列が、英国変異株のそれと一致; いずれも英国から帰国; 4名には症状がなく1名には倦怠感; ホテルに宿泊し3日後に再検査の予定」などと発表した。
2020-12-22 17:00 初稿テキスト中の"N501Y (メチオニンからチロシンへの変異)を、ご指摘あり、N501Y (アスパラギンからチロシンへの変異)に修正いたしました。
2020-12-22 欧州疾病予防管理センター(European Centre for Disease Prevention and Control)からの12月20日付の資料を出典に追加; 本文中の「この変異株について分かっていることは?」と「この変異株はどこから来たのか?」の項に追記
2020-12-21 BBCの最新報道を引用し、ブログ記事タイトルを「新型コロナウイルス:英国の保険・社会福祉相が示唆した新たな変異と感染性の相関にはエビデンス無し」から「新型コロナウイルス:英国変異株の変異と感染性の因果関係のエビデンスはこれから」に改訂
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[出典] "New coronavirus variant: What do we know?" Gallagher J. BBC News. 2020-12-21. https://www.bbc.com/news/health-55388846; "Rapid increase of a SARS-CoV-2 variant with multiple spike protein mutations observed in the United Kingdom" Threat Assessment Brief. European Centre for Disease Prevention and Control 2020-12-20.
ロンドンを含む英国南東部が12月20日からロックダウンに入り、他国が英国からの入国制限を始めた。新型コロナウイルス感染の急拡大のためであるが、この拡大は新たな変異株と相関し、英国政府のアドバイザーは「他の株よりは感染性が高いことに"moderate" confidenceを抱いている」と発言した。
なぜこの変異株が問題なのか?
・変異が、ヒト細胞受容体ACE2に結合するスパイクタンパク質に起きている。
・ラボでの実験から変異株の感染性を高いという結果が得られた。
ロンドンを含む英国南東部が12月20日からロックダウンに入り、他国が英国からの入国制限を始めた。新型コロナウイルス感染の急拡大のためであるが、この拡大は新たな変異株と相関し、英国政府のアドバイザーは「他の株よりは感染性が高いことに"moderate" confidenceを抱いている」と発言した。
なぜこの変異株が問題なのか?
- 3つの事象から、この変異株 (H69/V70)の感染性が高いとして注目を集めた:
・変異が、ヒト細胞受容体ACE2に結合するスパイクタンパク質に起きている。
・ラボでの実験から変異株の感染性を高いという結果が得られた。
- しかし、 最近まで規制が緩かったロンドンから'偶然'拡散したという可能性を否定できず、"absolute certainty"を抱くには至らないとしている。それではなぜロックダウンしたのか。COVID-19ゲノミクス・英国コンソシーウムのNick Loman教授は「感染爆発の状態では、肯定にしろ否定にしろ、確信がもてる実験結果が整うまで、待っていられない」とした。
- ジョンソン首相の「変異株は感染性を最大70%あげた」という発言は、Imperical College LondonのErik Volz博士の講演に基づいているが、同じ講演で博士は「(断定するには)時期尚早」と発言している。また、U NottinghamのJonathan Ball教授は、「これまでに公表されたデータから感染性を判定するのは時期尚早」としている。いずれにしても、感染拡大の原因として、人々の行動とウイルスの特性とを切り分けることは簡単ではない。
- 変異株は、北アイルランドを除く英国全体に広がっているが、特に、ロンドン、南東部および東部に集中している。
- WHOはオーストラリア、デンマーク、イタリア、アイスランドおよびオランダで発見されたとしている ["SARS-CoV-2 - United Kingdom" WHO Disease outbreak news 2020-12-21]。
- 英国変異株と共通の変異 (N501Y)を帯びた変異株が南アフリカで発見されているが、互いに独立に発生したと考えられる。
- 新型ウイルスは、武漢で初めて認識されて以来世界中に広がったが、現在、世界各地にみられる株のゲノム配列は、自然発生する変異を経て、ゲノム配列が武漢株と完全に一致する株は無い。
- 武漢株に対して、2月に欧州で発生したD614G変異 (参考 crisp_bio記事)が、世界各地域で優勢になっている。
- 欧州で広がったA222V変異は、スペインでの夏のバカンスに紐づけられている。
[記事の引用文献] "Preliminary genomic characterisation of an emergent SARS-CoV-2 lineage in the UK defined by a novel set of spike mutations" COVID-19 Genomics Consortium UK (CoG-UK)
B.1.1.7と命名された変異株はこれまでになく多数の変異を帯びており、特に、スパイクタンパク質に多数の変異が存在する。その中で、3種類のアミノ酸変異がウイルスの特性を変えた可能性がある。
B.1.1.7と命名された変異株はこれまでになく多数の変異を帯びており、特に、スパイクタンパク質に多数の変異が存在する。その中で、3種類のアミノ酸変異がウイルスの特性を変えた可能性がある。
- N501Y変異 (Asn501Tyr; ゲノム上の23063の位置の塩基AがTへと変異):スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン (receptor-binding domain: RBD)に位置し、ヒトおよびマウスの受容体ACE2との結合親和性を高める
- H69/V70 (His69/Val70)の欠失:ヒト免疫応答を免れる効果から論じられているが、RBDにおける他の変異と高頻度で共存していることに留意することが必要 (ミンク感染SARS-CoV-2に見られたことで知られている変異) ; U CombridgeのRavi Gupta教授は、ラボでの実験では感染性を高め、また、COVID-19回復社に由来する抗体に対する抵抗性を高めることを示唆
- P681H (Pro681His)変異:フーリン切断サイト [*]に隣接している。[* crisp_bio記事から引用: Sタンパク質のS1サブユニットとS2サブユニットの開裂部位に、他のCoVに対して、独特な塩基性の"RRAR"配列、フーリン開裂配列[Arg-X-X-Arg]配列、が存在し、カルシウム依存セリンエンドプロテアーゼであるフーリン (FURIN)などのヒト細胞内在プロテアーゼによって効率的に開裂され、ひいては、宿主細胞の範囲を広げまた宿主細胞への感染能を高めることが示唆された]
- 23件の塩基変異または欠失のうち、アミノ酸を改変および欠失させる塩基の変異および欠失と対応するアミノ酸変異17件が引用文献のTable 1に掲載されている (スパイクタンパク質には8件見られる: H69V70削除, Y144削除, N501Y, A570D, P681H, T716I, S982A, およびD1118H)。
- crisp_bio 2020-07-18 新型コロナウイルス: スパイクの天然変異80種類と26ヶ所のN結合型糖鎖削除が感染性と抗原性をどう変えたか?
- [20201218更新] 新型コロナウイルスのスパイク(S)タンパク質D614G変異体の構造・機能解析
この変異株はどこから来たのか?
- 23件の変異は、SARS-CoV-2の変異がゲノム全体で1ヶ月あたり概ね二回発生するとされていることから、武漢株に比べて高頻度な変異が発生したことを示唆する。また、直近の変異株とB.1.1.7株をつなぐ中間的な変異を帯びた変異株は見出されていない。
- デンマークとオランダでミンクに感染しミンクにおいて変異*を蓄積しヒトに再感染したと思われる事例が報告されているが、B.1.1.7株では動物経由の変異蓄積の可能性は低い。[* RBD変異Y453Fと69-70アミノ酸欠失]
- 現時点では、回復者血清で治療された免疫不全の患者体内において、変異が蓄積された変異株が漏れ出した可能性が最も高い。
- 現時点はそのエビデンスは無いが、今後、注視していく必要はある。
- また、重症化しないとしても、感染者数が増加すれば、病院への負荷が増すことに留意が必要である。
- ほぼ間違いなく, 有効である ("almost certainly yes")、少なくとも現時点では。
- ただし、感染が広がれば広がるほど、変異が蓄積される確率が高まる。ウイルスの変異が蓄積されていけば、ワクチンを回避可能な変異株が生まれる確率が高まる。
2020-12-16 初稿
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ロイター(日本語版)によると、2020年12月14日に英国のMatt Hancock保健・社会福祉相が、「イングランド南東部を中心に1000人超が新型コロナの変異株に感染したことが確認された」と述べ、変異株の感染性が高い可能性を示唆した: https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-britain-london-idJPL4N2IV03I
これに対するWHO、英国のCOG-UK、および英国の専門家の見解を以下にメモした:
WHO
- ロイターによると、WHOは「英国の新型コロナ変異種、従来型と異なる証拠ない」という見解を出した: https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-who-idJPKBN28O2RZ
COG-UK (COVID-19 Genomics UK Consortium)
- 話題になっている変異は、SARS-CoV-2のスパイク (S)タンパク質の受容体結合ドメイン (RBD)におけるN501Y変異 (アスパラギンからチロシンへの変異)を含む複数の変異である。感染性との関連は分析中であり、また、現時点で重症化に関連するエビデンスはない、と12月14日に発表した: "Update on new SARS-CoV-2 variant and how COG-UK tracks emerging mutations" COG-UK 2020-12-14. https://www.cogconsortium.uk/news_item/update-on-new-sars-cov-2-variant-and-how-cog-uk-tracks-emerging-mutations/
Science Media Centreに寄せられた専門家の見解
- 健全なサイエンスコミュニケーションの実現を目指している英国のScience Media Centreに、主として英国の専門家の意見が多数寄せられているが、概ね「冷静な受け止め」を求めている: "expert reaction to the new variant of SARS-CoV-2 " Science Media Centre. 2020-12-14. https://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-the-new-variant-of-sars-cov-2/
[crisp_bioメモ]
- 新型コロナウイルスを含むコロナウイルスは"意味もなく"変異を繰り返していく。
- 特定の変異が特定の地域に"意味もなく"広がる場合もある。例えば、一人のスーパースプレッダーからネズミ算のように感染が広がるなど。
- 新型コロナウイルスを含むコロナウイルスのゲノムはRNAであるが、増殖に必要な複製の段階でのコピーミスを修復する酵素を備えていることから、他のRNAウイルスよりも変異の頻度が低い。[* ~29,900塩基の長さのゲノム全体で年に24ヶ所程度, 月にして2ヶ所程度の塩基が変異するようである [以下のWebの数字から換算: Genomic epidemiology of novel coronavirus - Global subsampling, https://nextstrain.org/ncov/global?l=clock (2020-12-16時点)]。
- これまでに同定された変異は1万種類を超えたが、感染性や重症化との因果関係が確立された変異はまだ認められておらず、また、変異は必ずしもワクチンや中和抗体を無効にするわけではない。
- [新型コロナウイルスの変異に関する参考資料] NewS FEATURE "The coronavirus is mutating — does it matter?" Callaway E. Nature. 2020-09-16. https://www.nature.com/articles/d41586-020-02544-6
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